30話 常識と変態の狭間で
「かーっかっかっか! 我が力が復活しイカ野郎をともに倒し、南海の支配権を手に入れた暁には、遺跡へご招待をしてやるぞ。なに? 呼吸ができぬだと? 貴様は我をなんだと思っておるのだ! そこはそれ真の力を取り戻した我であれば、魔法の泡的なもので水圧も酸素も心配無用だからな」
「あんたすげぇよ……マジで王だわ」
本心が口からこぼれてしまった。
海の底に眠る手つかずの遺跡である。
どんな発見が待っているかもしれない。
気をよくしたのかネプトゥは顎をあげ、腰を後ろに反るように曲げて、ふんぞり返って笑う。
「ぬーっしっしっし! ついでに貴様の仲間の船だけは航路の安全を保証してやろう。船で行き来する際にはフライドチキンを山ほど用意しておくのだぞ!」
「へへー! 大海王ネプトゥ様の仰せのままに!」
俺は跪いた。変な笑い方にツッコミを入れるのも無粋である。
クラーケン撃破で良いことずくめじゃないか。
利用しない手はない。
さて――
航路独占で莫大な富を生むことも可能だが、もし南海を征したなら海賊船以外のすべての商船が自由航行できるよう航路を解放しよう。
最近思ったのだが、お人好しだのと言われるのは案外気持ちが良いことなのだ。
ギルドに顔を出すだけで、いろんな冒険者から声を掛けられるようになった。
正直、悪い気はしない。
航路を拓けば、人と人とのつながりも拓けてくる気がする。
打算的な部分ももちろんあるが、誰かの役に立つのはいいことだ。
ともあれ航路解放を成功したならば、ネプトゥを祀る祠を建てて、フライドチキンを供物に捧げる。これで彼女も航路の守り神として人間に慕われる存在になり、この変態海王も本当の意味での王になるだろう。というか、そうなれ!
と、願った矢先に――
「ただいま戻りました! って、ドルテさん土下座ですかッ!?」
すべての買い物を終えて、あっという間にクレスが戻ってきた。100メートルを五秒とかで駆け抜けてそうだぞこいつ。
俺は土下座状態から何事もなかったように立ち上がり、クレスに「今のは目の錯覚だ」と告げた。
「じゃあじゃあ、ふんぞり返るネプトゥちゃんをローアングルで狙っていたんですね!」
ネプトゥが頬を赤らめ「そうだったのか。眼鏡よどうやら貴様も、こちら側だったというわけだな……このむっつり! どすけべ! ウエルカムトゥロリコンワールド!」と、何やら一人納得している。
迎え入れるんじゃねぇよ! 断じて変態の仲間入りをした覚えは無い。
ヨシ! クレスに何を買ったか確認しよう。
「で、首尾の方はどうだ?」
「守備力ですか? 剣士だからばっちりです」
「俺の言い方が悪かった。もう少しわかりやすく言うとだな……三つの仕事は最後までこなせたか? って話なんだが」
クレスは自信たっぷりに頷いた。
上下する胸の水蜜桃も自信満々にたっぷんと揺れる。
「もちろんですとも! お魚はちゃんとギルドに出して、依頼完了の手続きもしました! ドルテさんが言ってたとおり、鮮度が落ちた分ちょっぴり報酬減っちゃいましたね」
「おお、そうか。ちゃんとやりとりができたようで一安心だな」
クレスが想定したことを想定通りにこなせたことの方が、多少の減額よりも価値があると思う。
嬉しそうにピンクのポニーテールが揺れ続ける。
「それからそれから古着市で可愛いピンクのフリフリワンピース見つけちゃいました! 一式まとめて予算内です! 釣りはとっておけっていったら、全部うまくいきました!」
買い物のしかたが豪快すぎる。が、彼女らしい。
と、思う一方で、ロリータ趣味全開の服を選ぶとは……クレスの可愛いの基準は少女趣味のようだ。
「お前、こういうのが好きなのか」
「え、あの、じ……自分で着るとちょっと身体のラインとか筋肉とかで、せっかくの可愛い服がかわいそうだから……けど、ネプトゥちゃんならばっちり似合うと思って!」
自信家なのに、こういったところで謎のしおらしさはあるんだよなぁ。
ネプトゥと話してわかったが、クレスはアホの子脳筋なところはあるものの、かなりまともなのかもしれない。
いや、まともってなんだ。俺の中で常識的という言葉の水準が極めて甘くなってないか?




