俺、人生崩落して山に登る
初投稿。
評価、コメントくれると嬉しいです。
気軽にお読みください。
今日、住んでいた村が滅びた。
魔物の群れが押し寄せる中、
両親が俺を屋根裏に押し込んだ。
阿鼻叫喚の一部始終を見た。
父が殺され、母が殺され、
年の離れた兄が殺されるところを見た。
宿屋の娘はさらわれた。
武器屋の息子は抉られた。
脳が壊れていった。
目は反らせなかった。
いや、反らさなかったのかもしれない。
覚えておかなければいけない、
そんな気がしたのかもしれない。
3日ほど過ぎたか。
魔物の声も、村人の悲鳴も
何も聞こえなくなった。
音をたてないように
屋根裏から家に降りた。
血の臭いだ。
恐怖も悲しみもなかった。
ただ、過ぎ去った感覚だけが残っていた。
ゆっくりと、父の遺体に近づく。
魔物の血が付いた片手剣を見つけた。
拾った。
父の怒りが流れ込んだ気がした。
金品、食料はすべて奪われていた。
むき出しの剣を握って外へ出る。
兄と思われるものがそこにいた。
ボロボロの鎖帷子を剥ぎ取る。
ガチャガチャと、音だけが響く。
服の下に身に付けると、
兄の悔しさが流れ込んだ気がした。
道のさまざまに、血の痕がある。
ゆっくり歩いた。
周囲を警戒しながらゆっくりと。
だが、魔物はいなかった。
代わりに、顔見知りの村人が
ゴロゴロ転がっていた。
何も感じないのは、脳が拒否しているからか?
それとも、俺はこういう人間なのか?
母はなぜ、俺を助けたのか。
ぼんやり考えながら歩く。
村外れの教会に来た。
中は血の臭いが漂っている。
村が襲われる前日、
俺に何か言っていた神父は
どこにも見当たらなかった。
神父は何を言っていた…?
加護?神の導き?
まぁ、もはや関係もない。
血に染められた十字架がある。
父の片手剣を思いきり降り下ろす。
神…か。もう、必要ない。
教会の外に出ると、日は落ちていた。
何も考えず、行き先も決めず、
ただただ歩いた。
夜は冷える。夜営用に火を起こした。
パチパチと、木々の音が響く。
近くの小川で水を飲んだ。
全身に水が染み渡ると、
急激に腹が減ってきた。
木の実を取って食べる。味はわからない。
俺は今なぜここにいる?
これからどこへ向かう?
役に立つ技術もない。
魔物を滅ぼせるほどの力もない。
揺れる炎を見ながら考えていると
いつの間にか寝てしまっていた。
朝。
小川で顔を洗う。
普通の朝だった。
木の実をポケットに詰め、ゆっくりと歩き出す。
巨大鼠が飛び出してきた。
恐怖はなにもなかった。
ただ、機械のように剣を降った。
血飛沫が舞う。
鼠が動かなくなった。
魔物を倒すのは、意外と簡単だ。
心を持たなければ躊躇もしない。恐怖もない。
鼠の皮を剥ぎ、肉を食った。
魔物の臭いがした。
同じ事を3日続けた。
何かが狂ってきたような気がする。
川に沿って上流へ歩いていく。
何かの足跡がある。魔物か?人か?
音に警戒しながら歩く。
2時間ほど歩いたところで、
人を見つけた。3人いた。
死んでいた。
おそらく魔物に殺されたのだろう。
噛みつき、肉を抉られたソレは
どこかの村を思い出させる。
ヒトの小型盾をもらう。
何も流れ込んではこない。
背負うものは要らない。
父の剣を捨て、ヒトの槍を持つ。
状態の悪い装備はいらない。
埋葬もせずに進む。
大熊が2体、正面から襲ってきた。
つがいのようだ。
メスの眉間に槍を埋める。
荒れ狂うオスの左目に、槍を振るう。
背後に回り、刺す。
淡々と、殺した。
『村を襲った』魔物だからか。
それとも、『ただの』魔物だからか。
わからない。
殺されてもいいのだが、殺してしまう。
生きたいのか?
死にたいのか?
今、何を求めているのか。
その夜、夢を見た。
母と、兄と、教会の神父がいた。
母は泣いていた。生きてて嬉しいと。
兄は戦えと言った。表情を変えずに言った。
神父は会いに来いと言った。
どこに行けばいいのか聞いても答えない。
朝。目覚めは良かった。
食事を取っているせいか、
脳も動くようになってきた。
だが、壊れた部分は戻らない。
山頂へ、歩く。
この山には何があるのか。
特に気にならないまま歩き続ける。
腐った猪が向かってくる。
異臭を放って襲いかかる。
…槍はいい。一定の距離が保てる。
何も考えず、突いた。
首筋を腐敗した肉が掠める。
熱い。
夜、狂気の狼の群れに遭遇。
岩を背にして戦う。
考えていたことは、肉の味だ。
死ぬことに恐れもなく、殺していく。
左足を抉られた。
鎖帷子が、爪の一撃を止めてくれた。
兄への感謝はない。
半分ほど殺したところで、
群れはいなくなった。
肉を焼いてみたら、思っていたより旨かった。
足の傷はそこまで深くない。
歩くことに支障はない。
山頂が見えてきたところに、小屋があった。
狼の肉を持ち込む。
小屋の中はなにもなかった。
ただ、藁葺きの寝床は確保できた。
しばらくここにいるか…。
夜。神父が夢に出た。
藁葺きの下に神の加護があると言う。
特に興味はなかった。
朝。藁の下には小さな十字架があった。
触れることはなかった。
魔物を殺し、肉を食する。
左足の怪我は見えなくなっていた。
なぜだ?体毛が覆い隠している。
魔物を殺し、肉を食する。
鎖帷子は壊れ、布1枚だ。
兄が夢に出てきたが、殺した。
魔物を殺し、肉を食する。
母が夢に出てきた。
会えないところへ行くと言う。
どこだと尋ねるが、言葉が思うように出ない。
魔物を殺し、肉を食する。
魔物を殺し、肉を食する。
魔物を殺し、肉を食する。
魔物を殺し、肉を食する。
神父が夢に出た。十字架を拾えと言う。
わかったと言うと、優しい笑みを向けられた。
魔物を殺し、肉を食する。
魔物を殺し、肉を食する。
魔物を殺し、肉を食する。
魔物を殺し、肉を食する。
神父が嘆いている。
なぜ十字架を拾わないのだと嘆いている。
忘れていたと答えると、
神の加護を祈って消えた。
神父は泣いていた。
魔物を殺し、肉を食する。
魔物を殺し、肉を食する。
十字架の存在を思い出し、手に取る。
真っ赤に見える。おかしい。
周囲を見る。すべてが赤い。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
身体が熱い。いや、寒い。
左足が、体毛と共に落ちた。
熱い。
槍をもつ右手が動かない。
寒い。
這いつくばって、外に出る。
星の光が見える。
振り返った先、小屋の入り口に
神父が立っていた。
ゆっくりと口を開く。
『あの日失ったものは、心ではない。』
『あの日壊れたものは、心ではない。』
『人であることを忘れた罪なき者よ。』
『魔物として生きる、ソレもまたいいだろう。』
声は出なかった。
ヒトではない唸りが発せられた。
なくしたのではない。壊れたのではない。
捨てたのだ、人であることを。
ゆっくりと、山を降りた。
お読みいただき感謝です。