第一章
小学2年の時。初めて母が泣く姿をみた。
当時、なぜ泣いているのか、わからなかった。そのときは、ただただキッチンの勝手口の前で前かがみになって声を殺して泣く母の姿を後ろから見ていた。
なぜか、自分の目からも涙がこぼれた。
春。桜の花びらが地面に落ちまいと風に語りかけるように咲いている。
桜凛中学高等学校 入学式
皆その看板の前で写真を撮ろうと長蛇の列が出来ている。そこに並ぶ母、父、子の目は希望と優越感に満ち溢れていた。桜凛中学は全国屈指の中高一貫進学校で、毎年4000人を超える小学6年生の受験生から選ばれし300人が学校に入学できる。名前からして女子校に見えるが、共学校だ。
「写真撮っとくか?」
父親の心太に尋ねられたが、私は
「帰りでいい」
とぶっきらぼうに答えた。
昇降口の前にある大きな階段とその前に続く桜道。これが学校のシンボルだ。私は落ちた桜の花びらを踏みながら昇降口まで進んだ。
入学式が終わった。誰とも話すことができなかった。出席番号32,33,34だけ、はみ出して3席並んでいる列座っていたのだが、
33,34の者は二人で仲良しそうに喋り、私は孤独感と睡魔と自慰心と戦っていた。
外は雨がってきていた。母が出かける前リュックに折りたたみ傘を入れてくれていた。それをさして階段を駆け下りた。周りの人々は急な雨にあたふたする者、雨宿りする者、がいた。