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13話 誇り高き童貞魂

「わかった……戦おうクレス! 魔法で援護する!」


「待ってました! じゃ、サクッとやっちゃいますね!」


 クレスは疾風のように平野を駆け抜け、小山ほどもあるファイアドレイクめがけて、大剣化した得物を振り上げ叩きつけた。


 甲高い金属音とともに剣と竜鱗がこすれて火花を散らす。


「あっはっは! めっちゃ硬いんですけど!」


 笑ってる場合か。なにがサクッとだ!


 いかん。俺が彼女を魔法で援護しなければ。


 火属性丸出しのドレイクに対して、氷弾の三連射を放つ。


 狙いは頭部。人間含め、だいたい弱点といったらここになる。


「カアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 一喝するようにファイアドレイクが叫ぶと、俺の氷弾はジュッと音を立ててドレイクの眼前で溶けて消えた。


 視界は効かずとも魔法力を感知して防御しやがったか。化け物め。


 だが、これくらいは想定の範囲内である。


「今だクレス! ドレイクの弱点を狙え!」


 ドラゴン系モンスターにはもう一つ、特有の弱点がある。


 逆鱗と呼ばれる、顎の下に一枚だけあるという逆向きに生えた鱗だ。


 氷弾魔法による牽制でドレイクの意識は俺に向いている。警戒しろ! もっと警戒しやがれ!


 それだけクレスがにフリーになるのだから。


 頼むぞ自信満々の脳筋女剣士!


 ぶっとくてたくましい自慢のエモノで、ドレイクを下から突き上げれば大ダメージ間違いなしだ。


 俺の意思をくみ取ったかのようにクレスは目配せした。


 今が勝機と言わんばかりに。


 打ち合わせなどしていなかったが、こんなにも呼吸がぴったり合うとは思わなか……おいいいいい!


「えい! えい! えい! ドルテさん弱点に全然効いてませんよ?」


 クレスは何を思ったのか、ファイアドレイクの後ろ足の小指に大剣を叩きつけていた。


「お前違うだろ! そこじゃないだろ!」


「けどタンスの角に足の小指をぶつけると痛いじゃないですか? 大体の生き物はここが弱点ですよね?」


 ファイアドレイクが尻尾を鞭のようにしならせてなぎ払い、クレスを吹き飛ばした。


「クレスうううううううううううううう!」


「うおっふ!」


 吹っ飛ばされて地面を転がるクレス。普通に死んでいてもおかしくないダメージだ。


 彼女が危ない。


 咄嗟にクレスの周囲に水煙幕の魔法を張る。ドレイクの視界はクレスの初撃で封じられているが、ドラゴン系のモンスターは熱感知能力を持つものも多い。


 加えて人間よりも高い知能を持ち、魔法を感知することもできた。


 俺の牽制氷弾三連射を無効化したのも、やつに魔法が見えていたからだ。


 水煙幕でクレスを覆うことで、それらの感知を鈍らせることができただろうか。


 魔法を使ったのは俺だ。ドレイクが意識をこちらに……。




 向けようものなら、俺はここで死ぬだろう。




 もともと魔導士は打たれ弱い。だから収入の大半を生存率向上のための装備強化に当ててきた。どこかのバカと違って、飲み代に消えるなんて使い方はしてこなかったのだ。


 それら装備の一式を売却させられたのは痛恨の極みである。


 このままでもクレスは助かるかもしれない。だが、ドレイクが水煙幕の範囲をまとめて焼き払えば……彼女は……。


 クレスは無茶苦茶だが、しばらく忘れていた「誰かと一緒にいて楽しい」という気持ちを、俺に思い出させてくれた。


 放ってはおけなかった。ここで彼女を見殺しにするようなら、俺はあいつら以下になる。


「おらかかって来いよ! 脆弱で矮小な人間ごときに両目ともぶっつぶされた誉れ高いファイアドレイクさんよおおお!」


 安物のマジックワンドで限界いっぱいまで防壁魔法を展開した。


 回復と防御は専門外だ。一撃すら受け止めきれない。


 気休めだが、ファイアドレイクの攻撃をこちらに向けさせればそれでいい。


「黙れ小童あああああああああああああああああああああああああああああ!」


 ファイアドレイクが防壁魔法に反応して、俺めがけて口を開くと火線を放つ。


 紙の盾で火矢の斉射を受けるようなものだった。


 童貞のまま死ぬ。大魔導師に至れなかったのだけは心残りだ。


 けど、女をかばって意地を張ったのなら、俺にしてはがんばった方じゃないか。


 一瞬で防壁魔法が燃え尽きた。


 炎の渦が目前に迫り、俺を呑み込む。これでもう、おしまい……か。

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