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ノウショウ






 おれの目の前に立つ中年おやじの頭が破裂する。脳漿のうしょうが飛び散り、血と肉片が乗客を汚す。おれがいるのは満員電車だ。朝の通勤ラッシュ・・・その前に言いたいことがある。おれは今この文章をスマートフォンで書いている。【脳漿】と打ったが実際は【農相】【脳症】【ノウショウ】しか変換一覧に出てこなかった。つまりおれはわざわざ脳漿という漢字をGoogleで調べコピーしペーストしたことになる。なぜ脳漿なんて漢字の為にそんな手間をかけたのか理解に苦しむだろうが、おれだってなぜそんなことをしたのかわからない。字面が好きなのかもしれない。脳は別にそうでもないが漿はなんというか、画数が多くて見ていて愉しい。複雑な感じがする。それだけだ。・・・おれがいるのは満員電車だ。朝の通勤ラッシュだ。おれの目の前にいた中年おやじは灰色のスーツを着たハゲだった。顔は思い出せないから特に特徴もない男だったんだろう。爆発音がして、おれの読んでいた小説が血潮でべっとり汚れた。おいおいふざけるなよと思い視線を上げると下顎から上が破裂したおやじが倒れようとしていた。だが満員電車の中で倒れる事などできない。そんな隙間はない。活きのいい魚みたいにおやじの舌が血の海で踊っている。思わずおれは笑いそうになったが不謹慎だから耐えた。しかし回りを見れば皆にやけ面だ。そりゃそうだ。普通、朝っぱらから爆死するヤツがあるか?電車に飛び込むとかマンションから飛び降りるとかならわかるが、なんでまた自分の頭を自分で吹っ飛ばしたりするんだ?誰かが爆笑しはじめる。つられておれも爆笑する。全員が爆笑する。血の臭い。べとつく脳の破片。おれの隣にいるOL風の女が額についた血を小指ですくい唇に塗る。口紅の代わりなのだろう。大学生風の青年が死んだおやじの踊る舌をスマホで撮影している。青年はこの後この動画をTwitterに上げ14

万リツイートを稼ぐことになる。踊る舌、というこの動画は様々なBGMをつけられインターネット上で弄ばれるが、それは5日後のことだ。おれはといえば血で濡れた小説のページをどうにか読めないかと四苦八苦し、結局読めないと諦め、しかたないから次のページに進む。たった一ページ飛ばしただけでまったく内容がわからなくなった。おれは本を閉じる。『次は※※※※※』おれの降りる駅が呼ばれ、電車が止まる。おれは人を掻き分けホームに出る。青空だ。夏の臭いがする。しかしおれしか降りないのか、と疑問に思い後ろを振り返ると電車がない。そもそもおれは電車になど乗っていない。また訳のわからない妄想を見ていたのか、とおれは嗤った。邪悪は頭の中にある。






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