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赤眼ゾンビ  作者: 海月
第二章
45/99

再会

 目の前の扉を叩く。

「誰か居るのか!?」

 声を張り上げ少し待つが、期待するような反応は返ってこない。はやる気持ちを抑えつつ、足元へと視線を落とす。

 用具室には内鍵が無い。だからここに重なり倒れている人の中には、施錠か解錠のどちらかを試みた者がいるかもしれない。

 しゃがみ込み、周囲の死体を探る。衣服のポケットを虱潰しに見ていくが、なかなか見つけられない。

 銃を使うことも考えたが、取りに戻らなければならないうえに、上手く行く保証もないから、あくまで最後の手段にしておきたかった。

 他にいい案も思いつかないまま、今度は重なった死体をずらして鍵を探す。

 そうしてずらしている時、不意に金属音が聞こえた。ハッとして音のした方を見やる。倒れている女の長い髪から、ちらりと青いタグがのぞいていた。そのタグには、体育用具室の文字。

 鍵を拾い上げ、急いで扉を開ける。

 扉は軋んで擦れるような音を立てながらも、引っかかることはなく開いた。真っ暗な用具室にぼんやりと光が入っていく。

 光といっても用具室の全体を照らすには頼りないものだが、入口のすぐそこにうずくまる人影を視認するには十分だった。


 微かに開かれた瞳と視線が交わり、またすぐ力なく伏せられる。着ているのは見覚えのあるセーラー服だった。

 膝をつき、力なく横たわる少女の肩を叩く。

「おい、大丈夫か」

 呼びかけると、少女は小さく呻いて眉を寄せた。反応があったことにほっとしつつ、呼吸と脈拍を見る。呼吸は浅く、脈拍は少し速い。かなり衰弱しているようだ。

 ぐったりしている少女を背負い、立ち上がろうとしたところで、入口の影に倒れているもう一人の少女を見つける。背中の少女と同じ制服を身にまとっていた。

 暗がりにいるせいで生死の判断がつかない。しかし仰向けに倒れている少女の胸が上下したように見えて、いったん背の少女を下ろしてから、片手を伸ばしてその首に押し当てる。


 冷たい皮膚の感触に、感じられない鼓動。少女は既にこと切れていた。


 背負っている少女の友人だろうか。外傷も無いようだから、きっと衰弱死だったのだろう。

 息を引き取るまでの恐怖を想像して、つかの間目を閉じる。

 短い黙祷を捧げたあと、俺は踵を返して体育館を出た。


 その後は少女を保健室のベッドで寝かせ、護送車に残っていた物資を取りに戻った。目を覚ます気配のない少女には少量ずつ食塩水を飲ませることしかできなかったが、それでも効果はあったらしい。日が暮れる頃には、少女の顔色は随分とましになっていた。とはいえ、まだ回復したとは言いきれない。

 ずっとあの暗がりに居たのだから、懐中電灯の明かりは眩しいだろうとろうそくを点けて、少女が自然と目覚めるのを待つ。

 

 手持ち無沙汰になって思い浮かぶのは、左腕の噛み傷のことだった。

 噛まれてから数時間、特に症状は出ていない。

 残された時間は分からず、この鬱屈とした気持ちを抱えてこの先を過ごさなければいけないのだと思うと、気分は重くなった。


 だが、それよりも。


 眠っている少女を見やる。ここで発症したら、彼女は為す術もなく俺に噛まれてしまうだろう。運良く逃げられたとしても、この少女が一人で生き延びられるとは思えないかった。


 少女が静かに目を覚ます。

「! 目が覚めたか」

 彼女はこちらに顔を向け、わずかに眉を寄せた。眩しいのかと聞くと、小さく息をのんで、怯えたように視線を下げてしまう。

 しかしすぐに顔を上げ、首を横に振る。

 もっと混乱して取り乱すかと思っていたが、少女の表情は静かで、じっと思考しているようにも見えた。ただ単に感情を表に出す体力が無いだけなのか、体育館で起こったことのせいで心を閉じているのか。

