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5話 ガンカタ

 アンナとパーティを組んだ今、この村で活動する理由は無くなった。

 ここは片田舎だ、冒険者ランキングを上げるためには、高難度のクエストが揃う大きな町へ行く必要がある。

 事件解決数、社会貢献度、そしてこなしたクエストの難易度。それら全てを総合して冒険者ランキングは向上する。片田舎で小さな依頼を積み重ねていても上には行けないのだ。


「大きな街で大きなクエストを片付けていく……単純だが、それが近道だからな」


 どれだけ高難度のクエストだろうとクリアする自信はある。今の俺には経験と知識があるのだからな。

 旅支度も整った事だし、次はDLCの使い道を考えようと思う。ハルクとの戦いで600円を使ったから、残りストレージは9100円だ。


 まず結論として、チートスキルは使わない事にした。


 と言うのもチートスキルは消費MPが大きかったり、反動が強かったり、使用前後の隙が大きかったりと。性能がピーキーで使いこなすのが難しく、汎用性に欠けるからだ。それに

俺のMPじゃ、チート魔法は消費がデカすぎてそもそも撃てないしな。


 俺が求めるのはどのような状況でも安定して使用できる汎用スキルの強化版だ。緊急時でも即座に対応でき、尚且つ既存技術を煮詰めた物だから、俺が培ってきた経験や知識をそのまま流用できるのが大きい。

 チートとはスキルが強ければいいのではない、汎用の既存スキルを効果的に使いこなす冒険者こそチートだ。俺にとっては強化版汎用スキルが何よりも魅力的なSレアスキルなのさ。


 もう一つの方針は、一定の金額が貯まるまで能力値アップアイテムは買わない。


 これも充分なチートアイテムなのだが、やはり高い。失った能力値を取り戻すには相当額が必要だ。

 なので能力値の低さは経験と技術でカバー。今まで使っていたスキルの強化版を駆使して戦っていく方針としよう。


 早速これまで使っていたスキルの強化版を購入する。どれも300円のスキルだが、一個だけ500円のレアスキルを購入する事にした。


「このDLC装備と相性良さそうだしな……よし購入」


 俺が挑もうとしているのは冒険者ランキング1位だ。となれば新たな技術も身に着ける必要がある。

 そしてアンナとの旅をするためには拠点も必要だ。移動式の拠点、つまりは馬車だな。

 なんでも彼女は馬に乗って行動しているそうだ。チームアップするなら荷物も多くなるだろうし、荷台となる馬車があると便利だろう。


 野営する事も考えると、このDLCがぴったりか。ちょっと手痛い出費だが、今後のための投資としておこう。

 という事で今回の買い物は終了だ。


 300円が5点

 500円が2点

 1000円が1点

 合計3500円。


 残り金額5600円か。結構な出費となってしまった。DLC装備を転売できればいいのだが、ワンダーワールドはアーリーアクセスのゲームだ。バグ対策でDLC装備を店で売る事が出来ないのである。

 金は使えば戻ってこない、慎重に使わないとな。


「さて、アンナと合流しよう」


  ◇◇◇


 アンナと約束した場所へ向かうと、なぜかリチュアが居た。それも旅支度をしてだ。


「私も一緒に行きます」

「ダメだろそれ」


 開口一番とち狂った事を抜かしたので即座に拒否。なんで君までついて来るのかな。


「背中を押したとはいえ、コウスケさんを弱体化させたのは私の責任です。だからその責任を取らせてください」

「君は俺から何を奪ったんだ、心でも奪ったのか」


 真面目なのはリチュアのいい所ではあるのだが、時折その真面目さが狂って暴走する時がある。今回のようにな。


「リチュア、君は連れて行けないよ。俺はこれから危険な冒険者業に戻るんだ、その意味が分かるだろう? それに仕事はどうするんだ」

「さっき辞めてきました」

「思い切りよすぎやしないか君」

「別にいいんじゃない? おじさんが立派な馬車を用意してくれたし、三人で行動する分には問題ないと思うよ」


 アンナが指さすのは、俺の用意したDLC馬車だ。

 見た目は馬一頭で引ける小さな物だが、内部は空間魔法を使用しているので3LDKの広々した空間になっている。長旅でもストレスを溜めないよう、そして野営でも体調管理がしやすいように気遣いの施されたSレアアイテムだ。


