14話 二人で手にした勝利だから
瞬間――
「ドルテさんをいじめないでくださいよ! ちょっと怖いけどいい人なんですから!」
ドガッ! と、ドレイクの横っ面をクレスのドロップキックが蹴り飛ばし、渦巻く炎の息が俺の目の前で斜め上にそれていった。
「無事だったのかクレス! つーか逃げろよ!」
「あたしのこと守ろうとしてくれた恩人を、放っておけないです!」
クレスは大剣を肩に担ぐように構え、俺とドレイクの間に割って入った。
「覚悟してくださいファイアドレイクさん……あなたをドルテさん炎上未遂罪で訴えます! 理由はもちろんお分かりですね? あなたが弱点をごまかして騙し、足の小指を破壊しても無駄だったからです! 覚悟の準備をしておいてください。これからわりとすぐに倒します。ギルドに戦果も報告します。ギルドの素材運搬班にも問答無用できてもらいます。財宝の準備もしておいてください! あなたは悪いモンスターです! あたしの愛剣マルミアドワーズをぶち込まれるのを楽しみにしておいて下さい! いいですね!」
どこからか処刑用BGMでも流れてきそうな気迫とともに、クレスは今度はドレイクの後ろ足のアキレス腱を狙い始めた。
っておおおおおおおおい! そこじゃねえええええ!
「狙うなら顎の下の逆鱗だろうが! ここだよここ!」
俺は攻撃力を一切持たない、暗闇を照らすだけの光球魔法でファイアドレイクの顎の下を照らした。
ファイアドレイクも攻撃ではない光球に戸惑い、魔法への対処を一瞬保留したようだ。
「えっ!? そんなところに弱点が!?」
大剣で地面を穿ち急停止すると、クレスの視線は俺の照らしたドレイクの弱点――逆鱗をロックオンした。
「行きますよおおおおおおおおお!」
「小娘になにができぬおわあああああああああああああああああああああ!」
下顎から脳天を突き上げるように大剣が貫通した。
逆鱗が真っ二つに割れ砕ける。
強い。なんだこいつの……クレスの強さは。
「ば、ばか……な……」
ドレイクの真っ赤な瞳がドロンと濁った。巨大な舌をだらしなく口からたらして、巨体が崩れ堕ちる。
巻き込まれる寸前でクレスは大剣を引き抜き飛び退いた。
マグマのような血液がドレイクの頭で噴水のように吹き上がる。
クレスは大剣を振り払った。ドレイクの血が炎に焼かれて刀身が浄化される。
やはり魔法の武器だ。
鞘に収めようとすると、大剣はしゅるしゅると、もとの長剣サイズに戻っていった。
「すごいですドルテさん! あんなところに弱点があるなんて知りませんでした! 前に退治した時は何度も何度も足の小指を狙いまくって手間取りましたが、コツを掴めばこんなに簡単だったんですね!」
褒められたがりな子犬のように、俺の元に駆け寄って少女は瞳をキラキラと輝かせる。
「いや、すごいのはその……お前だよ。弱点がわかってても倒せる相手じゃないし」
クレスは俺と出会う前にも、本当にファイアドレイクを倒したことがあるのだ。
弱点を知らずにごり押しで。それをサクッと倒したと表現したのである。
彼女の報酬がたった二千五百シルバでは、割に合わないどころの話ではない。
ピンハネした連中はとんでもない悪党だ。
「全部ドルテさんのおかげです! ありがとうございます!」
「俺はなんもしてないから」
「報酬は二人で山分けですね!」
「おいおい。もらえないって」
単純計算で討伐報酬の一千万。さらにドレイクをギルドに回収してもらえば運搬解体費用を差し引いて、こちらも数百万シルバにはなるだろう。
加えてドレイクが火山に隠した宝の所有権も、倒したクレスのものとなる。
「困ります。半分こですよ! 喜びはわかちあってこそですから」
ピンクのポニーテールと胸の水蜜桃を左右にぶんぶんと揺らし、少女は涙目で訴える。
眉尻の下がった顔は、心底困っているようだった。
「なんでクレスが困るんだよ」
「だってドルテさんがお金もってないと、ご飯をごちそうしてもらえないじゃないですか」
「あ、ああ……そういえばそんな約束だったな」
「それにお金もらってもいくらか……その……わたしって、ちょっと数字だけが苦手ですから」
彼女に必要なのは知力。もしくは心から信頼してお財布を管理してくれる、マネージメント業務ができる人材だ。
騙そうと思えば赤子の手をひねるよりも簡単かつ残虐に、クレスから収奪することができるだろう。
「だからお願いしますドルテさん! 半分こしてください!」
「……わかった。お前がそれでいいって言うなら、俺には異存ないよ」
「やたー! じゃあさっさと町に戻ってギルドに報告しちゃいましょう!」
子供のように無邪気に喜ぶクレスに、少しだけ安堵しつつも……さてどうしたものか。
もちろん、俺が彼女を利用して金銭と名声値を得るのもいかがなものかと思う。
が、少なくとも、こいつの取り分を不当に搾取したりはせん。
クレスを放置したら世の中で不当にもうける輩が出る。
そんな連中許せねぇよな!
 




