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赤眼ゾンビ  作者: 海月
第一章
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疑惑を解決

 あいつの家に入った時。

 うっすらと積もった埃に靴跡があった。スニーカーで、大きさからして、男。

 いつの間にか居なくなっていたあいつには悪いが、勝手にリビングやキッチンに上がり込んだ。

 キッチンには缶詰めが乱雑に転がっていた。空のペットボトルもあった。

 ここにある、ということは足跡を残した男は数日は居たことになる。もしかすると、今もどこかに隠れているかもしれない。

 そして極めつけがリビングの窓だった。

 庭に面した広い窓には大穴が空いていた。下にはガラスの破片が散らばり、そこに点々と血の垂れた跡が残っていた。

 しっかりダンボールで穴が塞がっていたあたり、それなりに元気な状態らしい。

 

 ここまできて嫌な予感を覚えない者は居ないだろう。

 怪我が窓ガラスを割った時に出来たものならばまだ良い。が、もしそれが感染者によって負わされたものなら。

 

 一つ舌打ちをしてあいつの後を追った。

 

 階段を登った右手の部屋からガッガッと妙な音がする。

 銃を構え、飛び込んでみれば、まだ学生だろう、ブレザーを着た少年があいつの首をしめていた。

 撃つぞ、と脅せば素直に手を離しこちらに向き直る。

 その顔には驚くほど血の気はなく、かつ機械を思わせる無表情だった。

 

 とにかく二人を置いてはおけず、リビングへ行くよう促したのだが、しれっと先程自分が殺そうとしたやつの隣に座ろうとしたので、やんわりと向こうへ座らせた。

 こいつへの警戒は怠ってはいけない。

 そうしてやっと落ち着いたかと思えば、

「ごめんね。……僕は白樺 (しゅう)。高一だよ。よろしくね」

 などと言いながら海音に握手を求めた。

 その際ブレザーから覗いた傷を見て思わず遮ったわけだが。

 俺の家に行く時も大声を出して感染者を呼び寄せたのだが、普通大声を上げれば寄ってくることくらい分かるだろう。

 おかげで海音はなんの構えも無しに感染者を倒す羽目になった。

 

 予定よりも時間がかかった上、海音に余計な心労がかかったようなので、今日はもう俺の家で一晩明かすことにした。

 

「白樺はそこで寝とけ。海音、二階に適当な布団を敷いといたから、今日はもう寝てくるといい」

 

 案外体力的にもしんどかったんだろう。

 海音は素直に頷くと、眠そうに目を擦りながら上がっていった。

 それを見送ってから、白樺の方へ向き直ると、まるで面白いものを見たと言わんばかりに笑みを浮かべていた。

「……なんだ」

「いーや? ジェイドさんは大層あの女の子に甘いなーと」

「は?」

 甘い? 俺が?

「甘い、っていうか入れ込んでる? 会ってからずっと俺のこと睨んでるでしょ」

 

 逆にどう間違えたら出会い頭に首をしめた人間を警戒せずにいられるのか。

 自分の家とばかりにくつろいでいる白樺を一瞥し、黒地のソファに腰掛ける。

 

「俺が戸倉さんに近づきそうになったらいつも邪魔するし。あ、もしかして手首のこれ、見えちゃった?」

 

 ペラペラと話していた白樺が唐突にブレザーを捲り、腕を晒す。

 返された手首にはあまり深くはないが、かなり長い切り傷があった。それが幾本か。どれも血が固まり、かさぶたとなっている。

 

「窓ガラスでやったのか」

 嘘をついても分かるよう、仕草や、ベタながら瞬きの頻度を見つめる。

 

「自警団にやられた」

 

 なんの気負いもせずに、むしろ笑みさえ浮かべたその目に嘘は見えない。

 

「……その傷は」


 傷口を撫でていた白樺がこちらを見る。

 

「咄嗟に受けて出来たものじゃない。いきなり襲われたわけじゃない、と思うが」

 

 いきなり真正面から来られた場合、人は基本的に手の甲部分を向ける。

 だからその傷は突然襲われました、というよりもわざと狙って付けられたと考える方が自然だ。

 白樺は顎に手を当て、少しして一人納得すると話し始めた。

 

「俺、自警団だったんですよ。一緒に逃げてきた友達の一人が入ろうって誘ってきたのがきっかけで。最初は良かったんだけど、その内自警団とは思えないようなことし始めた。最後には避難所の人達ほぼ全員殺して物資持ち逃げするっていうガチでクズみたいなことまでした。……で、俺もう我慢できずに自警団から離れるーってリーダーの男に言ったんだ。そしたらボコボコにされた。みせしめの為か知んないけど、酷いっすよねー」

 

 へらへらしながら言うこととはとても思えないが、少なくとも作り話ではないらしい。海音の話とも通じるところがあるから、二人の言う”自警団”はきっと同じ団体だろう。

 

「じゃ、噛まれたわけじゃないのか……」

「えっ、なんでちょっと残念そうなの。俺感染者にあんな近づいたの今日が初めてっすよ」

 

 残念なわけじゃない。安心しただけだ。というか、そう。まだ聞きたいことがある。

 

「お前なんで海音のことを殺そうとした?」

 

 一瞬にして申し訳なさそうに眉を下げるこいつは本当に反省しているらしく、もはや暗いと言ってもいい。

「俺窓からジェイドさん達を見てたんですよ。金髪だから自警団のやつらかと思って隠れてたら入ってくるし。女を人質にしたりしたら出てってくれないかなと……」

 

「バカか。そうじゃなかったらどうするんだ」

「実際そうじゃなかったんでああしましたよ」

 

 ただ謝り倒しただけか。

 あまりの潔さに呆れてしまう。

 

「あとお前今日みたいなこともう一度でもしてみろ。海に沈めるぞ」

「完全に脅し方がヤのつく人のそれ!!」

 言ったそばからこいつは……。

 

 精神年齢では海音の方が上なんじゃないか?

 体力をつけるためのトレーニングでも弱音を吐かなかったし、なによりぶっつけ本番で感染者を冷静に対処してしまったし。

 ああ、むしろ白樺よりも全体的に上だった。

 

「なんか失礼なこと考えてない?」

「いいや? 俺はもう寝るからお前も喚いてないで寝ろよ高校生」

 

 時計は十二時を回っている。正直まだ眠くないが休息は取れる時に取るのが常識だ。

 ソファに寝そべり目を瞑れば、あいつも文句を言うのをやめて布団に入ったようだ。

 

 あっけなく解決した白樺の感染者疑惑に肩の力が抜けた俺は明日にでも白樺にナイフでも持たせようかと考えた。

 もちろん今日のようなことは二度と起こしてほしくないからだ。

 

 

 

 

  

 

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