帰還
自己紹介で初日の予定は終わりだったが、みんなで遊びに行くか、という話になり、先生の知り合いの運営する(予定の)創業前のアミューズメントパークに行くことになった。ルイは時差ボケ等もあるので辞退しようとしたが、クラスメイト達(主に女子生徒達)の強い勧誘を受けて向かうことにした。
「でも俺ちょっと寄ってくところがあるからみんなは先行っててくれ」
えー、一緒に行くのも楽しいんじゃん!と不満を漏らす者も多く居たが、来ないよりは言いということで最終的に納得してもらった。
「それで、どこに行くんですか?」
日本を1人で歩かせるのは心配なので私もついていきます、校門で別れるときにみんなと離れてこちらに来た麗奈に聞かれる。
「まずは部屋に戻る。取ってきたいものがある。その後はお前の家だ。」
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「全く、あやつはどんな教育をしたのじゃ。人の家にバイクで突っ込んでは行けませんと教わらなかったのかね?」
黒峰哲朗。現在は元老として天皇陛下の近臣も勤める老人だ。
「流石ですね。門に最上級魔法を施しているなんて。でも自動で開けられない門なんて今時あるんですね。」
五分前のことだ。
黒峰家の屋敷の門にバイクで突っ込んだルイは、門が開かないのを見て闇属性の魔法を行使しようとしたが、門に仕掛けられていたカラクリを哲朗が起動、ルイに門をすり抜けさせた。
「おお!この家すごいなぁ!」と言いながら、門の段差でジャンプして屋敷に突っ込んだルイのバイクは哲朗の手で壁をすり抜け続け、事前に麗奈に連絡を受けて待機していた応接室の扉をすり抜ける。そこには微妙に段差があり、バイクが跳ねるとみてそれをそのまま落とそうと闇の沼を作って哲朗は待ち構えていたのだが、すり抜ける前に魔法の発現を感知したルイがバイクを縮小。バイクが跳ねた勢いを利用してそのまま宙返りし、宙に浮いた後ろの麗奈を片手で両足、反対の手で上半身を抱き締めて魔力を展開する。麗奈ごと魔力を纏い防御を固めた後、光属性の捕縛系魔法、光の鎖を無詠唱で発現する。
哲朗が闇属性でそれを中和し、破っている隙に、空中で麗奈を横抱きにして着地。その間に練った魔力を着地と同時に展開する。
「光耀世界」
「くっ!?」
魔法名の直唱と共に広げられた両の腕から光の世界が広がって行く。爆発のように広がった光の世界は、屋敷全体を包み込む。
「これでもまだやりますか?穏便に行きましょうよ。」
「降参じゃ。全く、あ奴はどんな教育をしたのじゃ。バイクで人の家に飛び込んでは行けないと教わらなかったのかね?」
ルイが光の魔力を霧散させ、重力の影響を再び受けた麗奈の体を再び抱き留める。
すると、部屋の外からコツン、コツンと足音が聞こえてくる。
金属の高い音と共に扉が開いて女性が入ってきた。
「そんなことをわざわざ教える親はどこにも居ませんよ、お父様。」
黒いドレス調の服に身を包んだ女性は麗奈に良く似ており、真っ黒な髪に水色の耳飾りが良く映えた清楚さとその整った目鼻立ちが醸す華やかさが、彼女の纏う冷たい闇に調和してその美しさを何倍にも引き出している。
「お母様!」
「あらあら、貴方仕事が早いのね。でもね、戰龍君を捕まえなさいとは言いましたが、捕まれとは言ってませんのよ?」
そう言われた麗奈は恥ずかしさに顔を赤らめ、ルイの目を見てきた。
「降りたいのか?」
無言で頷く麗奈に首元に捕まるよう言い、抱っこの角度まで持っていって優しく立たせる。その間ルイは距離の近くなった麗奈の目を覗いていた。麗奈をおろすと、鋭い眼差しで視線の矛先を哲郎に変えながら言う。
「そうか、成る程。良く分かった。黒峰家が俺を呼んだのはこれが原因か。お前、世界樹に縁が有るな?」
その言葉に、哲朗の目線が一気に鋭くなる。
「ほう、ばれてしまったか。そうじゃよ。麗奈は世界樹に縁がある。そしてそれはお主もそうじゃろう?そうでなければお主が魔法を使えるはずがないからの。」
