21話 ここからリスタート
冒険者ギルドに持ち込まれる依頼には、依頼主から直接オファーというものもある。
ランキングトップ10位圏内になると依頼を選べるようになるのだ。
トップ5のパーティーともなれば、町に館のような拠点を構えており、割の良い仕事を優先的にギルド職員が届けてくれる。
打ち合わせなどもろもろを拠点で行うので、上位一桁パーティーがギルドに顔を出すことは稀だった。
掲示板をあさるうちは冒険者として半人前。
憧れの拠点生活。
それを守るために、実力者たちは名声値の高い依頼を独占するのである。
古代魔導文明の遺跡探索はどのような危険が待ち受けているかもわからないということで、普通の冒険者は受けるどころか、依頼リストを目にすることもない。
歴史に名を残す発見は、上位の冒険者にしか許されなかった。
ゴブリンやスライムやオークや狼を何百何千と倒そうと、百年経っても追いつけない。
そんな上位勢ですら避けて通る、悪名高き隻眼のファイアドレイク撃破による名声値が加算された結果――
「俺とクレスが10位なんですか?」
壮年のギルド支部長は執務室の椅子にゆったりと腰掛けて、柔和な笑みを浮かべた。
「フルパーティーでもないのに10位圏内入りとは、ラディアでは初の快挙だね。特にクレス君は先日冒険者登録したばかりだというのに、素晴らしい戦果だよ」
「そんなそんな滅相も無いです。良い先輩のお導きあってのことですから。ね? ドルテさん?」
少女はキラキラとした瞳で俺を見つめた。
「俺を持ち上げてもなんもでねぇからな」
「嬉しいときは素直に嬉しいですって言ってもいいんですよ? けど、奥ゆかしいところもドルテさんのいいところだから、あたしは許します」
「許しを請うた覚えはないんだが?」
この上から目線な後輩め。
「落ち着いてください。大丈夫です。ドルテさんなら必ずや、わき上がる怒りをコントロールしてきっと誰かに優しくできますから」
怒ってねぇよ。けどまあ、10位という順位に少しだけ気が立っていたのは事実だ。
「あの……支部長にお聞きしたいのですが、前の10位のパーティーは……どうなりましたか?」
「ああ、それなんだが正式に所属を王都のギルドに移したようで、こちらではもう把握しておらんのだよ」
支部長はあごひげを撫でた。
ランキングは都市ごとに行われる。王都のランキングはすべての冒険者たちが頂点をかけて争う最高峰だった。
なぜだろう。もうあんな連中のことなどどうでもいいのに、少しだけ……置いてけぼりにされた気持ちだ。
「そう……ですか」
支部長はゆっくり頷く。
「これからも君たちには期待しているよ」
クレスがグッと力こぶを作って見せた。
「ドルテさんの今後の活躍にご期待下さい!」
「お前もがんばるんだぞ」
「もちろんですよ!」
二人で支部長に一礼して執務室を出る。
ギルド上層階は人通りもなく廊下も静かなものだ。
ともあれ――
まさか上位ランカーに戻れるなんて、あの雨の日の夜の俺に言って信じてくれるだろうか。
しかもこんなにも早く。
隣でポニーテールをゆっさり揺らしながら「今日は何を倒します? 夕飯何にします? 肉倒してゾンビ食べます?」と、少女はわくわくそわそわとした様子だった。
「逆だろそれ。お前怖がりのくせに、また泣きながらゾンビと戦いたいのか?」
「あれ? あ! そうですね! 言われてみれば。よく気づきましたねドルテさん。わたしって怖いのだけは苦手なんですよ」
「あと数字もな」
「まぁまぁそれくらいにして。すばらしいドルテさんには気づき王の称号をあげましょう」
「いらんわ!」
「さあ王様! 今日もバリバリ働きますよ!」
おひさまのようにあっけらかんとした笑顔に、こっちの毒気は抜かれっぱなしだ。
「なあクレス。お前はこのまま俺とパーティーを組んで、その先にやりたいこととか目的はあるのか?」
「暗算マスターしたいので勉強をおしえてください。あと魔法も使えるようになりたいです」
「暗算は俺じゃなくてもおしえられるが、魔法は俺の分野だな。しかし適性がないとちぃとばかし難しいと思うぞ」
稀に剣も魔法も極める英雄がいるのだが、そこはそれ。
あれ? もしかしてクレスって魔法もおしえたらさっくり覚えられるんじゃなかろうか。
こいつの基礎能力の高さは人間離れしているし。
ためしてみるか?
「ちょっといっしょに中庭に来い」
「え!? いいんですか? やたーやたーばんばんじー!」
ばんばんじーってなんだよ。
しかしまぁ、もし魔法剣士にでもなったらクレスは最強だ。