 どちらにせよ推量にしかならないので、まずは何か食べさせようと腰をあげる。

 何かといっても、彼女が食べられそうなものは限られている。あそこに閉じ込められている間はほとんど何も口にできなかっただろうから、味の濃いものや消化に悪いものは胃が受け付けないだろう。

 特に迷うことなく作るものをお粥に決め、準備に取り掛かる。

 体育館に運良く携帯用ガスコンロがあったし、護送車に残っていた食糧の中にはパック米もあったから、短時間で用意できた。


「ほら」

 こちらも体育館で見つけた使い捨ての深皿に、少し冷ましたお粥を入れて少女に渡す。

 受け取った少女はこちらを見て何か言いかけたが、掠れた声しか出せずに顔を顰める。

 口の動きから礼でも言おうとしたのか、律儀なものだ。

「気にしなくていい。食べられそうか?」

 少女は頷き、恐る恐る食べ始めた。その様子を見て胸を撫で下ろす。

 しかし安心したのも束の間、少女は動きを止め、俯いてしまう。どうしたのかと腰を浮かせかけるが、その手にぽたぽたと水滴が落ちるのを見て、彼女は泣いているのだと気付いた。

 静かに、押し殺すように。声一つ上げず。


 あまりに静かに泣くものだから、声をかけるタイミングを逃してしまった。

 かけ損ねた言葉を心の内で転がしながら、震える背中へ手を伸ばしかけ――彼女の怯えた表情を思い出して、そのまま下ろした。

 不用意に触れても、また怯えさせるだけかもしれない。


 ただ見ることしかできない歯痒さをじっと堪えていると、少しずつ落ち着いてきたらしい少女が、窺うように俺を見た。見た、というよりは注視するような視線だ。

 食べる動作もそうだが、目を眇める少女の行動は視力が弱い人のそれに近かった。元々そうだったと言うには困惑しているようにも見える。


 少女は何か伝えたそうだったが、食べるように促すと素直に従った。


 半分ほど食べ終えたところで限界がきたようだったので、目のことだけを聞いて、椀を取り上げる。

 やはり以前から目が悪いわけではなかったようだ。必要な栄養が摂れないと目が見えにくくなることがあるらしいから、おそらくはそれだろう。


 次の日、俺は物資を集めに出る前に、もう一度体育館へ足を運んだ。

 知人が居ないかの確認も兼ねて、遺体をつぶさに見て回る。開いたままの瞼を下ろさせ、銃創の他に噛まれたような痕が無いかも確認していく。

 もう骨と皮ばかりの、木の枝のような体躯。唇はひび割れ、髪の毛は細く茶色になっている。一目で男女の区別がつかない遺体もあった。その大半はきっと高齢者だろう。

 誰が何の目的でやったのかは知らないが、首謀者に対しての嫌悪感が募る。

 加えてどこかで見た顔も数人。同級生や、年齢を重ねたうえ痩せこけたから分かりにくいが、この学校の教師。ふと反省文を書いている時のことを思い出して、束の間目の奥が熱くなった。

 頭を振り、一呼吸置く。

 理不尽な死に追いやられた人を一人ずつ悼んでいては、きりがない。

 黙々と遺体の確認を続け、その内の一人に引っかかるものを覚えて、その顔をじっと見る。

 開かれた空虚な瞳に見つめられているうちに蘇った記憶に、愕然とした。

 長い黒髪を持つ女性の肩を抱き、微笑む男性。

 その様子を不思議そうに見つめるのは。

 

