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金翼の聖譚曲(オラトリア)  作者: 大狸
第1章:金の翼をもつ学生と天へと続く道
3/5

独り暮らし、、、?

ルイの朝は独り暮らしの学生にしては早い、というか余裕を持っている。といっても、彼が早起きなのではない。どちからというと、というよりも明らかに、朝は弱い方だ。しかし、だならといって始業時間ギリギリまで粘ることはできない。彼にそんな堕落を許さない女がいる。


「ルイさん、おはようございます。」


ルイが渡した覚えのない合鍵をもって毎朝侵入する朝の悪魔、黒峰麗奈である。


この女は毎朝6時には起き、6時45分には身支度を済ませてルイの部屋に訪れる。そして彼を起こし、寝惚けた彼と会話をして彼が覚醒するのを待ちながら朝食を作る。そう、彼の食生活についての世話をも仰せつかっているのである。ちなみに麗奈は、寝惚けたルイの相手をする時間がかなり好きである。


そしてだんだん覚醒してきたルイは、麗奈の用意した朝食をたべて体に魔力を通す。するとルイは脳みそから体の節々まで覚醒する。12才の少年はそうしつけられている。一通り魔力を体に馴染ませ、ある程度放出して魔力造成機関にその日最初の仕事をさせてからシャワーを浴びる。その後で党派(パーティー)のメンバーの諸々の報告等を見て登校する。未だ8時である。


その日は一時限目は戦闘実技の最初の授業だったので、更衣室前で麗奈と別れる。普段ルイは、実技の時にはスペインの魔法道具会社、チスピの戦闘衣(バトルクロス)身に付けている。学校推薦の物がないわけではないが、殆どの者が各々好みの物を身に付けている。党派(パーティー)として活動するときは黒の戦闘衣(バトルクロス)の上に白のローブと金色の仮面をつけているが、さすがにそのローブをつけるわけにはいかない。だが変わりに、ルイは新たな装備を調達していた。刃のない矛である。小さな棒を袖に仕込み、ロッカーに服と荷物をいれて鍵に魔力を通す。魔力で個人認証をしてロック・解錠できるので便利である。


ホームルームはなくすからそのまま実技場にこいと端末にお知らせが入っていたので、そのまま実技場に向かう。


「よお、早いな、戰龍(そよしげ)!」


「教室に寄らなかったからな。来てすぐ着替えてそのまま来た。お前、けったいなもの使うんだな。」


ルイが実技場に入ってからいの一番に話しかけてきた男が脳筋、ではなく剛力である。


「おうよ!戦斧(バトルアックス)が俺の得物だ!」


本当にデカい。いかつい見た目のこいつにピッタリである。しかしよくみると、かなり可動式の部位が多そうである。


「それはもちろん小さくできるんだよな?」


「あ、当たり前だ。さすがにこんなの持ち歩けねえだろ?」


「へえ、一応それ小さくするんだ。剛力君ならならそれ担いで街を歩いてそう。」


そう言って横から来たのはセミロングの女子だ。たしか新井とかいう、バスケ好きの女子。


「なにおう!俺は脳筋じゃないっての!剛力だ!」


「お前それ何回も言ってるけどそれただのギャグにしかなってねえぞ。」


「お、お前までそんなこと言うのかよ、、で、お前の得物は何なんだ?素手か?」


「まあ本当はそうなんだが、事情があってな、、今日は得物ありだ。つってもモノホンの武器じゃぁない。ちょっとこんなところで使うには面倒すぎる代物なんだよ。まあ見てのお楽しみだな。」


そんなことを話しているうちに続々と人数が集まり、教師が来て授業を始める。


「時間になったから始めるぞー。みんなの担任、俺が魔法実技を担当する。そしてー、この時間は大学生の指導教官を呼んでまーす。はいこっちから角谷くん、西野さん、大倉さん、錦戸くんね。つっても基本的にはここでは防護魔法があるから身の危険はあまりないからねぇ。まあアドバイザー兼防護魔法の調整役って所かな。これで5コートだね。ここはAクラスだから得物の使用も許可する。防護魔法があるから安心していい。って言っても安心できないよね。じゃあ試しに代表で二人の勇気ある若者がこの防護魔法の証明をして欲しい。」


