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18話 ラピットD

「ワンの奴、リチュアに何を吹き込んだんだろうか……」


 翌日、俺はリチュアとワンの事が気がかりで仕方がなかった。

 リチュアは随分思いつめた顔をしていたし、もしワンから脅しを受けていたりしたら……俺は全力を持ってワンをぶちのめそうと思う。

 俺の大事なリチュアを傷つけた罪は重い、覚悟してもらうぞ、ワン。


「おじさん! 気を抜いたら危ないよ、集中集中!」

「え、ああ。すまないリチュア」

「私アンナだよ。リチュアはお留守番してるじゃん」


 くそ、完全に頭がリチュアに向かっている。ちゃんと集中しておかないと。

 俺達は白月が管理している砂漠ダンジョンにやって来ていた。

 今回のクエスト目標は爆弾ラクダ、俺のクラス特性が活かせる相手である。


 砂漠に生息する数少ない獣系モンスターで、背中のコブが爆発物になっている危険なラクダだ。

 しかしそのコブは希少素材として扱われている。一部上位アイテムの材料として爆弾ラクダのコブが使用されていて、高額なレートで取引がされているのだ。


「今回はおじさんがメインで動いてくれないと。爆弾ラクダなんて倒し方わかんないからさ、よろしくお願いね」

「分かっているよ、すまないな」


 そうだ、集中しないと。リチュアに無事な姿を見せて帰るんだ。

 爆弾ラクダは基本的に温厚な性格だが、繁殖期になると狂暴化し、冒険者を見るなり襲い掛かってくるようになる。だが同時にコブの品質も上がるので、入手するなら今の時期がベストなのだ。

 まぁ危険と言っても、注意していれば回避は難しくない。砂漠ダンジョンに出てくる乱入モンスターにさえ気をつければ、クエストクリア自体は簡単だ。


「ミスターコウスケ、指示を」

「分かった。と言ってもこれまでのモンスターに比べれば大分簡単だぞ」


 爆弾ラクダの行動パターンは単純だ。気性が荒くなるという事は、複雑な攻撃はしなくなるという事に他ならない。


 まずはアンナがパチンコでラクダを牽制。次にミコトが囮になって狙撃ポイントへ誘導する。そして俺がラクダを撃ち抜き止めを刺す。この流れで爆弾ラクダは仕留められるはずだ。


 ……このクエストが成功するかは俺に掛かっている。爆弾ラクダの難しい所は、クリティカルを出して殺さないとコブの品質が大きく落ちてしまうのだ。

 確実にクリティカルを出し、一撃で殺す。繊細な立ち回りが要求される難しいクエストだ。


 目の前に居る爆弾ラクダは三頭、作戦通り行けば大丈夫だろう。


「作戦開始、各自配置につけ」


 さぁ、狩猟スタートだ。

 作戦通り、アンナがパチンコで爆弾ラクダを威嚇した。ラクダに見つかる位置に居たミコトめがけ、三頭が突進してくる。

 そこへミコトが分身の術で幻惑。ターゲットを絞れなくなったラクダは足を止め、一瞬だが動きが停止した。


 よし、今が狙い目だ。


「狙撃!」


 ラクダへ向けてピクウスを射出。寸分たがわぬコースを通り、急所へ向かっていく。


「よし、これでクエストクリアだ」


 クリティカルさえ出せばラクダは一撃で倒せる。だが、やはり思い通りに行くものではなかった。

 突然地震が発生し、砂が大きく陥没した。

 流砂に飲まれ、爆弾ラクダが消えていく。アンナとミコトは急いで離脱し、俺と合流する。


「何、なにこれ!? 何がどうしてこうなってんの!?」

「ミスターコウスケ、少し危険な事になりましたね」

「ああ、よりによって厄介な奴が来るとは!」


 砂漠ダンジョンの危険なモンスターだ。奴が来たとなるとクエストは中断せざるを得ない。


「逃げるぞ!」


 俺が叫ぶと同時に砂漠が爆発し、全長二〇メートルを誇るデスワームが出現した。

 砂漠ダンジョンに潜んでいる死神的なモンスターだ。全パラメーターが異常に高く、まともに戦って勝てる相手ではない。急いで逃げなければ殺されてしまうんだ。

 早くミコトに「閃光の術」を使ってもらおうとするが、ワームの動きが速すぎる。印を結ぶのが間に合わない。


「早くミコト!」

「急いでいますが、どうやら遅かったようで」


 印を結び終わる前に、デスワームが接近していた。もう回避も間に合わない。

 ここまでか……そう思った瞬間だった。


『ラピッドキック!』


 突然赤いシルエットが飛び込んできたかと思うと、デスワームを思い切り蹴り上げた。

 不意打ちにデスワームは怯み、横倒れになる。何事かと驚く俺達の前に、見慣れぬ装備のキャラクターが降りてきた。


 世界観にそぐわない、ロボットのようなアーマーを着込んだ奴だった。背中にジェット推進機を装備していて、機動力を大きく上げる機能が追加されている。と言うよりあの装備は……DLC装備じゃないか!