 覚えていてねと、絡めた小さな小指を思い出しながら呟く。

「海音の、父親か」

 そして気づいた可能性に、心臓が早鐘を打ち始める。もしかしたら母親も――あの子も。

 探せば母親らしき人はすぐに見つけられた。用具室の前で倒れ込んでいたその人と父親を、壁にもたれさせる。

 だがあの子だけは、いくら探しても見つからなかった。記憶の中で顔立ちはぼんやりしているとはいえ、見れば分かるだろうと思っていた。しかしパンデミックが始まるまで普通に成長したのなら、小さな頃の容姿など当てにならないかもしれない。

 生きていたら丁度、あの頃の俺と同じくらいの歳だろうか。


 また会おうという約束は、果たせなかった。


 もう何年も前の話だ。ささやかで、小さな約束だ。きっとあの子は忘れている。


 自分を無理やり納得させ、冷たい物悲しさを胸の底へ押しやる。


 そういえば用具室にも一人居たなと、埃っぽい部屋で横たわっている少女の存在を思い出す。

 もし、その少女があの子だったら。

 しかしそんな希望はすぐに打ち消す。馬鹿らしい、妄想じみた考えだ。

 実際、顔を良く見てもどうしてもあの子だとは思えなかった。少女は体育館の床に倒れている者よりも静かな表情で、顔色さえ無視すれば、ただ眠っているようにも見えた。

 それなら助けた方は、と諦めの悪い自分が顔を出す。

 だが少女の名前は出来れば聞きたくなかった。個として認識してしまえば、置いていくときの罪悪感がさらに募るような気がしたからだった。

 だから自身の名前を、弟が勝手に告げてしまったジェイド・フローレスという名前だけ投げかけた。


 しかし少女は、馴染みなさそうにその名前を繰り返しただけで、他に何も言わなかった。

 勝手な希望を押し付けてしまったと後悔しつつ、今度こそ落胆する。

 けれど後のことを考えればそんな希望は邪魔だから、潰えてしまって良かったのだろう。

 

 体育館を出る際に目を閉じ、黙祷する。ここに居る人達とはほとんど面識が無いし、救われることも無い。ただの自己満足のための。


 気が済んだところで、やっと物資の調達へ目を向ける。

 必要なのは、食糧は勿論、タオルや着替えなどの生活用品。この地域では早期に避難が完了していたからか、店内が荒らされている様子はほぼ無かった。

 避難して少しの間は自衛隊や自治体からの物資補給があったはずだから、暴動や混乱の際に物資を奪い合う必要に駆られなかったのだろう。

 まぁ、ただ荒れていないだけで、缶詰めやカップ麺などは軒並み持ち去られているが。

 それでもバックヤードを覗けば、二人分の食糧など優に賄えた。


 そして外に出れば、いやでも感染者と遭遇することになる。

 一人ならナイフで、二人なら銃も使って。二人の時はわざと消音器を外して、もう一人を接近させてからナイフを使う。

 それを何度も繰り返すおかげで、随分と冷静に対処できるようになっていた。


 今もコンクリートの地面の上に赤い血を流し、ぼろ切れのような体を晒す感染者を一瞥し、何の感動も無く前を向く。

 それが非情であり、残酷であり、人として淡白な行動になり得るとは誰も思わないのだろう。自分にとっての脅威を排除したに過ぎないのだから。


 しかしその対象が同じ人間なら?


