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1話 レベルカンストからの転落。

「さて、今日の獲物は、お前だ」


 ボウガンに矢を番え、ワーウルフを睨みつける。俺が受けたクエストの討伐対象だ。数は五体、依頼書よりもちょっと多いかな。

 俺は茂みに身を潜め、スキル「潜伏」で気配を消している。ワーウルフは嗅覚が発達した動物だが、このスキルは制止している間気配と体臭を消してくれる。奴らが俺に気付く事はない。


 ワーウルフは群れを作って生活するモンスターで、警戒心が非常に強い。そして餌を求めて行商人を襲う事があるので、ギルドに討伐依頼が良く来るモンスターでもある。


 狼退治は俺のような中堅の冒険者にとって、実入りのよい仕事だ。


 俺はレベル上限50まで鍛えた冒険者だ。クラスは狩人、弓や罠の扱いを得意とする職業で、クラス補正として獣系のモンスターに対しボーナスダメージ1,5倍の上昇補正がかかる。よって獣系モンスターに対し俺は無類の強さを誇るのだ。


 それに俺は数々のクエストをこなしてきた銀級冒険者。モンスターの知識に関しては、自慢じゃないが自信がある。


「狙撃!」


 弓の命中率を上げるスキル、「狙撃」を使いボウガンを放つ。ボウガンも弓の仲間、こいつにもスキル補正が乗るのはありがたいな。

 ワーウルフの弱点、柔らかい胴体部を狙ってボウガンを撃ち抜く。急所に直撃させる、つまりクリティカルを出せばダメージはより大きくなるのだ。


 ランク補正とクリティカル補正によってワーウルフは一撃で倒れる。俺の存在に気付いた仲間は反撃しようと顔を向けるが、すぐに爆竹を投げつけて威嚇する。

 ワーウルフは火を嫌う、爆竹で派手に火花を散らせば、奴らは蜘蛛の子を散らす様に逃げていった。


「これでよし、後は確認と行こう」


 別に無計画に逃がしたわけじゃない、ワーウルフが逃げた先には罠を仕掛けてあるのだ。

 まずは一つ目、落とし穴。これは連中が居た近くにダミーの茂みを仕掛けて用意したものだ。

 ワーウルフは身の危険を感じると、木の洞や茂みの中に身を隠す習性がある。そこで落とし穴の上にダミーの茂みを乗せておく事で、自ら落とし穴に向かうように仕向けていたわけだ。


「居た居た、二頭か。次は水辺かな」


 二つ目は水辺、そこに仕掛けたのは虎ばさみの罠だ。

 向かってみると、うん居た。一頭が虎ばさみで捕まっている。


 これは落ち着いたワーウルフを狙った罠だ。危険を乗り越えたワーウルフは本能的に水辺へ向かう。極度の緊張から水分を欲するそうなのだ。


 だからそこを狙う。ワーウルフが来そうな流れの緩い浅瀬に虎ばさみを仕掛け、待ち伏せだ。金属臭や俺の体臭は水が洗い流してくれる、鼻の利く狼でも逃げるのは困難さ。

 そして最後は森の中にある開けた場所だ。


「よし檻に入っている。これで終わりだな」


 ワーウルフは平時開けた場所を好む習性がある。外敵をすぐに見つけるためと、餌であるネズミや小鳥を捕えやすいようにだ。

 そこで森の広場に肉を入れた鉄檻を仕掛けておく。基本野生の獣が満腹である事はない、だから必ず引っかかる。


 これにて依頼達成だ。あとは肉と皮を手に入れて、ギルドに報告するとしよう。


 解体用のナイフを突き立てるだけで、ワーウルフは青白いブロック状の粒子に分かれ、肉と皮に分離する。高品質の獣肉と上質な革だ。

 こんな簡単にアイテムが手に入るのだから、やはりこの世界は便利な物だ。


  ◇◇◇


「ワーウルフの討伐依頼、確かに達成しましたね。お疲れさまでしたコウスケさん」


 ギルドの看板娘、リチュアから労いの言葉をかけられ、少し疲れが取れた。

 リチュアは受付嬢の中でも特段の美女だ。亜麻色の髪に、ルビーのような紅の瞳。そして鼻筋の通った顔立ち。男ならまず放っておかないだろう。これでまだ十八歳ときたものだ。

 片田舎にある小さな冒険者ギルドの、オアシス的な存在だ。


「ついでに革と肉の納品依頼はあるかい? ワーウルフから大量にドロップしたんだが」

「勿論ありますよ。あら! どれも品質が90以上もありますね。これは報酬に色をつけなくちゃ」


 愛らしい笑顔についドキリとする。全く、今年三十四になるというのに、年下の女に心を奪われるとはな。

 俺が取ってくる素材は品質が高いと評判だ。と言うのも俺は狩人のスキル、「品質向上」と「入手アイテム増加」を習得、最大練度10まで育てている。


 これは狩人の他には盗賊しかとれないスキルだ。持っていればドロップアイテムの数が最大二倍まで増え、品質の乱数も高ランクに固定される。俺のように拠点を決め、のんびりと過ごす冒険者には必須ともいえるスキルだ。


 何しろさっきのように、ついでの納品クエストもクリアできるのだから。効率よく日銭を稼ぎ、悠々自適に過ごす。それが俺の毎日だ。


「コウスケさんのお陰で、村の皆がとても助かっています。貴方が率先して、低ランクのモンスター退治や納品クエストをこなしてくれるから……他の冒険者の人達は、報酬の大きな高ランクのクエストしか受けてくれないので」

