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9話 初クエストクリア

「お待ちしていました。依頼した品物は手に入れて頂いたようですね」


 ギルドに戻るなり、ワンが出迎えてきた。白月の事だ、俺達がクエストクリアした事を当然のように察知している。


「まぁな。強敵を倒せなんて依頼ならともかく、戦闘を避けて素材を取れなら狩人と盗賊の得意分野だ」

「ですがその分難易度は非常に高い。単純に敵を殺すなら馬鹿でも出来ますからね。我々白月が要求するのは希少素材の確保や動物の捕獲、荒っぽい前衛職には不可能です。そう例えば……クルセイダーだったりね」

「…………」


 やっぱりこいつ、只者じゃないな。

 ともあれエンペラーオウルの羽と鱗を渡すと、ワンは満足げに微笑んだ。


「素晴らしいですね、品質90の希少素材をこうも簡単に持ってくるとは。流石は元冒険者ランキング8位のトップランカー、白金級冒険者だった事はあります」


 俺の経歴を聞いた途端、アンナが驚きの声を上げた。

 自慢するわけじゃないが、元ランキング8位って事は当然白金級の冒険者って事だ。だがワーグナーを失い、片田舎に引きこもって以降は大きなクエストをこなしていなかったからランクが下がり、同時に冒険者の等級も銀級まで下がってしまったというわけだ。


「呪いと言う不幸がありながらも大きな成果を挙げる、そんな人材を白月が逃す理由はありません。よろしいでしょう、喜んで貴方方の支援をさせて頂きます」


 言うなりワンは白い指輪を渡してくる。白月所属の冒険者である事を示すアイテムだ。


「それは身分証でもありますので、肌身離さずつけるように。ではクエスト報酬を。受付に向かってください」


 受付嬢にクエスト成功を報告すると、冒険者カードに報酬が入金される。その額はなんと50万ギル!

 この世界の平均月収が3万ギルだから、どれだけ破格なのかが分かるだろう。


「こんなに貰っちゃっていいの!?」

「勿論。お伝えしたはずです、成果に見合った報酬を差し上げると。余った素材も差し上げますよ。私共もそこまで鬼ではありませんからね、アンナ様?」


 やっぱりダンジョン内での会話は聞かれていたようだ。ワンに恐怖したのか、アンナは俺の背中に隠れてしまう。


「我々白月は優秀な冒険者へ投資を惜しみません、契約金と思って受け取ってください。無論それが退職金、それも三途の川の渡し賃になるやもしれませんがね」


 白月に入るメリット・デメリットを一言で表す言葉だ。しかも脅し文句を添える事で、「お前達は私が支配している」と明確な上下関係を突き付けてきた。伊達に支社長を務めているわけではなさそうだな。

 けどこれで冒険者として活動する下地は出来た。ワーグナーとの別れを後悔する日々はもう終わり、これからはかつての自分を超えるために最強を目指すんだ。


「どうか俺を守ってくれ、ワーグナー……」


  ◇◇◇


 拠点である馬車へ戻るなり、リチュアが号泣しながら飛びついてきた。

 勢い余って転んでしまう。余程心配していたのだろう、綺麗な顔が涙で酷い事になっていた。


「コウスケさんっ! よかった、よかったよぉぉぉ! 帰ってこないんじゃって思って、うっうっ……ふああああん!」

「ちゃんと戻ってきただろ? もう大丈夫だから泣き止んでくれ」


 アンナがにやにやしながら見てくるし、ちょっと恥ずかしい。

 今日の成果を話してやると、リチュアは親身になって聞いてくれた。彼女は冒険者の話を聞くのが好きで、昔はよくワーグナーとの冒険を話してやったものだ。


 そして途中、アンナが俺の経歴を零した。リチュアには俺が元ランカーである事は伏せていたから、彼女は目を見開いて驚いていた。


「元白金級の高位ランカーだったなんて、初めて聞きましたよ。どうして黙っていたんですか? 隠す事じゃないでしょう?」

「俺にとって苦い思い出があるからな、話すと胸が痛くなるんだ。それに関してはまた改めて、話せる時に教えてあげるよ」

「そうそう! 湿っぽい話は後にしよ、今日はお祝いだ! でっかいクエストクリアしたから名声値もがっぽり稼げたしね!」


 そう、冒険者ランキングのレーティングに関わる名声値も大量に稼げたのだ。

 冒険者カードで確認したが、名声値が10上がっている。名声値は難易度B未満のクエストを10個クリアで1、B以上のクエスト成功で1、財閥のクエスト成功で5上がるから、倍以上の成果だ。