 噛まれた今だからこそ、考えてしまう。

 感染すれば自我を失い、元のような思考は出来ない。だがその体は膿を出し続け、鮮血を溢れさせる。人体として機能しようとする。


 未知のウイルスに体を侵された者は人間か否か。その生命を絶つのは許されるのか。


 いくら考えても答えは出ない。いつもその結論に辿り着くだけだ。


 だからこのナイフと銃を振るうのは、どんな結論に至ろうが利己的な行動だと、そう思うことにした。


 そんな思いを抱かせるのは嫌だったから、あの少女には武器を持たせようとは思えなかった。

 それが覆されたのは、件の一週間をもう過ぎようとしていた頃だった。

 体に妙な気だるさを感じながらも、いつものように外へ出る。

 俺が居ないほうが少女も気軽だろうからと、体調の変化を些細なものとして感染者の相手をしていたが、時が経つにつれ体調は悪化していく。

 嫌な汗が背中を伝い、ついに来たかとぼんやり考える。

 力が抜けそうになる足を叱咤し、手近なコンビニに入る。商品棚にもたれ掛かるようにして座り込んだ。

 丁度良かった。彼女だけなら二ヶ月は外に出なくて済むくらいの物資はあるし、その物資が詰まっている箱には銃の扱い方を書いた紙も入れてある。


 出来ることはしたのだ。


 視界が白く霞む。何も考えられない。ただ最後に純粋な恐ろしさが、死への恐怖が体を震わせた。

 