「俺は別に、最強とかそういうのを目指していないからな。大抵の冒険者は皆、名を上げたり、最強武器欲しさにレアな素材を求めたり、とにかく野心に満ちている。でももう夢を諦めた俺には、そんな物より日々を過ごす金の方が優先なんだ」

「……それもちょっと、寂しい気がします。だってコウスケさん、とっても強いのに」

「言ってくれるのは嬉しいな。けど俺はもういいんだ。夢はもう見ない事にしてるから」


 俺は若い頃、最強を目指していた。クラスも狩人ではなく、上級職のクルセイダーだった。

 当時の俺は冒険者ランキング8位まで登った、屈指の実力者だった。頑張れば冒険者ランキング1位も夢じゃない強者だったんだ。


 だけど今でもトラウマになっている事件を起こしてしまったせいで、俺は一線を退いた。


 クラスを下級職の狩人にシフトし、隠遁生活を送るためにスキルもそろえた。今の生活は刺激こそないが、緩やかに過ごせている。社畜時代だった前世を考えれば、理想的なスローライフだ。


「じゃあ、また明日。モンスター退治のクエスト、用意しておいてくれよ」

「わかりましたー。それじゃ、明日も待ってますね。コウスケさん」


 リチュアの微笑みにドキリとする。こんな別嬪さんと毎日会えるし、今の生活も悪くない。


  ◇◇◇


 生前、俺は高橋幸助と言う名を持つ、しがないサラリーマンだった。

 とはいえ、勤め先がブラック企業だったばかりに体を壊してしまい、最終的にはうつ病にかかって自殺してしまった。電車に轢かれる飛び込み自殺。今思えば、我ながらバカな事をしたものだ。


 だけど気が付いた時、俺はこの異世界に転生していた。社畜時代、現実逃避にやっていたVRMMORPG、ワンダーワールドの世界に。この手の話でお決まりの、前世の記憶を引き継いでな。


 ワンダーワールドはオープンワールド形式の非常に自由度が高いゲームだ。


 アバターを決め、自分の思う通り自由に生活する。ゲーム内の冒険者ランキングで一位を目指すのもよし、畑や田んぼを作って農業に励むもよし、店を出して商業に勤しむのも良し。遊び方は自分次第というのがキャッチコピーだ。


 俺はゲームにとれる時間が多くなかったから、冒険者ランキングは無視してひたすら農業や商業をメインにプレイしていたよ。


「だからこの世界に転生してからは、冒険者として最強になろうと思ったんだがね」


 今の生活には満足しているよ。のんびり気ままにクエストをこなし、暇なときは釣りをしたり、趣味の木工芸に勤しむ。とても自由でおおらかな日々だ。


 ……それでも時々あの事件を思い出してしまう。


 かつて俺はワーグナーと言う女性とパーティを組んでいた。だがあるクエストを受けている最中、俺の判断ミスで彼女を死なせてしまった。俺が無力なばかりにな。


 それ以来俺は剣を置いてしまった。戦うのが恐くなってしまったんだ。


 ワーグナーを想うと卑怯者だと思う。こんなのただの逃げだって分かっている。だけど自分の弱さを痛感した俺は、完全に心が折れてしまったんだ。


「さて、宿に帰ってメシ食うか」


 こんな時は、美味い飯を食うに限る。俺の拠点としている宿酒場は、メシが美味い所なのさ。エールを飲んで肉食って、大衆浴場で汗を流して寝る。これでまた明日も頑張れそうだ。

 ……それでも胸の疼きは止まらない。俺が犯してしまったミスは、未だに俺を苦しめているんだ。


  ◇◇◇


「コウスケ! あんたに届け物が来ているよー」


 翌朝ボウガンの手入れをしていると、女将さんに呼ばれた。

 俺なんかにお届け物? そんな事を思って行くと小包を渡された。


「差出人は?」

「それが分からないんだ。何か心当たりはないかい?」

「いや無いな」


 俺には文通をするような相手なんかいない。クルセイダー時代の友人には俺がここに居ると伝えていないし……心当たりが全くないな。


「怪しいな……ともかくこれは預かるよ。もしもの事があったりしたら危ないからさ」

「気をつけなよコウスケ」

「分かってる」


 とは言えあて先不明の荷物を開けるわけにはいかない、こいつは後で処分するか。


「おはようございます! リチュアが来ましたよ、コウスケさん!」

「あれ、どうしたんだい。朝から珍しいな」

「実は朝ご飯のパンを切らしちゃって……それで横着しようとここに来ました」

「几帳面な君らしくないね、でもたまにはそう言う時もあるか」

「へへ……あれ、コウスケさん。その小包はなんですか?」

「いや、それが俺にも分からなくてね」


 なんとなくリチュアに見せてやる。彼女は興味津々に寄ってきて、俺の前で転んだ。

 その拍子に俺の手から小包が落ちて、封が解けてしまう。すると小包の中から煙が立ち上ってきた。


「うわっ!? ゲホゲホっ……なんだこれ、煙?」

「ごめんなさい! でもなんでこんな?」

「分からない。……あれ? なんだか、体が重い?」


 それだけじゃない、頭の中にあった知識が全部抜けたような感じもする。これまで覚えていた物が全て、なくなった様な……!?


「まさか、まさか!?」


 急いで冒険者カードを出し、レベルとスキルを確認する。その瞬間、俺は血の気が引いてしまった。


「レベルが……レベルが1に落ちている!?」


 それだけじゃない、これまで苦労して取得したスキルも軒並み無くなっている。あの煙を浴びた瞬間、俺の全てがリセットされていた。


「なんで……なんだ……なんで、俺の……すべてが……!?」

「コウスケさん、その、ごめん……なさい……」


 リチュアの声が遠くに聞こえる。俺はショックのあまり、そのまま気絶してしまった。

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