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4話 再び夢へ。

「本当に怪我をしていませんか? 恐い思いをしていませんか?」

「大丈夫だよ。ほら! どこにも傷なんかないだろう?」


 両腕を広げて無事をアピールしても、リチュアは納得していなかった。

 涙目で必死に俺を心配してくれるのは嬉しいが、そんなに泣かれては胸が痛む。女の涙は男の心にクリティカルを与えるのでね。


「でも私のせいでコウスケさんは……コウスケさんは……!」

「だから、泣き止んでくれよ。ほら、ソーダ水あげるから」

「は、はいぃ……ぐすん……」


 ようやく泣き止んでくれたか、やれやれ……。

 でもよかったよ、リチュアを守れて。この村に来てから俺を慕い、家事等の世話もしてくれているとてもいい子なんだ。

 だからハルクの行為には許せなかった。そういえば奴に絡まれていた女性は大丈夫だろうか。俺に注意を向けていたから無事だとは思うが。


「ここかな? あ、やっぱり居た! おーい、さっきの冒険者! あんただよあんた!」

「おや、君はさっきの……オリハルコン娘」

「随分硬そうな女だね。私の名前はアンナって言うんだ、レベル18の盗賊ね。よろしく!」


 アンナね。活発な話し方といい、元気な子だ。


「さっきはありがとう、私を助けてくれたんだろ?」

「女性に絡んでいる奴は許せなくてね、そっちは無事かい?」

「勿論! 私もオリハルコンも無事だよ。しっかしおじさん激強だったね、上位ランカーをあっさり倒しちゃった! レベルは幾つなの?」

「……それは」


 アンナに事情を説明すると、彼女は何度も目を瞬いた。


「不慮の事故でレベル1に? なのにあんな強かったの?」

「いいや、地力はハルクの方が上だよ。でも俺は狩人だ、格上相手の立ち回りは知りすぎる程知っている」


 クルセイダーとして多数の高難度クエストに挑んでいた事も要因の一つだろう。

 元冒険者ランキング8位の実績は伊達じゃない、場数はそこらの冒険者以上に踏んでいる自負はある。それに前世は営業職、人と対峙するお仕事だ。


 その経験上、人間相手であれば人となりがある程度理解できるんだ。後は相手に合わせて挑発や交渉を行い、こっちの土俵に引きずり込む。対人戦における常套手段さ。


 俺は弱い、真正面から切り込んだところで返り討ちにあうのが関の山だ。

 だから罠を駆使し、会話で翻弄して戦力差を補う。ただそのトークが俺の不安を隠すために軽口めいてしまうのが悪い所なんだが。


「ふーん……レベル1なのに強いか。やっぱり面白いねおじさん。ねぇ、これは提案なんだけどさ。私と組んでみない?」

「パーティの勧誘かい?」

「そ!」


 アンナはとても明るい笑顔で頷いてくれた。

 勧誘自体は嬉しいが、俺と組んで彼女にメリットはあるのか? それに女性とパーティを組むと、ワーグナーの事を思いだしてしまうのだが。


「おじさんさ、何か秘密があるんでしょ。レベル1でスキルが無くなったにしては、脳筋バカにアイテムが効きすぎている。って事は呪いと引き換えにレアスキルを手に入れる何かを手に入れた。例えばその……ちょっと変わったアクセサリーとか?」

「これの事か」


 驚いたな、全部正解だ。

 ゲームギア端末に関しては話せない。こんな便利アイテムの存在を知ったら当然狙う輩は山と来るだろう。

 ただ、誤魔化せる雰囲気でもないな。話せる範囲で伝えるか。


「これはたまたま手に入れたアクセサリでね、俺の強さとは関係がない。でも君の言う通り、俺は弱さを補う方法を見つけている。今答えられるのはそれくらいかな」

「ふーん、まぁそれなら納得しておこうかな。でもそんな不思議な力を持ったおじさんと組んだら仕事も楽になる。だからパーティに勧誘したんだよ」

「要はボディガードになって欲しいって事かな?」

「その通り。私は見ての通り盗賊で戦闘力は低くてさ。でもおじさんなら私を守りながら戦えるだろ? あんたが戦闘、私が補助。役割分担も出来ている。きっといいコンビになるよ」


 いや違う、アンナは俺の力が目当てだ。

 DLCのおこぼれを貰い、美味しい思いをしたい。そんな所だろう。


「俺を利用しようとするなら諦めてもらおうか。さっき君を助けたのは冒険者の矜持に従ったまでだ。この村での生活は気に入っているし、今更新しい事に挑戦する歳でもない。だからその話はなかった事にしてくれ」