 冒険者ランキングは年間で獲得した名声値で決定するから、このポイント数は非常に大きい。


 白月が出すクエストは他の財閥よりも難易度と要求されるスキルが高い。単純に相手を倒すだけなら誰でも出来るが、捕獲や素材確保にはダンジョンやモンスターに関する高度な知識を要求されるからだ。

 それに運の要素も強い。今回はDLCスキルがあったから一発で目当ての素材を手に出来たが、もしこれが通常のスキルだった場合、複数回クエストに挑まなければ高品質の希少素材なんて手に入らないだろう。


 こうした要素が重なり、白月を選ぶプレイヤーはやり込み目的の上級者が多い。白月のクエストで得られる経験値と名声値は他の財閥よりも大きく、希少素材を得られる確率も高い。結果として最強レベルのキャラクターを制作できるからだ。


「レベルこそ上がらなくなったけど、スキルの熟練度は上がるからね。俺自身にも恩恵はあるんだ。ステータスの大幅な強化はもう望めない。だから俺はスキルを充実させて、特殊能力で最強を目指すよ」

「わかりました。やっぱり恐いけど、コウスケさんが決めた事です。今日のクエストで約束を守ってくれるって分かったから、私は応援に専念します」

「助かるよ、今後もよろしく。そうだ! エンペラーオウルの羽で服でも作ろう。これだけ大きな羽だ、リチュアに似合う服を作るなんてわけないよ」

「いいんですか? 私何もしていないのに」

「待っていてくれただろう? それに俺が頼んだ通りハンバーグも作っていてくれた、それだけで充分だよ。リチュアが待っているから俺も頑張って帰ろうと思える。俺の帰りを待っていてくれるのも、大事な仕事さ」


 人の士気を高めるには、役割を持たせる事だ。

 前世じゃ幾人かの部下も持っていたからな。彼らのやる気を高めるために、「この仕事は君だからこそできるんだ」「君なら思いやった仕事が出来る」と適材として任せる指示を出してきた。


 消去法で仕方なく渡した仕事じゃ人はやる気なんか出ない。自分だから出来る仕事と思わせる事でやる気を引き出し業績を上げる。俺は基本褒めて伸ばすタイプだ。


「なら、私からもお仕事を出します。絶対怪我をしないで、無事で帰ってきてください。報酬もないクエストですけど……冒険者なら出来ますよね」

「出来る限り約束するよ。ほら、小指出して」


 指切りげんまんでの約束だ。これは破るわけにはいかなくなったな。


「……あーむずかゆー! マジでなんか腹立つわー!」

「おいおいどうした奇声を上げて。ただでさえ喧しいのに」

「何か悩み事があるなら相談に乗りますよ?」

「二人仲良く鏡見てこい、諸悪の根源が全部映ってっから!」


 マジで何なんだこいつは……ちょっと頭おかしいんじゃなかろうか。


「もういいや……それより報酬山分けしようよ! えっと今日一番頑張ったおじさんの取り分が25、次に私が20、リチュアが5って所でどう?」

「そんなにくれるんですか!?」

「当然だよー。私らより安いのは勘弁ね」


 アンナはあっけらかんと言う。何と言うか、不思議な子だ。

 口では金儲けをしてぜいたくな暮らしをしたいと言っているが、それならこんな分け方はしない。ともすればリチュアの取り分も用意しないだろう。


 なのに俺を一番多くし、リチュアにも高額を渡した。勿論処世術と言ってしまえばそれまでだが、金儲けが目的にしてはちょっと不自然だ。


「アンナ、君の目的はなんだ?」

「金儲けに決まってんじゃん。だから一番実入りのいい白月に入ろうと……」


 俺の胸中に気付いたらしい。あっぱらぱーかと思っていたが、意外と人の機微には聡いらしい。


「話すのやーめた。こういうのは口にしたらダメでしょ? 教えて欲しかったらおじさんの昔話を教えてよ」

「それは出来ないな。わかったよ、聞かないでおく」


 アンナもアンナで秘めた思いがあるんだろう。冒険者は胸に己の信念を秘める物、それを聞き出すのは野暮だな。

 ともあれ今日の成果は上々だ。今はこの喜びを噛みしめよう。

 新たなDLCを入手する資金も手に入った事だしな。

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