ここでは負けても大丈夫だから安心して戦え、といっても、そう簡単に信じられるものはいない。


「ここはひとつ、ここの校長の娘として身を張るべきじゃないのか?誰もやりたがらないみたいだぞ?」


横からルイがボソッという。近くにいた数名は聞こえたのかぎょっとしている。


「あら、ならこの場で最も打たれ強そうな貴方がお相手をしてくださるのが望ましいですね。」


麗奈の声が少し大きくなり、目敏く嗅ぎ付けた教師にノックオンされる。


「おお!やってくれるのか?ありがたいありがたい。じゃあそこの一番コート入ってね。そう、位置について、それじゃあ始め!」


始めの合図があった瞬間、麗奈は詠唱無しで闇の身体魔法を発現し、勘に従って足に魔力を集中、後ろに跳躍する。次の瞬間、麗奈の立っていた場所に光柱が立ってた。


「ほお、流石にこれくらいじゃぁ沈まないか。」


話しかけるルイに対し、そんな余裕はないと言わんばかりに麗奈は沈黙を保つ。


必要以上に余裕を見せているように感じられた麗奈は、身体魔法から全身魔法への昇華詠唱を行いながら、ルイに攻撃を浴びせている。


初撃、追撃、組み立てに隙をなるべく作らないように意識されている堅実な組み立て方である。明らかに格上と見ているルイに対しては適切な対応と言える。しかし、その間にしっかりと詠唱を続けている。


「来たれ、闇の主、我にその力を与えたまえ。闇の力(ノックス・ポテスタス)全開(マキシマ)


瞬間、氷のような冷たさを纏った闇が麗奈の全身を包み、吹き荒れる。


「ほお、成る程なぁ。有名な黒峰の氷魔法。その影響はこんなところにもか。」


明らかに、普通の闇の全身魔法とは違う。近くにいるだけでこんなに冷気が伝わってくるようなものではないのだ。


数秒後、麗奈が身構えたと思うと、次の瞬間にはルイに攻撃可能な距離にいる。当たり前だがルイもよんでいるので後ろに跳躍する。突っ込んできた麗奈に対し、ルイの立っていた場所から光の磔が突き上げる。


「くっ!?」


あわてて急ブレーキをかけた麗奈に、磔が飛んで襲い掛かる。


カンッ


甲高い音が響く。麗奈の手には杖が握られている。仕込みの杖だ。


「お前、腕の方気にしすぎだ。仕込みがバレバレだぞ。」


依然として真剣な表情で集中する麗奈が、杖を掲げて叫ぶ。


漆黒の砲撃(ニガロ・ボンバーダ)!」


麗奈の前に9つ、漆黒の砲弾が現れる。


「無言詠唱か、、中々に頑張ったみたいだな。」


だが明らかに、中学生になりたての子供相手に使うような代物ではない。防護魔法なしに相手に当たれば直撃でなくとも容易に人命を奪える魔法だ。


防護魔法の外で待機していた大学生の1人が緊急防御レバーをひこうとするが、次の瞬間、レバーから指先に細い針がのび、チクリと人差し指の先を刺した。

彼が驚いて手を止めた隙に、砲弾が光の縄に拘束される。


「おお!」


そこまで黙って見ていた瀬良は、感嘆の声をあげる。校長のコネで大学推薦枠からぶちこまれたと聞いていた彼は、目の前で戦う少年が政治的な理由でなく、実力面でコネを使ったのだと理解した。完全に戦い慣れしているのがわかったのだ。


