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春を呼んだ魔女  作者: りり
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雪で閉ざされた砦に重苦しい空気と憤りだけが蔓延する




 長い冬はまだ始まったばかりだというのに、日を追うごとに吹雪は勢いを増していて、外を出歩くことすらままならなくなるのはそう遠い日ではなさそうだった。

 先日の一件以降、砦長であるメイサへの反発はすさまじく、部下たちの無理もない怒りをなだめるためにアガレスは奔走する羽目になった。

 どうして自分がこんなことをしなければならないのだと思う一方で、騎士や兵士らの心情を思えば無碍には出来ない。

 メイサは高位貴族の出身だと聞いている。だから、おそらく貧困を知らないのだろう。食うために職を選べないことなど数え切れないほどあるありふれた志願理由にすぎないのに、飢えを知らない人間を相手にそれを説明することは酷く難しい。家族を養うために命がけの職に就いて、それを馬鹿にされたのだから砦の者たちが怒るのは当然だった。

 あれからメイサは、またもや部屋に引き籠もったきり姿を見せなくなってしまった。

 扉にかけられた封の魔術はいっそ芸術的なほどで、騎士としてかろうじて合格できたアガレス程度の魔力では、メイサの魔術を解呪することなど到底不可能だった。

 つい忘れそうになるが、魔術を尊ばれるこの王国においてなお、メイサは一つの砦を任されるほどの魔女なのだ。本気を出されては、魔力とは無縁な兵士はもちろんのこと、ただの騎士でしかないアガレスではどうすることもできない。

 開かない扉の前に立つと、アガレスは自分の不甲斐なさを自覚することになる。

 今日もまた、砦長であるメイサへの目通りは叶いそうもない。扉を叩いたところで何一つ音沙汰がないのは、この四年の間に嫌というほど思い知っている。

 砦の命運が、大勢の人間の命が、重荷となってアガレスの肩にずっしりとのしかかるようだった。

 雪で閉ざされた砦に重苦しい空気と憤りだけが蔓延する。




 吹雪で視界が遮られ、とてもではないが外になど出られない。そんな状況であるのに、よりによって大型魔獣のものと思しき咆哮が砦を震え上がらせた。

 あまりのことに、報告を聞いた当初、アガレスは二度三度と聞き返してしまったほどだ。

 先日の小型魔獣の来襲からひと月も過ぎていない。小型魔獣ですら未だに遺恨が尾を引く事態となっているのに、そこにきてこれである。嘘であって欲しかったというのがアガレスの内情だった。

 大型魔獣は、天災に等しい脅威だ。時には国を挙げての討伐対象となるような魔獣でもある。しかし、王国ではそんな化け物の来襲が数年に一度程度も見込まれているために、取り立てて言うほどの珍しさはない。なぜといって、かつて魔の支配領域であるとされた土地にこそ築かれたのが、我らが王国であるからだ。

 王国の祖は強力な魔術を得意とした賢者たちであり、王国には今もなおその血が脈々と受け継がれている。

 そんな賢者の血脈に連なるのが王国の王侯貴族たちであり、砦長のメイサなのだ。

 だがそのメイサは、肝心なこの時になってもまだ部屋に引き籠もったまま姿を見せようとしない。本当に最悪な女であった。

 皆の意見を纏めるべき立場のメイサがいないことで、砦はすぐにでも打って出ようという攻勢派と、慎重になるべきだという慎重派の間で二つに割れた。攻勢派の大半は現地採用された兵士たちであり、慎重派の中心はアガレスを筆頭とした中央から配属された騎士や魔術師だった。

 慎重派の騎士や魔術師は各々が強力な武を持つが、生憎と攻勢派に比べて圧倒的に数に劣る。砦の人員の実に九割を占めるのが兵士なのだ。攻勢派の意見は強く、完全に抑え込むことは難しかった。

 現地採用された者らにしてみれば、この砦で迎撃に失敗すれば家族も資産も何もかもを失うことになるのだから、勇み足になるのは無理もない話だった。

 双方の意見は拮抗し、副砦長のアガレスが尽力するだけでは収拾がつかない状況になるまで大して時間はかからなかった。

 砦長であるメイサが引きこもっていることが悪い方向に作用したのは、明らかだった。

 そうして肝心なことには、差し迫る驚異――大型魔獣は、人間側の意見がまとまるまで待ってなどくれないということだ。

 蔓延していたメイサへの不満が徒となって吹き出し、アガレスは済し崩し的に出撃を決定するしかなかった。

 寝食を共にした兵士らが無駄死にするのを見過ごせるはずもなく、アガレスは気が進まぬまま兵を率いて死地へと赴くことになる。




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