18話 俺がリーダーやるしかねぇよなぁ……常識的に考えて
翌日――
俺はクレスと正式にパーティーを組んだ。
戦闘能力的にはクレスが上だが、パーティー全体のマネジメントや交渉能力などもかんがみた結果、リーダーは俺である。
クレスは「あたしは影のリーダーやりますから、表のリーダーはドルテさんですね!」と、嬉々として俺にリーダー権限を委ねた。
依頼の一斉更新があるメンテ日以降は、冒険者ギルドもほどほどの賑わいだ。
二人並んで掲示板とにらめっこしていると、彼女はムフーっと鼻息を荒らげる。
「なんかかっこよくないですか影のリーダーって」
「影のリーダーもなにも二人しかいないだろ。裏から操ろうというのかねクレスさんや」
「それはもちろんドルテさんをですよ!」
「ほほぅ。その情報を本人に白状してしまっていいのかな?」
「し、しまった! 高度な心理戦からの誘導尋問ってやつですね。さすがドルテさんです。はっはっは! 今のはドルテさんが敵の策略に引っかからないか、試していたんですよ! 内助の功ですね」
腕組みをしてなぜか満足そうにクレスはうんうんと頷いた。
「俺に知略で挑むなら、せめて暗算ができるようになってからにしてくれ」
「できなくたって生きていけます」
なんだその勉強嫌いな子供みたいなリアクションは。
「ほほぅ。言うじゃないか」
「証拠にほら、あたし今めっちゃいきいき生きてますし」
それはなクレスさんや……お前が規格外の戦闘能力を保有しているからなんだよ!
桃色のポニーテールを揺らして少女がつま先立ちになりながら、俺の顔をのぞき込んだ。
「あたしたちって、まさにコインの表と裏の関係ですね!」
「その例え多分間違ってるぞ。足りないものを補い合う関係っていうのなら……なんだろうな」
「うどんとスパゲティですね!」
東方麺類と西方麺類を並べるなら、似て非なる者だろうに。
「つーか、どっちも小麦粉じゃねぇか。ほらクレス仕事を選べ」
いくつかこちらでも当たりはつけたが――
「あっ! これ面白そうです。最近ゴブリンぶっとばしてませんし」
我がパーティーの仕事方針はこうだ。
難易度や報酬額ではなく、その日最初にクレスが気に入った依頼に挑戦する。
彼女に選んでもらうのには理由があった。
まだ俺はクレスの戦闘能力を把握できていない。
俺が少女剣士の戦闘力を想定し、難易度と報酬を天秤にかけて最良のクエストを選択する……ためには、まずクレスの力をもっと知らなければならない。
試行回数が重なれば連携の呼吸も合ってくるだろう。
「よし、じゃあゴブリン成敗といきますか」
クレスは力こぶを作って笑う。
「ゴブリンの頭蓋骨で盃を作ってオレンジジュースを飲んでやりますよ!」
怖い発想からのオレンジジュースやめて。
さて、ゴブリンといえば単体では弱くとも、群れを成せばやっかいな魔物である。
弱いからこそ集団で力を発揮するのは、パーティーを組んで戦う冒険者も同じだった。
だが、やつらには奪う知恵はあっても作り出す知恵というものがない。
エルフやドワーフに獣人族といった「人間とも組める種族」とは区別される、光無きものたちだ。
また他種族の女をさらい繁殖することでも有名で、生まれてすぐ母親を襲うなんて話もあるくらいだ。短命故に子孫を残す本能が強い。まさに童貞の敵である。
洞窟など彼らのテリトリーには罠が仕掛けられることが多い。巣窟に挑む下級冒険者の未帰還率が高いことから、最近では上級冒険者向けの案件になることもしばしばだった。
今回は、巣から這い出た連中を倒すだけなので、比較的簡単な部類の仕事と言えるだろう。
農場脇の牧草地が決闘の場となった。
相手はゴブリンパーティー。前衛にファイターが三匹、後衛にアーチャーが二匹。
数的不利だがこんな連中、隻眼のファイアドレイク討伐と比べるべくもない。
はずだった――
 