ルイが手を握る動作をすると、縄が麗奈の砲弾をきつく締め付け、引きちぎった。


「こんなことしてても仕方ないか。やっぱ王道でいこうぜ。その方がみんなにも分かりやすいだろ?」


次の瞬間、視界が回転した麗奈は己の体が地面に転がっていることに気付いた。見上げると、己が先程までいた地点で、光を全身に纏うルイが立っている。


「今、なんも見えなかったぞ!」

「は、速い!?」

「てかあれ、全身魔法じゃね?そんなまさか、詠唱なしで、、」


カラカラと音がする。自分の足元に転がっていた麗奈の杖を、ルイが麗奈の方に放った。


「まだ終わってないぞ?投げられただけじゃないか。」


次の瞬間、己に迫る手刀を杖で弾きながら、もう片方の手で上半身を持ち上げ、後ろに跳ぶ。


すると次の瞬間、弾かれていたのは杖をもつ麗奈の手で、弾いたのは刃のない矛だった。


しかし、麗奈は握り潰されて霧散した魔力をかき集め、再び精製した砲弾で後ろからルイを狙う。ルイが矛でそれを斬っている隙に麗奈は杖を取り戻し、そのまま返し刀でルイの腰辺りを攻撃する。強引で少し浅くなったその攻撃をひらりと交わしたルイは、矛を回して横に移動してきた麗奈を攻撃する。体勢が崩れている上、腰の辺りに攻撃が来たので両手で杖をもち、そちらに魔力を集中して矛を受け止めるが、それが勝負の終わりを決めた。


光耀牢獄(ルクスカセレム)


直接魔法名のみの詠唱で発現された檻は、矛から杖を伝って光の魔力が麗奈を閉じ込めるる。完璧に展開された牢屋にたいして、麗奈にできることはなかった。


拘束系の魔法を、直接接触して展開するというのはよく使われる手法だ。しかし、全身魔法を展開している相手を拘束するのは簡単なことではない。相手の魔力の集中している箇所に檻の種を植え込み、相手の体より先に展開している魔力を拘束する必要がある。そのためには相手の魔法を読み、魔力をどこに割いているかを把握していなければ、相手を閉じ込めても直ぐに破壊されてしまう。


闇属性の魔法使いは光属性とは互いに魔法の破壊に関して相性が良いはずなのだが、こうなってはどうしようもない。


「終わったね。もちろんこんな高速バトルをみんながみんなできるなんて思ってはいない。だけど、目指すべき場所ではある。無詠唱、無言詠唱、直接詠唱、接触展開。学べる技術はたくさんあったと思う。つまり、君達にはこれらの技術を1つでも多く習得して欲しい。1つでもあるだけで戦い方が大きく変わる。一応まずこちらでリーグを組んであるから別れてくれ。」


リーグ表が各々のタブレットに送られてきたが、そこにはルイの名前はなかった。


「君はちょっとこっちに来てくれ。」


教師に連れられ、皆とは違う実習室に入る。


「君の事情は色々と聞き及んでいるよ。急遽槍術を習得したいこともね。特待の君を強すぎるからという理由で放っておくわけにはいかないし、今日は俺の知る限り最も強い槍使いに来てもらった。紹介するよ。」


「いや、いりません。アメリカ海兵隊(U.S.)特殊作戦コマンド(MARSOC)魔法襲撃第1小隊長、エミリー・ブラウン。なぜ貴方がここに?」


ぐっと顎を引き、敵をじっくり観察しながら探るような目を向ける。


「あ、あははは。じゃああとはお二人でー、、」


「おい!あんた教師だろ!」


ルイが瀬良に抗議するが、防護室からでて魔法をかけてしまう。


「余所見をするなんて、随分と余裕ね、流石"光の化身(ヌール)"様。」


おそらく無言詠唱で発現された50を越す雷砲弾が、ルイを狙う。


待機魔法解放(ブラスト)光化(ルクシェド)!」


雷砲弾をひらりひらりと交わし、時折訪れる回避不能な弾道の弾はルイを透過する。しかし、透過した弾は再び戻ってくる。操作弾だ。


「おらぁ!」


ルイは純粋に膨大な魔力を後ろにぶつけることでそれをなんとか打ち消す。その間に半身になったルイに槍が伸びる。


隙をついて雷の全身魔法を発現した敵は、魔力核、つまり属性化する前の魔力造成機関を狙って突きを繰り出す。軽く身を捻ることで急所をかわしつつ、ルイは己を貫く槍を気にもせずに手に矛を出現させ、敵の首を貫こうとするが、それを上半身を後ろに反らすことで交わした敵はルイの下半身への追撃を槍でいなしつつ、距離をとった。