「ああ。それはそうですよ。尤も、今の俺はスペインの世界樹に移管されていますけど。だからあなた方が干渉できるものではない。ライセンスはスペイン王国労働省が発行したものだし、今の俺は血筋は違うが一応マドリード・アブスブルゴ家の人間です。あんまりあらざかしをしない方が良い。そこの所を弁えていただかないと、潰されますよ?スペイン魔法界と日本に魔法界が戦っても勝ち目はない。マドリード・アブスブルゴ家だけで6冕家の半分を十二分に相手取れる。それに、最近じゃサンピエトロまで俺に干渉してくる。訳がわからない。」
「そんなつもりはないわい。こちらとて命が惜しいからの。じゃが日本の魔法人口はスペインの2倍じゃ。向こうと違って魔力を持つものはほとんど義務的に皆教育を受けてある程度の使い手になる。全員集まればかなりの数じゃぞ?それに我が国の魔法実力部隊は魔具という強みがあっての。」
魔具。魔法を行使するのに使う道具だ。所定の魔力を込めるだけで発動できる、魔法特定型の物もあれば、行使する魔法の種類によってことなる結果を得ることのできる物もある。魔法界の歴史だけでみると世界で最も古い(世界樹との遭遇が早かったので)日本は魔具研究と発掘の歴史も長く、大型魔法を簡単に行使できる火器を実力部隊に配備している。
「魔具くらいスペインにもある。それよりも恐ろしいのは、、、無駄話はこれくらいにしましょう。まずは、お初にお目にかかります。ルイ・ソヨシゲ・M・アブスブルゴです。噂に違わぬ美しさ、眼福です、"闇の魔女"。」
「そうですか、貴方のような若い方にそう言って貰えるのは嬉しいです。黒峰香菜です。私もまだまだ現役かしら?」
「そう思いますよ。ところで、まさか世界樹だけが理由でこちらに俺を呼んだ訳じゃないですよね、」
「ええ、まずは貴方にこれを。」
香菜さんが差し出してきたのは、頭が7に0が7個ついている数字が書かれている小切手だ。
「貴方への仕事の報酬です。この学校に常駐して警備戦力となってください。期間は6年間。現在魔法機構直轄中学へ干渉を企んでいる物達がいます。学校や機構からいくらかの戦力が出ますので警らや巡回を求めはしませんが、それで対処しきれないような敵の大戦力が投入された場合の戦力として私が選んだ者のうちの1人が貴方と言うことです。」
「成る程。つまり、俺は傭兵という訳ですか。しかし、学校や機構が用意した戦力で不安とは、、」
「要はそう言うことです。ですが外出は自由に許可します。要は貴方が多くの時間をあそこで、ひいては学園都市で過ごす事が肝要なのです。そして2つ目、これがあなたの党派がこれを許可した主要な理由ですが、その組織というのはどうも悪魔の旅団。貴方たちはこれに詳しいようですね?」
その瞬間、それまで顔を緩めて話していたルイの顔が急に真剣身を帯びる。
「はい。奴等とは戦争状態と言って良いでしょう。現に俺も、構成員を5人程殺った。奴の側近と思われる奴とも遭遇したことがある。流石に命からがら逃げてきましたけど。」
「そう。第5次中東戦争であの精強なイスラーム連合魔法師団から恐れられた"光の化身"でも逃げるのが精一杯とは、かなり手強そうですね。ですがどうやら日本は彼等のターゲットになってしまったようなのです。それが貴方をここに派遣した理由でしょう。もちろんアルバさんにもそれをお願いしてはいますが、純粋に貴方が和製魔法を学ぶことは大事だと思うのです。和製魔法は使い勝手が良い訳ではございませんが、光属性はとても強力です。貴方程の技量がおありなら、西洋の魔法で戦いつつ勝負を決めるピースになれるのではないかと考えています。それが私が貴方をここにご招待させて頂いた理由です。そしてこれは提案なのですが、夏休み、娘の校外学習を引率して欲しいのです。」
「引率?」
怪訝な顔をして香菜を見る。
