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20話 もうこいつ一人で……いや一人にしたらやばいやつだ

 細かい仕事をこなす日々が続いた。


 町の地下道に発生した大量のスライムを駆除したり、渡り魔狼の大群から実りの森の動物たちを守ったり、北の廃墟を占拠してラディアに攻め込む前線基地を構築中だった、オークの威力偵察部隊を殲滅した。


 クレスは強い。間違いなく、今まで見てきたどの剣士よりも……いや、冒険者の中でも群を抜いている。


 もう、彼女一人でいいんじゃないか。


 何度も口をついて出そうになったが、そのたび呑み込まざるを得ないほど、彼女は率直に言ってアホ行動を連発するのである。


 火炎弱点ながら物理耐性持ちのスライムを剣で切っては「全然切れません! っていうか切ると戻るし! あと、あたしとキャラかぶってるのが個人的に許せません!」と、おっぱいキャラである自覚をみせつつ、クレスはスライムに捕獲されて全身くまなくヌルヌルの触手責めにあった。

 それはもう濡れ濡れピチピチである。


 彼女もろとも火炎魔法で焼いたのは良い思い出だ。もちろん、炎の中から立ち上がり「いっしょに焼くなんてひどいじゃないですか!」と、涙ながらに訴えられたことをここに記す。


 そのあとは隻眼のファイアドレイクにトドメを刺したあとで、クレスの剣が刀身を炎で浄化したのを思い出し「ちょっと剣に炎を纏わせるイメージをしてみろ」とアドバイスしたところ……彼女はあっさりその技を習得。


 火炎斬りマシーンとなって大暴れである。


 クレスは「才能を見いだしてくれてありがとうございます! 一生ついていきます!」と、先ほど俺に焼かれたこともけろっと忘れて喜んだ。


 やれと言われてすぐにできることじゃないんだが……。


 森を襲った魔狼にクレスは「犬をしつけるの剣の次に得意なんで任せてください!」と、お手を仕込もうとした。魔狼の群れに囲まれて全身ベロベロなめ回されて逆切れし、魔狼絶対に殺すウーマンになったのも、良い思い出である。こいついつもエロい目にあってんな。


 オークの前線基地に侵入した際のこと――やつらのラディア襲撃計画書類を盗み出すはずが、正面から「やーやーあたしこそはラディアに名高い最強魔導士ドルテさんの一番の仲間の剣士クレスちゃんです! 全員まとめてかかってこいこい!」と、オーク百人組み手で全員ねじ伏せて襲撃そのものを不可能にする無双っぷりである。


 ここではエロい目に遭わなかった。女騎士だったら危ないところだと言えよう。


 ちなみに、俺がわざと何体かオークを逃がしたので、オーク軍本隊がクレスの存在を警戒してラディア進軍を諦めた……かもしれない。


 他にも別のパーティー(レンジャー&僧侶)とコラボして、肝試しWデートパーティー(?)なんてこともあった。


 仲間に僧侶がいてくれると気兼ねなく戦闘ができる。


 魔導士が使える回復魔法は、いわゆる吸命魔法なので対象から生命力を奪って己を回復させるものだった。これがアンデッドとはすこぶる相性が悪く、逆に命を吸われてしまう。


 僧侶の回復魔法があれば、俺も攻撃に集中できるのだ。

 

 そんなわけで、西の墓地のアンデッド討伐を楽しみにしていたのだが……ビビリなクレスが恐怖にむせび泣き叫びながらリビングデッドを切り刻むという、別の意味で怖い展開となった。


 全部彼女が片付けてしまい、俺の出番は無しである。コラボした相手はクレスの無双というか暴走というか絶叫を楽しんでくれたそうなので、それだけが救いだった。


 守りの護符作りが得意というクラフター系の冒険者に頼んで、矢が急所からそれやすくなるという風の護符を作ってもらったりもした。


 俺ばかりアクセサリーを作ってもらってずるい! とクレスは言うのだが、彼女の場合は飛んでくる矢を寸前でパッと! 掴んで無効化できるので、発動するか運頼りな護符よりも安全である。


 冒険者の敵はモンスターばかりではない。人間の悪党に対処することもある。


 そのとき受けたのは変装が得意な食い逃げ犯の確保だった。


 クレスにくれぐれも「捕縛するのが目的だから絶対に殺すな」と厳命し、彼女は剣を使わず素手で手加減して、腹一杯食べたばかりの食い逃げ犯に腹パンGR放出を成し遂げた。


 食い逃げだけはすまいと心に誓う俺である。報酬こそ少なかったが、町の酒場で働く人たちからたいそう感謝された。


 注目を浴びるのは性分ではないのだが、一目置かれるようになったと思う。


 クレスほど目立つやつの相棒をしていれば仕方ないか。


 今思えば、隻眼のファイアドレイクを倒した時に他の冒険者にごちそうしたのがきっかけだったと思う。


 クレスの無茶苦茶も全部が全部、悪いわけではない。


 とはいえ……限度がある。最近は自分の成長云々よりも、クレスをどう教育していくかで頭がいっぱいだ。


 もはや魔導士ではなく、彼女の行動を監視しつつ必要に応じてアイテムでサポートするアイテム士状態である。


 重量軽減効果のある大きな道具袋を追加購入したほどだ。スリムな魔導士のシルエットが台無しだが、以前に媚薬毒矢で失態をさらした反省から致し方なし。


 今日も今日とて道具屋で、回復ポーションやら解毒ポーションの補充である。


「ドルテさんって使うかもわからないアイテム買うの大好きですよね? 趣味なんですか?」


「俺はアイテム士じゃないんだぞ。ったく、誰のせいだと思ってやがるんだ。お前の行動をある程度事前に予測して、依頼の内容と照らし合わせて、あったらいいなを袋詰めしてるんだよ。俺一人なら、こんなにいらんわ!」


「アイテム士だけに相手無視はできせん……って、ちょ! ドルテさん今のあたしのだじゃれ聞きました? 何点くらいです?」


 得意げに胸を張り、ぷるんと上下させながら彼女はドヤ顔だ。


「わーすごーいおもしろーいクレスさんってユーモアのセンスと伸びしろしかなーい100点満点ー」


「ぼ、棒読みやめてくださいよ! 恥ずかしいじゃないですか?」


「だったらうかつなことは言うな」


 補充を終えて、このあとはギルドからの呼び出しがあったので二人で出向くことにした。


 そういえばちょうど、今日で隻眼のファイアドレイクを倒して一週間。


 名声値が反映されるタイミングだった。

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