 それでももう、為す術はない。


 視界がかしいで、床が垂直にうつる。理性が消えてしまう前に眠ってしまいたかった。


 冷たい床の感触を最後に、ぷつりと意識は途絶えた。






















 ――――――――――――――――――――。






 ――――――――――…………。




 ――――………………まだ、






 駄目だ。





 人混みの中に居るのに誰にも触れられなかった。自分が居ないみたいだった。


 くん、と服の裾が引っ張られる。甲高い泣き声が耳朶を打ち、――それまで朧気だった自我が、急にはっきりと形を成したような。


 真っ暗な目の前に光が灯る。


 硬い床の感触、痛いほどの静けさ。体は何者かに押さえつけられているのかと思うほど動きにくく、重かった。

 歯を食いしばり、床を押すようにして何とか体を起こす。

 汗で張り付いた服を剥がすのも煩わしく、荷物を背負いながら立ち上がる。まだそう遠くまで来ていないから、すぐに中学校へ戻れる。

 歩調は知らずの内に速くなった。


 一瞬でも匙を投げかけたことを、後悔した。

 あの子がくれた世界だ。その中で生きることを許されるための対象も、やっと見つけたのだ。

 ただ暗い部屋から連れ出して、餌を与えるだけでは守れたとは言えない。

 何故かは分からないが、まだ生きている。理性を保っている。

 ならきっと、まだ出来ることはあるだろう。

 先のことは予測できない。体がウイルスに打ち勝ったのかもしれないし、ただ予兆として今回のことがあっただけかもしれない。

 けれど今度は死ぬことではなく、生き延びることを前提として、少女と向き合おう。

 ささやかな決意を胸に、保健室の扉を開ける。


 だが、部屋はもぬけの殻だった。ざっと血の気が引く。


 特に意味も無いのに左右の廊下を見渡し、やはり居ないことを確認する。

 もう一度部屋の中に目を向ける。誰かが踏み入ったような形跡は無い。

 さらに掛布団が足元へ畳まれているのを見て、少女自ら部屋を出たのだろうと、ひとまず気を落ち着かせる。

 感染者や暴漢に入り込まれたのでもないならいったい、どこへ向かったのか。

 眉を寄せ、少女について思い返す。最初の夜に比べて顔色も良くなったし、視力もほぼ元通りになったとぎこちないながらも笑顔を見せていた。

 分からない。勝手に外に出ないように言いつけてあるし、そもそも歩くことさえ今はしんどいはずだ。だから余程のことがない限り学校の外へ出ることは無いだろうが……。

 考える間も惜しく、静かな廊下をかけ出す。とりあえず一階をぐるりと回るが、少女は見つからない。

 ふと、帰りたいと泣きわめく子どもの声が耳に蘇って、顔を顰める。

 少女は平静に振舞っているように見えたが、実はそうではなかったのかもしれない。自分の体力も顧みず、何か大切なものを目指そうとこの部屋を出たのか。

 そこではっとして、くるりと来た道を戻る。動けるようになってまず行くのなら、自分や、また家族も寝泊まりしていた体育館ではないか。

 あの惨状を思い浮かべるなら、大抵の者はもう考えることすら忌避するだろうが、あの中に家族や友人が居たのなら話は別だ。


 怠さの残る体を抱えて、体育館へ走る。

 校門には最低限のバリケードしか張っていないし、裏門に関してはここに来てから何も手を加えていない。感染者ならともかく、通常の人間ならば簡単に敷地内へ入り込める。


 もうここに来る前の失意は感じたくなかった。手の届くはずの範囲で人が死ぬことに、助けられないことにいっそ恐怖さえ覚える。

 何より今は彼女だけが、俺の生きる価値だ。

 息が上がるのがいつもより早い。体育館に着く頃には息はすっかり上がってしまっていた。

 体育館に着いてすぐ、少女を呼ぼうとして、声が詰まる。

 そうだ、俺は名前さえ聞いていない。どうせいつか死ぬだろうからと、わざわざ知ろうとしなかった。

 自分自身を諦めていたからこその、失念だった。

 仕方なく名前で呼ぶのを諦め、体育館内を見回す。特に動くものは見当たらない。

 しかし何か聞こえたような気がして、動きを止める。そういえばと用具室のことを思い出して、微かな声はやはり入口に立つ自分の横から聞こえてきていた。

 開ききっていない用具室の扉を開け放ち、中でしゃがみ込む人物が思った通りの人であることを確認する。ほぼ同時に声が出た。それは知らずの内に怒気を孕んで大きくなる。

「おい!」

 少女の肩がびくりと震えた。涙でぐちゃぐちゃの顔が恐る恐るこちらを振り返る。俺を認めた少女が、はっと目を見張って、小さく俺の名前を呟く。


 そして何故、俺がここに来たのかも思い至ったらしい。

「あ、」

 いかにもしまった、とバツの悪そうな顔で、彼女はすぐさま俯いた。

「あ、じゃない! 今は治安だって悪い。どんな奴が彷徨いてるか分からないんだぞ!? 頼むから――」

 畳み掛けるように言い募って、少女の肩が震えていることに気づき口を噤む。

 彼女も何も言わずに保健室を出たことについては罪悪感があるのだろうし、無駄に怒鳴って萎縮させる必要も無い。

 小さく息を吐いて、少女を立たせる。


 保健室に入る前に、背を向けたまま何をしていたのかと問うと、思っていたような答えが返ってきた。

「……まだ、皆生きているんだって、信じたかったんです」

 一言一言をしっかりと、気丈に紡ぐ。その声音は硬く、感情を出さないように平坦だった。

「それで?」

 彼女にとってはつつかれたくないその感情、気づきたくない真実を、俺は突きつけなければならない。この世界で生きていくために、生かすために。


「生きてたか。皆は、生きていたか?」


 彼女にとってはもう、答えは出ているのだろうが。

 息を飲む気配。

 束の間の沈黙の後、吐き出された答えは震えていた。それにやっと少女の感情が、慟哭が混ざる。

「……っ、死んでました。ママも、パパも友達みんな! なんでそんなことっ」

 期待通りの返答に、内心で胸を撫で下ろす。これでもう勝手に居なくなるようなことは無いはずだ。

 振り返ると、気圧されたように少女は口を閉じた。その目には困惑と微かな苛立ちが浮かんでいて、小さく苦笑してしまう。

 そうだな、少し意地悪し過ぎた。

 態度を幾らか和らげ、少女と遅めの昼食を摂る。一息ついた所で、まずは名前を聞こうと思った。

 先程の不便を繰り返したくはない。

 閉じ込められていた経緯と名前を求めると、少女は頬をぱっと朱に染めて、律儀に立ち上がった。

 深く頭を下げる。

「助けてくれて、本当にありがとうございました」

 そして姿勢を正すと、彼女ははにかみながら、自分の名を告げた。


「――――戸倉海音といいます」 


 それは奇跡と呼んで差し支えない、再会だった。


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