「ええ。そろそろ麗奈も実戦経験を積んでも言い頃でしょう。いえ、積まなければなりません。しかし、今初参戦に適当な戦地というのが見当たりません。東南アジアのジャングルでゲリラ戦を体験させたいわけではありませんし。日本では想定できませんから。」
「この夏といえば、まさかクリミア作戦か?悪いがうちの党派はそこに参戦する気は無いですよ。」
「じゃが我々は知っておる。ウクライナ政府とアメリカ政府、日本政府、欧州連合が欧州魔法連合軍向けに緊急予算を編成して支払った。スペイン王国労働庁からランクAのライセンスを与えられておる君が傭兵として声がかかっておらんはずはないじゃろ?その時に麗奈を一緒につれていって欲しいのじゃ。」
真剣な面持ちで哲朗が言う。しかしルイとしては腑に落ちない。
「麗奈はまだ12才です。普通に家に入っている12才の少女が実戦経験を積む必要がどこにあるというんです?僕みたいなはぐれならともかく。」
「君はしっかり党派に所属しているのだからはぐれとは言わんよ。さて、理由というのも、まだわかっていることともそうじゃないともないから言えないのじゃよ。そこは分かっておくれ。」
神妙な面持ちで言う哲朗に、これは口を割れなそうだと見たルイは追求を諦める。
「分かりました。しかし条件があります。まず自分はヘレナと共に参戦するつもりです。よろしいですか?」
「構いません。むしろ大歓迎です。彼女はこの子の憧れでもありますから。」
「お母様!」
「それは結構。そして、我々はスペイン王国傭兵局の名義で参陣します。麗奈の名義はどうするつもりですか?まさか日本魔法機構の名義で行くわけではないでしょう?」
「そのまさかです。麗奈は日本魔法機構名義で参戦します。昨日付けで日本政府も魔法機構も実力部隊の派遣を決定しておりまして、日本名義での参戦は何ら問題はないのですよ。」
「そういや憲法改正だとかなんとかニュースになってましたっけ。成る程、それじゃあスペインの家に手を回して一緒に配置してもらいますので。」
「分かりました。次に報酬の件なのですが、こちらを差し上げます。入りなさい。」
重厚な扉の開く音がし、メイド服を来た女性が入ってくる。
「貴方にこれを。」
メイドが応接室の机に置いた長い金属製の箱。その包みを外し、鍵と思われる金具に魔力を通して解錠した香菜は、ルイに蓋を開けるよう促した。
「これは!?」
蓋を開けた瞬間、ルイの心臓がドクンと高鳴る。
「天沼矛です。これは我が家に伝わりし宝具の1つ。今日本にある宝具の中で間違いなく最高ランクの物です。しっかり使いこなして頂ければですが。」
「然り。今までこれを使いこなしたという者を知らぬ。先祖代々伝わっておるという話は聞くが、未だ使いこなせた者がいるという記録はどこにもないのじゃ。しかし1つだけ確信していることがある。お主なら使えるということじゃ。その矛を手に持ってみてくれんかの?」
ルイの目の前の矛。それは一見何のへんてつもない古いだけの只の矛のようだ。その矛に、ルイはゆっくり左手を伸ばす。ゆっくりゆっくり手が近づき、指先が仄かに触れると、変化は起きた。
「!?」
神聖な光と闇を同居した魔力を放ち、箱から出てきてゆっくりとルイの右手に収まる。
「なんと!?」
香菜は面白そうに微笑み、麗奈と哲朗は驚愕してくちをあんぐり開けている。
「まあ!良く見たかしら?麗奈。」
ルイがそちらを見ると、麗奈は顔を赤くして恥ずかしそうにルイの方を見返してくる。
「私の言ったことは正しかったでしょう?」
「ああ、ま、まさか!本当に、、、」
各々衝撃を受ける中、1人だけ居心地の悪そうな者が居る。
「あの、、これ絶対何千万級の値がつく品だと思うんですけど。本当にこれを俺に?」
「そうじゃ。使い手が見つかった以上、このままこの家で埃を被っとる必要もない。しかしまさかこんなことがあるとはなぁ。この家にあるのではそれは無価値じゃ。誰も使えないのじゃからな。だから良いのじゃ。それはお主が使ってくれ。ただ君に1つの仕事をノーギャラでこなしてもらうだけということと同義じゃ。それに、多分お主にやっても最終的には変わらんじゃろ、、」
