17話 英雄をたたえよう!(有償)
「はぁ?」
「な、なんでもないですよ! じゃあお金もいっぱいありますし、ぱーっとやりましょう!」
言うなりクレスが依頼掲示板前に集まった冒険者たちに告げる。
「今日はあの隻眼のファイアドレイクを討伐した未来の大魔導師ドルテさんが、戦勝記念にみなさんに一杯どころかいっぱいごちそうしてくれるそうです!」
こちらを指さしクレスがとんでもないことを口走った。
冒険者たちの目の色が変わる。
「午前中から人の金でただ飯ただ酒にありつけるだとおおおおお!」
「ひゃっはあああああ! こいつはたまらねぇぜ!」
「ドルテってあのドルテなのか!? パーティーに捨てられたんじゃ……」
「ごちになりやーす! ごちになりやーす! いやぁえっへっへドルテさんって実はすごい人だって、あたしゃ思ってたんですよぉ」
有象無象が俺の方にやってきて、胴上げしながらギルド併設の酒場へと俺を運ぶ。
「い、いや俺はその……」
倒したのはクレスだ。クレスはというと、いつの間にやら俺を胴上げする輪に加わっていた。
「わーっしょい! わーっしょい! ドルテさんの純白金貨にみなのものひれふせー!」
「「「「「「「わああああああああ! ド・ル・テ! ド・ル・テ!」」」」」」」
文字通り現金なやつらだ。
しかしまあ、金の使い道については頭打ちだ。お大臣するのもいいかもしれない。
「今日は俺のおごりだああああああ! 好きにやってくれええええ!
「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」」」」」」」
歓声が沸き起こる。
人生史上最大の無駄遣い。怒ろうにも、この金は本来ならクレスのものなのだ。
ギルド酒場の外まで溢れた冒険者たちで、飲めや歌えの宴会が始まった。
果ては一般業務を行うギルド職員まで、給仕にかり出される始末。
酒場のテーブルの中心に座らせられて、次々と冒険者パーティーが俺の元にやってきては「隻眼のファイアドレイクを撃破した英雄に!」と乾杯していく。
宴は半日以上続き、ギルド酒場の貯蔵がつきるまで行われたのだった。
入れ替わり立ち替わり何人にごちそうしたのかはわからない。酒には強い方だが、さすがに途中で記憶が何度がぶっ飛んだ。
その間もずっと、クレスが俺の隣で楽しげに来客のお酌をしたり応対をしてくれていたらしい。
やってくる誰からも感謝され、敬われ、そして謝罪まで受け取った。
「王都に行ったジェイドに『ドルテは寄生虫の指示厨』って聞かされてて、ちょっと距離置いてたんだけど、ごめんね。こんなにできる人だったんだ。隻眼を倒しちゃうとかすごいよ! 寄生虫がどっちだったか解っちゃったね。あの、もし困ったことがあったら相談してね! 力になるから」
「ベラドンナがけっこーひどいこと言ってたけど、あれ嘘じゃん。わたしはもうパーティー固定しちゃってるけど、オフの日とか誘ってくれたらコラボしてもいいわよ。あ! 安心してクレスちゃんとったりしないから! なんならわたしの彼ぴっぴも誘うしWデートパーティーとかやっちゃおっか?」
「オッスオッス! 自分、手のひらくるくるして良いっすか!? 銭ゲバドケチのドルテ氏がパーティーの金を横領してるってグスタフが言ってたけど、アレやっぱ嘘っすよね?」
「トニオはついていく人を見誤ったね。ふふふ……キミはボクと同類の陰の者と思ってたけど……やるじゃん」
などなどなど……単にごちそうされているから俺を持ち上げているのもあるだろうが、一方でジェイドたちへの批判の声も上がっていた。
酒で口が回るようになると、本音がぽろぽろこぼれ出す。
あいつら結構嫌われてたんだな。
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宴会費用はしめて三百万シルバ。これが高いか安いか相場はわからないのだが、滅多に顔を出さない壮年のギルド支部長が執務室のある上層階から降りてきて「こんな見事なおごりっぷりは十年来見ていなかったよ。君は実に気持ちの良い男だ。すばらしい!」と、お褒めの言葉をいただいた。
ようやく人の波が引いて静かになり、クレスと二人になる。
「じゃあ今日も昨日のお風呂付きの宿に泊まりましょう!」
「普通の冒険者宿だぞ」
「お、同じ部屋ですよねドルテさん!? 夜、一人だとお化けが出て怖くて泣いちゃうかもしれませんよ」
本日の営業が完全終了し、照明の落ちたギルド酒場の入り口で、クレスは俺の腕に抱きついた。
「お前、結構怖がりなんだな」
「違いますよドルテさんが泣かないか心配なんです」
「泣かねぇから!」
で、結局このあと押し問答が続いたのだが、俺が根負けして冒険者宿で一部屋借りたのだった。
大金を手にしても一番安いグレードの部屋にしてしまうあたり、俺は金の使い方が下手くそ……いや、ここは堅実と自分を褒めることにした。
 




