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1話 俺抜きでやれると思うのか?

 酒場で酔って乱闘なんて日常茶飯事だが、当事者になるのはこれが初めてだった。


「おまえさぁリーダーでもねぇのに偉そうなんだよ指示厨がッ!」


 ただいま絶賛、俺の襟首を掴みあげているのはパーティーリーダーを務めるジェイドである。剣も魔法も中途半端な腕前だが、器用貧乏は彼に言わせれば「勇者の資質」とのことだ。ものは言い様である。


 ジェイドがグッと腕に力を込めて、こちらをさらに引き寄せた。


 少なくとも魔導士の俺よりかは腕力があるだろう。


 デバフ抜きなら。


「んもう! 二人ともやめなってば! ドルテは謝りなさいよ!」


 シーフの紅一点――ベラドンナがぽったりした唇をとがらせる。赤いボリュームのあるくせっ毛と、大きく開いた胸元からはち切れんばかりの胸を揺らしてみせた。


 いつも謝罪要求されるのは俺ばかりで、ジェイドの過失はどっちもどっちに丸め込む名判事だ。シーフからの転職をオススメしたい。


 女シーフはリーダーにねっとりとした視線を送り、甘えた声ですり寄る。


「ね? ジェイドはみんなの頼れるリーダーなんだし、陰キャ君を許してあげようよ?」


 パーティーの発起人だから名目上リーダーになっただけだろうに。


「ちっ……しゃーねーなぁ……ベラがそこまで言うならよぉ」


 ジェイドはこちらの襟首を乱暴に離す。


 同じテーブルを囲む後衛仲間で、パーティー最年少の僧侶トニオは下を向いたままだった。まだ十六歳になったばかりだが、彼が加わってからパーティーは一気にランクアップすることができた。


 経験不足から自分で判断するのは苦手……とは本人の談だ。そんなトニオからは「回復と補助魔法はドルテさんの指示通りにしますね」と、信頼を得ていた。


 寡黙な大男の重戦士グスタフは、後衛を守る盾役である。自分のことは話さず他人にも干渉せず、黙々と仕事をこなす職人タイプだ。


 巨漢は糸のように目を細めたまま、度数の強い蒸留酒をちびちびなめている。


 この二人がいるからリーダーの横暴にも耐えてきた。


 ため息交じりに襟首をただす。


 ベラドンナが「ほらジェイドは離したんだしアンタも謝りなって」と笑顔になった。


 目が笑っていない。圧がある。


 これで譲歩のつもりというのだから、交渉術が頭ゴブリンだ。


 ジェイドがヘラヘラと嗤った。


「あーもういいっていいって。陰キャさぁ……思ったんだけどぉ、なんかもう、おまえいらないわ」


「はっ?」


 間の抜けた声が漏れてしまった。ジェイドは構わず続ける。


「クビ! 追放! ばいばーい!」


「待て待て。魔導士抜きでこのパーティーが立ちゆくのか?」


 ベラドンナは顔を背けて笑いをこらえている。


 トニオはますます下を向き、グスタフも無表情のままだ。


 ジェイドがこちらの顔を指さした。


「つーかーおめぇぜんっぜんリーダーに対するリスペクトねぇし」


「リーダーは偉いからなるものではないだろうに」


「おれが偉いに決まってんだろハゲ!」


 狐が鳴くように甲高い声でジェイドは吠えた。


 このふさふさの銀髪が目に入らないのだろうか。ジェイドは頭だけでなく目も悪くなったようだ。


 もっと早く辞めておけばよかった。判断が遅かった。


 なにせ、最悪な人間関係ながらも、俺たちは辺境の魔導遺跡都市ラディアの冒険者ランキングトップ10に入る強豪パーティーなのである。


 平たく言えば、戦闘面においてのみ上手くかみ合ってしまったのだ。


「陰キャおまえさぁ……マジでえらそうにしすぎなんだよ。いっつもグチグチ後ろからうっせーし」


「前に出すぎてグスタフにモンスターのヘイトが集まらず、分散するので危ないと言ってるんだが? いつになったら引き際を覚えるんだ?」


「うっわ、出たよ陰キャの悪口。くぁ~! そんなんだからどこのパーティーからもハブられんだよなぁ?」


 上位ランクのパーティーはすでにメンバー固定で連携もできあがっている。中途半端にあぶれた上位ランカーに、入り込む余地はない。


 下位冒険者を誘ってパーティーを立ち上げようにも、なぜか「魔導士ドルテは童貞ボッチ陰キャコミュ障イキリゴミカス眼鏡」という噂が広まっていた。


 悪口にしたって盛りすぎだ。


 誰が流したかはいわずもがな。


 そこまでするのは、てっきり俺をパーティーに引き留めるためかと勘ぐっていたのだが、どうやら純粋な嫌がらせだったらしい。


 ジェイドがポンッと肩を叩く。


「実は王都でブイブイ言わせてたっていう魔導士見つけちゃってさぁ。つーか彼なんだけど」


 リーダーが手招きすると、ジェイドに負けず劣らず軽薄そうなチャラい魔導士風が、紫色のマントをはためかせてやってきた。


「ちっすちーっす! 自分王都の学院出身でザギって言うんですけど、先輩よろしくッス」


 まさか本当に俺を追放するつもりなのか!?

https://www.tbsradio.jp/anayume/

本日23:30から、こちらのラジオ番組「あなたの夢は何ですか?」に出演します。

良かったら聴いてみてね! アーカイブもYouTubeにアップされるそうです。

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