「お、お爺様!」
顔を真っ赤にして慌てた麗奈が哲朗の口を手で物理的に塞ぐが、もう遅い。
「いずれ分かることよ。頑張りなさい。」
「そうじゃそうじゃ。話は終わった。もう帰って良いぞ?」
「そうですね。俺達はまだクラスの親睦会に行かなければならないので失礼します。」
「それなら車を出しましょうか?」
「いいえ、結構です。帰りもしっかり寮までお送りしますので。それでは。」
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「イェーイ!待ってたぞ?お二人さん。」
「さっきまでボウリング大会してたところでさ、終わったから私達今からカラオケするの!屋上でテニスとかやる人達も居るみたいだけど、私達と一緒にどう?」
「まてまて、やっぱ屋上いこうぜ?テニスだけじゃなくていろいろあるし。」
「あー、すまんな。俺実は時差ボケでさ。スポーツするのは厳しそうなんだわ。」
「ほらほら!やっぱ戰龍くんはあんたみたいな脳ミソ筋肉男子とは違うのよ!戰龍君はカラオケ好き?あ、でも外国長いんだって言ってたっけ?」
「まあそうだけど、海外なら邦楽聞けないって時代でもないし、邦楽好きだから実際結構聞いてた。その辺は心配しなくても良い。あ、黒峰さんはどうする?」
「何言ってるんだ。こいつは俺の手助けをするのが役目だ。つまりこいつは俺と一緒に決まってるだろ?」
「おー!やっぱそうだよねー!って黒峰さんはそれでいいの?」
「ええ、構わないわ。」
「じゃあこっちこっち!じゃあねー脳筋君!」
「俺は剛力だ!」
プッ
3人が吹き出した音が響いた。
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「いやぁ、楽しかったー!急に物真似大会始まっちゃうんだもん!それにしてもルイくんのノースオールスターズ凄かったぁ!」
麗奈を含めて10人位の女子とルイを含めて6人位の男子で行われたカラオケ大会は大いに盛り上がった。
「ルイ君の歌ってた奴って3分の1くらい桑井さんのソロ曲だよね?」
「そうだ。実は湘南の生まれでな。両親が大好きでさ。まあ俺も好きなんだけど。」
「いや、にしても古くね?今歌ってたやつってここ5年位のやつ殆どないだろ。」
「なによあんた、ルイ君が上手いからって嫉妬してるわけ?良いのよ!ルイ君はああいう大人の色気が似合うの!」
「嫉妬なんてしてねぇよ!」
興奮さめやらぬ様子でギャーギャーいっている同級生たちと共に屋上の運動コートを見に行くと、先生がアーチェリーでひたすら中央を射ていた。地味に上手い。
「おー!来たか戰龍!こっちでサッカーしようぜ!負けたチームに賭けた奴等は勝ったチームのメンバーの考えた罰ゲームを受ける!それで良いか?」
「やるやる!」
周りの女子達が案外乗り気である。それに感化されてかなりやる気な人が多いようだ。
「じゃあチームはどうやって決めようか、、取り敢えず出たい人はコート中央入ってきて!」
10人ちょいの男子生徒が中に入っていき、数を数え始める。
「行かなくていいのですか?サッカー、お好きなんでしょう?」
隣にたたずんでいた麗奈がルイに囁く。
「さっきも言っただろう。疲れてるんだ。」
「その割にはさっき大分連続で入れられたのに平気な顔をして歌っていたではありませんか。上手でした。か、格好よかったです。」
ちょっと照れたような顔をして誉めてくる。最初に会ったときはこういう印象ではなかったのに、彼女の家に言ってから違う女みたいだとルイは思った。
「そりゃどうも。向こうじゃ戦争の時にギター持ち歩いてよ、夜な夜な歌ってたんだよ。それで少しでもみんなの気を紛らわせればとおもってな。」
「やっぱり貴方は優しい人です。」
こいつに誉められるとなんかむず痒い。そう思っているとコート内から声がかかった。