 ワンダーワールドでは野営すると体力が二割程度しか回復しないうえ、時折モンスターが襲ってくる事もある。

 だけどDLC馬車があれば野営をしても体力が全回復できるし、魔物除けの効果があるからモンスターに襲われる心配もない。街には馬車を止める駐車場があるから、そこを利用すれば宿代も浮く。持っているだけで移動時の心配が一切なくなる便利アイテムだ。


 この馬車の定員は三人だからリチュアが来ても対応できるが……。


「どうしても行くというのかい?」

「はい……コウスケさんが離れたら寂しいですし、それにもう一つ心配が。二人とも家事出来ますか?」

『うっ!?』


 アンナまでその反応、という事は……。


「君も片づけとか苦手な口か」

「あははー……掃除がそもそも嫌いでさぁ……」


 冒険者は身の回りの事を金で済ますか、もしくはやらないようにする事が多い。自分のレベルに合わせて街々を移動するから、基本宿暮らしだったり馬小屋暮らしだったりで、家事をする習慣がないからだ。


「コウスケさんってば家事出来ないしお金はどんぶり勘定だし。アンナさんも同じタイプなんでしょう? 冒険で死ぬより生活習慣で死ぬ危険が高いんですよ。アンナさんも家事苦手みたいだし、そんな玄関口で転ぶヘマしたら冒険者として格好悪すぎます」


