怒りの矛先は
血液と腐敗した肉の臭いが昇りたつ最悪の状況。人々はパニックに陥って、モラルのない行動に出る奴らばかりだった。
その中で俺は、俺たちはこんなにも清廉潔白に、規律を守って生き延びてきた。
その結果が、どうだ。
三ノ輪に連れられて、弟の骸と向き合ったとき、目の前が傾いだ思いだった。随分ともがいたのだろう。苦しかったのだろう。
涙でぐちゃぐちゃの顔にまだ乾ききっていない返り血だろうそれが付着している。
悲しみを認知するまでもなく勝手に涙が溢れた。
弟が何したって言うんだ。同じ化け物と対峙したアイツらと何が違うって言うんだ。
目の前で突き付けられたあの茶番。仲間愛だなんだとのたまうかのような。
挙句、手を出そうとした俺が悪者扱い。あいつがどれだけ苦しみながら死んだかも知らないくせに、思慮が足らなかった? なぁ、そんな浅い言葉で済まされることかよ。
どこまでも冷静に頭を下げた外人に苛立ちが増す。
そもそもアイツは自衛官じゃないのか。民間人を守るのが役目だろ。死ぬべきはお前じゃなかったのか。
弟が生きながら喰われる必要なんてなかっただろう。そんな最期を迎える必要なんかなかったじゃないか。
「お前ら、なんであいつを庇った」
俺が一発くれてやろうとしたら大慌てで出てきやがって。
「…………彼は何も悪くないから、です。銃がジャムったから、代替案として使えるものを弟さんが探しに行きました。そこで起こったことに、誰が悪いとかありますか」
慇懃に答えるその態度。俺は認めたくなかった。
「その事態を予測出来なかった人間が悪い」
弟の死が、運が悪かった、仕方がなかったことで処理されてしまうのが。
「っ、それは、無いでしょう。そんなものただのこじつけだ」
弟の死に対して何も出来ないのだと。
「違うな。アイツは自衛官だ。責を負う義務がある」
俺が、お前の仇を討ってやるからな。お前を苦しめたやつを許さない。
俺の辛さを、アイツに身を以て教えてやる。
「ふざけんな。ジェイドは一番走って、助けようと尽力してたんだぞ、それをお前、」
尚も言い募る三ノ輪を黙殺して、部屋を出る。
ああ、そうだ。
半身振り返ると、睨むような目付きの三ノ輪がいる。
「あのガキども、アイツのお気に入りなのか?」