「8人対8人でいま15人しかいねえんだ。お前入らないのか?」
「いや、だから俺は時差ボケで、、」
ポン。後ろから唐突に背中を押される。
「帰りの事は気にしなくても大丈夫です。楽しんできてください。」
そう言って麗奈は柔らかく笑った。
突如見せた年相応の少女の可愛らしい姿に、こりゃ負けられないなと気を引き締めた。
「いいぜ、やってやるよ。」
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スペインというのは、フットサルやサッカーの戦術で最先端をいってる国だ。その国で育ったルイは、もちろんそれらの戦術を熟知しているし、仕掛け方も知っている。ルイの戦闘スタイル的に体術が得意な方で、一瞬のスピードを出す呼吸法、体の使い方を知っている彼はとにかく一対一の仕掛けがうまいのだ。特に、間合いの図り方が秀逸だ、と彼のスペインでの仲間は言う。手で合図を出して味方を動かし、開いたスペースで仕掛ける。
間合いを開けてスペースを与えすぎると用意に抜けられ、またはシュートを撃たれ、詰め方を謝ると交わされる。
またルイにボールが来る。いつの間にか敵の視界から消えて左サイドでボールを受ける。足裏でなめるようにファーストコントロールをし、サイドラインに背を向けて体をゴールの方に向け、内側の足でボールを保持する。サイドに揺さぶられたので若干遅れて内側からプレスに来た脳筋君こと剛力を見て内側の足をボールのすぐ後ろにステップ。次の内側の足で地面を蹴り、外側の足で大きく一歩を踏み出す。
それを見た剛力はスピードを上げにかかるが、それルイはそのプレーをキャンセル。踏み出した足に体重を乗せて止め、ボールを掬っていくはずだった内側の足も止める。そこで剛力が慌てて膝に力をいれ、ブレーキをする。
しかしブレーキをかけたのと同時に、浮いたまま止まっていたルイの右足(自陣ゴール側の足・後ろの足・ボールを保持している足)が足首を曲げてボールを押し出す。
「なに!?」
驚愕の声とともに膝から崩れ落ちた剛力を嘲笑うかの様にスピードを上げて抜き去るルイに、2-3-2のブロックで守っていた一番後ろの2がカバーとして対応しに来る。即ちそれは、中の人数が減ったことを意味する。合わせて近いサイドに寄った残りの1の向こう側に、カバーが肉薄する前にアウトサイドで素早くクロスを上げる。ふんわりしたボールに、運動神経抜群の矢野が野性的なボレーシュートで合わせた。
「はーい、終了ー!」
結果は4対2。ルイ達の勝利である。
「よし、勝ったな。じゃあ堂本、負けチームに賭けた奴等を教えてくれ。」
矢野が言うと、胴元をしていた堂本が十名程の技量が生徒を挙げる。
「じゃあなににしよっかなー、何でもいいんだよね?」
きゃー、変態!などと、大騒ぎしなから、その後みんなで行った近くの飯屋で、勝ちチームの分を負けチームに賭けた奴等をが奢ることになった。そして、腹一杯に食べた後、電車で帰るクラスメイト達を尻目に、麗奈は眠くてバイクに乗れないルイをタクシーに押し込み、帰った。
「この人が、私の運命の人、なのでしょうか?だとしたら私は幸運ですね。」
ちょっとした出来心で、シートに頭をもたげるルイの頭を自分の膝の上に乗せた麗奈は、その髪を手ですき、その額に唇を落とした。
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姿形のわからない、モヤモヤした姿。
「既に天地は発かれた。大地を作れ。 」
その者より、矛が手渡される。
(これは、さっき香菜さんから貰ったもの?)
隣を見ると、1人の女性が立っていた。闇を纏う、美しい女性だ。
「戰龍さん、起きてください。」
パッと目が覚める。
「なんだ、今のは。」
「どうしましたか?」
「夢を見たんだ。とっても昔の事のような。良く覚えていないが、さっき貰った矛だ。それを見た。」
帰りのタクシーでの事であった。