「耳がいたーい……」

「同じく……」


「なので私が同行して、二人のサポートをします。私は孤児ですから置いていく家族も居ませんし……小さい頃から一緒に居たコウスケさんが居なくなるのは、嫌なんです」


 リチュアは村の孤児院出身だ。俺がここへ来てからの付き合いで、もう六年になるか。家族同然の付き合いをしてきたから、別れるのが辛いのだろう。

 それに家事をしてくれるなら俺も助かる、正直洗濯とかするのは面倒くさいしな……。


「まぁ恋人がいなくなるのは辛いだろうし、サポートしてくれるならいいんじゃない?」

「リチュアと俺はそんな関係じゃないよ。俺の部屋を掃除してくれたり、洗濯物を管理してくれたり、あとクエスト行く時に補給食を作ってくれたりする程度の仲だ」

「そうですよ。私も乱暴な冒険者から守ってもらったり、お夕飯のお肉を届けて貰ったり、夜寂しい時に添い寝をしてもらう程度の仲です」

「それ最早夫婦じゃね? 無自覚にいちゃついてないかな君ら」

「別にいちゃついたりは、なぁ」

「してないですよねぇ」


 それに俺にはワーグナーがいる。彼女とは恋人だったから、他の女性と関係を持つのはワーグナーを裏切るような気がして、抵抗があるのでね。

 ともあれ、新たな旅の始まりだ。かつて夢見た最強への道を目指していこう。


  ◇◇◇


 俺達は村の人達に見送られながら旅立った。長い事お世話になった宿屋の女将やギルド職員達は別れを惜しみ、姿が見えなくなるまで手を振ってくれた。

 またいつか、元気な姿を見せに行こう。そのためにも死ぬわけにはいかないな。


「そう言えばコウスケさん、装備を変えたんですか?」

「いいや追加したんだよ。この時のために用意していた物だ」


 勿論嘘である。DLCで手に入れたSレア装備のボウガン、ピクウスだ。

 ワンダーワールドは武器を二つまで装備できる。状況に合わせて装備を切り替える事で、臨機応変に対応できるようになっている仕組みだ。


 今まではボウガンをメインにサブの近距離武器としてナイフを使っていたが、このDLC装備を手にした事でダブルボウガンが可能になった。


 ピクウスは弓床に回転式のシリンダーが装着されているボウガンだ。俺の使っている物より小型で軽いから取り回しやすい反面、威力も射程距離も短いという欠点を抱えている。

 だがこれは、その欠点を補って余りある性能があるのだ。


「こんなに不思議な馬車もいつの間に……コウスケさん、レベル1になってから何を手に入れたんですか?」

「そうだなぁ、リチュアには話していいかな」


 話せる範囲で説明してやると、リチュアは随分目を輝かせていた。

 自分でも使えるスキルはないか、武器はないかと聞かれたが、誤魔化しておく。戦えないリチュアへチート武器を渡すわけにはいかないしな。


「おじさん! ちょっと出てよ、仕事だよ!」


 御者台に居たアンナに呼ばれて顔を出す。そしたら目の前には、無数の蟻の群れが道を塞いでいた。

 全長一メートルの大型の蟻だ。数は十五,六と言った所か? 森の中を高速で闊歩する姿は中々に威圧感があるな。


「ヒト喰いアリか。狩人のクラス特性外だが、対処は可能だな」


 クエストの難易度で例えれば、EかFの敵だ。俺は普段Cのクエストを中心にこなしている。レベル1でもDLCスキルを揃えた今なら、臆する敵じゃないな。


「たっのもしい! それじゃ退治はお願いね」

「勝手に見捨てて逃げるなよ。真っ直ぐ馬車を走らせろ」


 ピクウスと新スキルを試してみたい所だ、実験台になってもらおう。そして今度こそ守ってみせる。俺の過去を乗り越えるんだ!


 予備のシリンダーを放り投げると同時に、奴らが好む肉の匂いを出す袋をばらまく。アリは地中生活をしているから目が退化している。だから匂いやフェロモンを感知して餌や敵の居場所を感知するんだ。

 その習性を利用すれば、ヒト喰いアリの動きを誘導するのは容易い。


 狙い通りヒト喰いアリは匂い袋めがけて動き始める。「アイテム効果UP(改)」の補正もあって、ものすごい勢いで食いついてくれた。


 この隙に馬車から飛び出して、500円で購入したスキルを試すとしよう。


 スキルの名は「曲芸回避」。バック宙や側転と言ったアクロバットをしながら攻撃を回避する物で、見た目も派手な上にモーション中は無敵と言う非常に強力なスキルだ。

 代わりに使う度スタミナを大きく削るから、多用すればするほど行動回数も減ってしまう。迅速にモンスターを退治しなければ。


「ピクウスの力がどれほどの物か、試運転開始だ」


 通常ボウガンは一発こっ切りの武器だが、ピクウスは違う。

 一発撃ったらシリンダーが回転し、自動で装填される連発式のボウガンなのだ。連射できるボウガンってだけでも大きなアドバンテージだ。ワンダーワールドの世界観に銃は存在しない、魔法を除けば弓とボウガンが唯一の遠距離武器だ。


 連射が出来る遠距離武器はそれだけでも大きな脅威となる。ステータスが低い俺は真正面から切り込む力がないから、連射式ボウガンは生命線になるだろう。

 今まで使っていたボウガンは一発限りだが、ピクウスよりも射程距離が長く威力もある。使い分けができれば戦略の幅も広がる。


 ピクウスを撃ったら「曲芸回避」を使い、木を蹴って前宙しながら次の蟻を狙い撃つ。ヒト喰いアリは尻から強烈な酸を飛ばしてくるが、前宙している俺に当たり判定が存在しない。悠々と回避だ。

 次々に蟻の背中を撃ち抜き、肺脈管を破壊する。蟻には心臓が無いのだが、代わりに体液を循環させる肺脈管と言う器官がある。


 それに毒矢を撃ち込めば、たちまち蟻は行動不能になってしまう。調子よく蟻を撃墜していると、五発目でシリンダーが空になった。


 でもって丁度、最初に投げていたシリンダーが落ちてきた。


 片手操作で空シリンダーを捨て、側転しながら新しいシリンダーをはめ込む。ピクウスと「曲芸回避」を見て思いついたコンボだ。

 ピクウスの弱点は装填中隙が出る点だ。だがこうして「曲芸回避」を使いながら装填する事で弱点を解消できる。昔見たアメリカ映画にガンカタって架空の技術があったが、まさかそれを自分がやる事になるとはね。


 木を蹴り、蟻を足場にし、馬車と並走しながら蟻を撃ち抜いていく。やがて全滅すると同時に馬車の屋根へ転がり込んだ。


「すっごーい! やるじゃんおじさん、かっこいー!」

「ぜぇ……ぜぇ……どうも……ふぅ……」

「あれ? 滅茶苦茶疲れてない?」


 そりゃそうだ。あんなアクロバット、レベル1のスタミナで多用出来るものじゃない。馬車との並走も蟻の位置を匂い袋で誘導し、最短距離を移動できるよう調整したからこそできた物だ。腐っても元8位のランカー、昔取った杵柄でどうにか乗り越えたよ。


「今回はたまたま上手く行ったが、高難度のクエストでやればへばって終わりだな……」


 能力値が低い故の弱点ってわけか。だけど悪くない気分だ。

 何しろ守れたんだからな。リチュアって大切な女の人を。

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