「そんなぁ……あんたの力を上手く使えばレアアイテムが取り放題だよ、がっぽり金儲けができるんだよ」

「それが君の冒険者としての矜持なのかな」


「決まってるさぁ! 私が盗賊になったのも、他のクラスより実入りがいいからに他ならない。レアアイテムをゲットするスキルに窃盗スキル「ピックポケット」、鍵付きの宝箱も開けられる「ピッキング」。とにかくアイテム入手に特化したスキル構成にしてるんだ。夢は沢山儲けて金持ち真っ青な贅沢生活を満喫する事。そのためにも強い冒険者と組みたいわけさ」


 欲望を開けっ広げにして語ってきたな。一見するとただの俗物な強欲女にしか思えない。

 けどなんだろうな、彼女は目的を隠しているように思えるんだ。


 人は嘘を吐く時、大きな嘘を吐く人と小さな嘘を吐く人に分けられる。小さな嘘を吐く人は人見知りだったり臆病だったりして、諍いを避けるために嘘を使う。

 大きな嘘を吐く人は虚栄心の塊だったり、自信がない人である事が多いが、時々自分の目的を隠すために大きな嘘を上塗りする人が居る。恐らく彼女は後者の後者だ。


 その目的は分からないが、経験則から私利私欲の物ではない。そう推測できた。


「俺を強い冒険者と言ってくれてありがとう、でもやっぱり駄目だ。俺には外に向かう理由がない、ここで平穏に過ごして隠遁生活を送るのが向いているよ」


 外に出るって事は冒険者との競争世界に出る事と他ならない。そうまでして戦う理由は俺にはないんだ。

 そう、理由はないはずなのに……胸が軋む。自分で自分の首を絞めているかのような疼きで心臓が痛くなった。


「コウスケさん、自分に嘘を吐かないでください。本当は行きたいんでしょう? 私知ってますよ、コウスケさんが高ランクの冒険者を羨ましそうに見ているの。それって、昔の夢を諦めきれてないって事ですよね」

「そんな事はないよリチュア。俺はここの生活に……」


 満足している。そう答えればいいはずなのに言葉が出ない。

 レベル1から向上しなくなっても、DLCを駆使すればレベルアップ以上の力を得られる。これまでの知識と技術を駆使すれば、冒険者ランキング1位も夢じゃないだろう。

 そうなればもう、ワーグナーのような人は出なくなるはずだ。


「ねぇおじさん、私に冒険者としての矜持を聞いたよね。おじさんの矜持って何? それがあるからさっき私を助けてくれたんじゃないの?」

「冒険者の矜持か……」

「コウスケさん、自分に正直になってください。自分に嘘を吐き続けたら、自分が傷つくだけですよ」


 確かに、リチュアの言う通りか。

 前も言った通り、冒険者とは己の魂に殉じる者だ。それが無ければそこらのゴロツキやチンピラと変わりはしない。


 俺の矜持は「大事な人を守る」って物だ。


 社畜だった前世の頃、俺はパワハラを受けて苦しみ続けた。だから強い奴に虐げられる弱者の痛みが苦しいほどに分かるんだ。そして俺にとって大事な人は、弱い人が殆どだ。


 クルセイダー、つまり聖騎士になったのも大切な人を守る強者になるためだ。高い防御力と体力を持つ聖騎士は俺のイメージする強者にぴったりだったから。


 その決意が、ワーグナーとの別れで折れてしまったんだ。


 彼女を失い、己の無力さを思い知った俺は絶望のあまり剣を捨ててしまった。俺なんかが大事な人を守れる冒険者にはなれない。そう後悔してね。

 笑える話だ。さっき話した嘘つく人の例えで、俺は前者の臆病者だったわけか。俺は過去の失敗を悔やみ、自分の心の傷を見ないようにして過ごしていた卑怯者なんだ。


 だけど今は違う。今の俺にはDLCと言うチートがある、もう無力だったあの頃の俺じゃないんだ。


 そうと分かった今、自分の言葉を実現しなくちゃならないだろう。有言不実行なんて格好悪い、有言実行しなくちゃ冒険者失格だ。


 じゃないと……君に申し訳ないものな。そうだろワーグナー。

 君のような犠牲者は二度と出したくない。力を手にしたならもう一度目指すべきだよな。


「偉そうに冒険者を語っておきながら、自分では何もしない。君達の言う通り、そんなの格好悪いよな。俺の矜持は大事な人を救う強者になる事、そのためには世界最強の冒険者にならなきゃいけないんだ。その夢を目指せる力を手にしたのなら、挑まなくちゃ男じゃないな」

「じゃあ!」

「いいよ、君の誘いに乗ろう。レベル1の最弱狩人だがどうかよろしく頼む」

「こちらこそ宜しくだよ! 不思議な力をもったおじさん!」


 今更だが頑張ってみるか。俺が理想とする、本当の意味で守る事の出来る最強の冒険者を目指して。どうか天国から応援していてくれ、ワーグナー。

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