「お前、一体誰だ。どうしてそんな鎧を持っている」


 戦士とその派生クラスのみが使用可能なDLC装備、ラピッドDだ。俺のゲームギア端末でなければ手に入らない装備を、そいつはなぜか所持している。


『私は君達を助けに来た正義の味方、ラピッドD! 私が来たからにはもう大丈夫!』

「装備をそのまま名前にするな、一体お前、何者だ!」


 DLCの履歴を確認しても購入履歴はない。どこからそんな物を手に入れたんだ。


『疑問は後にしてもらおう。私は君達を助けに来た正義のヒーロー、今はそれだけで充分だろう。ここは私に任せておきたまえ! とう!』


 ラピッドDがデスワームに飛び出した。確かにあの装備を持っていれば、デスワームを倒す事は出来る。

 ラピットDは三分のごく短時間だけ、ステータスを大きく強化する事が出来る。いくらデスワームでも、能力発動中であれば倒す事が可能だ。


『とああっ!』


 目にも止まらぬ超速攻撃により、デスワームが叩きのめされていく。本来ならば戦う事すらできない相手を、まるで赤子の手を捻るかのように圧倒してしまった。

 そしてトドメの蹴りを加えると、デスワームの息の根が止まる。ほんの数分だけならば、ラピッドDの装備者はゲーム内最強クラスの力を発揮できるんだ。


 だけどラピッドDの性能を使えるのは一ダンジョンにつき一回。連続使用は出来ない。


『ではさらばだ! 君達がピンチになった時また会おう!』

「おい待てよラピッドD!」


 制止する間も無く、ラピッドDは脱出アイテムを使って逃げてしまった。


「慌ただしい人だったね、ラピットD。一体誰なんだろう」

「さぁ……私にも分かりかねます」


 ミコトも首を傾げている。って事は白月関係じゃないのか?

 だけど俺以外にDLCを使う奴が居たのか。くそ、これは思わぬアクシデントだ。

 ともあれクエストは失敗、一度戻って体勢を立て直さないと……。


「ん?」


 その時だった。消滅寸前のデスワームに気になる傷がついている事に気付き、確認してみる。

 頭から胴にかけてついた、巨大な切り傷。この傷に俺は見覚えがあった。


「まさか……この傷は!」

「どうしたのおじさん、何かあった?」

「ミコト、この傷……あいつか!」

「可能性は高いです。となると……街から近いですね」


 聞いた瞬間、俺は急いで引き返した。

 あいつだ、あいつが来たんだ。

 かつて俺からワーグナーを奪った、因縁深いモンスターが!


  ◇◇◇


「お待ちしていましたよ、ラピッドD様」


 白月のバンデッタ支社に戻るなり、私はヘルメットを外した。

 ごめんなさいコウスケさん、私は貴方に黙って、勝手な事をしてしまいました。


「やはりあのチート機能はコウスケ様以外でも使用可能。これは大きな収穫です。ご苦労様でした、リチュア様」

「……はい」


 数日前、ワン支社長から私は、極秘でコンタクトを取られた。

 この街に大きな危機が迫っている、解決のための力が必要だ。これが出来なければ、コウスケさんが危ない。そう言われて私は、貴方にわざとコーヒーを零して、あのブレスレットを外してくれるよう仕向けました。


 別のアカウントを制作して、目当ての品物を手にしたらすぐに消す。これで購入履歴は残りません。後は戦士として冒険者に登録、この装備を身に着けました。


「コウスケ様のガードは硬く、あのアイテムを使えるのは貴方しか居ませんでした。すでに白月だけでなく、他の財閥にも応援要請を出しています。デモンストレーションも終わりましたし、これで滞りなく迎撃作戦を敢行できますよ」

「……どうしてですか? どうしてこんな事を。それにコウスケさんではありませんが、これだけの能力があるのに、どうして貴方は支社長で留まっているんですか?」

「……ここには、妻が眠っているのですよ」


 ワン支社長は遠い目をした。


「これでも既婚者でしてね、愛する女性が居たのです。もう、天国へ旅立ってしまいましたが。その妻が残した言葉が、この街を守ってほしい。自分の育った大切な街だから、誰にも壊されたくないのだそうです。だから私はこの支社長に収まり、冒険者を使ってバンデッタを守ってきたのです。ですが、この街に危険なモンスターが近づいてきている。街を守るための大きな力が必要なのです」

「そのために、私を……それならどうしてコウスケさんに言わなかったんですか!」


「レベル1の弱者に期待は出来ません。それに、相手はコウスケ様にとって因縁深い相手。竦んで殺されるのが目に見えています。だから、貴方に戦うよう仕向けたのです」


 コウスケさんの因縁深い相手? その疑問に答える前に。

 街の目の前に、見た事のないモンスターが迫ってきました。

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