「流石ね。その歳で『属性化』にたどり着ける魔法使いなんて、うちのボスくらいしか知らないわ。しかも待機させるなんて、いったいどれ程の魔力をもっているの?"金翼"で育つって言うのはこういうことなのかしらね。」


「どういうつもりだ?"神王の娘神王の娘(アテナ)"」


すると、キッと目を細めて答える。


「その名前で呼ばないで。私の父親はただの人間よ。酒と女が好きなね。どういうつもり、というのは私が日本にいること?それとも、ここで貴方と槍を向けあっていること?」


「両方に決まってる。」


「そうね、まず、貴方と敵対するつもりは無いの。ここに居るのは瀬良に呼ばれたからよ。私、ギリシャの魔法学校からこっちに留学していたことがあってね、その時、彼の弟にお世話になったのよ。こういう仕事についてからも、交流はあったのよ。彼はあれでも元々は特殊作戦群の出だからね、引退したけど。」


「それで、日本に居るのは、"旅団(ブリゲード)"絡みか?」


「、、、貴方に隠しても仕方ないのかしら。これはね、日本魔法機構と海兵隊の合同作戦なの。貴方をここへ呼んだクロミネの当主も一員よ。なぜ彼女が貴方にこれを隠したがるのかは分からないけれど、私は貴方を作戦に組み込むべきだと進言しました。因にだけど、聞きたい?」


「当たり前だ。奴らに関することならなんでもな。」


「良いわね、そのギラついた目。それじゃあ教えてあげる。最近、自衛隊内、ひいては防衛省内で独自に魔法実力部隊を創設しようという動きが加速しています。」


「その話は知ってる。ニュースでもよくやってるよな?でもそんなの、この国の魔法史的な事情からいって、魔法機構が認めるはずがない。」


「そう、許さない。だから今回の作戦が立案されたの。といっても、我々は今すぐに行動を起こすつもりはない。今は予備戦力としての意味合いが大きいのよ。作戦は、敵の戦力の配置が明らかになった段階で、最も効果的で劇的なタイミングで行われる。まだ情報を収集して、期を見る段階なの。」


ルイが静かに属性化を終了する。そして構えていた矛を地面につき、相手も魔法を終了するのを待ってから矛を収め、目の前の女の双孔を覗く。


「まさか、それに奴等が噛んでるというのか?」


今までとは違う、一段低いトーンで放たれた疑問符は、クラスメイト達がその場にいれば腰を抜かすほどのプレッシャーを含んでいた。


「そう、そういうこと。カナ・クロミネは短期的な理由で貴方をここへ呼んだ訳じゃないのでしょうけれど、このタイミングで呼ばれたのはこの件も無関係じゃないはずよ。この作戦は、死の旅団(デビルブリゲード)への始めての大規模な撲滅作戦になるわ。リーダーの所在は確認できていないけれど、側近を含めた最高幹部達が多く確認されてるし、きっと熾烈な戦いになるわよ。奴等がここへ侵入して魔法使いの卵をさらっていく、ないし虐殺していく可能性もあるわけだから、私達部隊長は各魔法学校を拠点にしているの。」


それを聞いたルイが眉を潜める。


「中隊規模で特殊部隊が展開されるほどの荒事なのか?それに、話を聞いた感じじゃどう考えても政府の許可は無さそうだよな?」


「いえ、違うわ。私の小隊しか海兵隊からは来てないわ。横須賀の海軍基地には増援が待機しているみたいだけど。部隊長っていうのは分隊長達のこと。あ、だから他の学校や都市には分隊がいるのだけれど、ここには私しか居ないのよ?貴方達がいるから。何はともあれ、私には潜伏するための部屋が必要よ。そして事情を知るのはあなた一人。意味がわかるわよね?」


「は?ヘレナの部屋に泊まれ!」

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