帰宅部じゃないけど帰宅部です
部活動加入率100%、と言うか部活には強制加入なのが俺の通う高校、大園高校だ。
中学では何もせず自堕落な生活を送っていた俺が入ったこの高校はまさに最悪だった。
入学式の後の担任の説明を受けて顔面を蒼白にした俺は、説明会も受けず適当に選んで受験した過去の俺を恨んだ。
だがしかーし! 俺は今の部活を選んで正解だと思っている。てか、ポスター見た瞬間これしかない! と思い入部届けを出したほどだ。
俺の入った部活、それは、
『帰宅部』
ナニコレサイコー! とか叫ぶのも分かるべ? だって、帰宅部ですよ? 帰宅部! 即、KA☆E☆RE☆RU部活だよ?
と、いうわけで本日は初の帰宅部の活動に参加する日である。
入部届けを出しても一年はまだ部活には参加出来なかったからだ。
放課後になり、部室棟に行き、帰宅部という張り紙を見つけ、その扉の前に立つ。
まず思った。なんでぶしつあるのー?(某動画のゆっ○り風)
まあ、何はともあれ入ろう。ノックをして、ドアを開ける。
「失礼しまーす! 初めまして。一年の桜井優雅です。帰宅部に入部しました。これからよろしくお願いします!」
桜井優雅こと俺は曇天の日に晴れやかな挨拶をカマした。
「あら、こんにちは。ようこそ帰宅部へ」
そんな俺を迎えてくれたのは、黒髪長髪、清楚な感じのおっとり系の美人さん。
「ここここ、こここ、こんに、こここんにちは」
ロクな挨拶出来てねーなとは思うだろうが、弁解をさせてくれ。この人こそ、俺を帰宅部に入部する事を決めた理由の一つだからだ。
俺はポスターを見て決めた、と言ったよな? そのポスターにはこの人が微笑みながらチャリを押していた写真が載ってたんだよ! こんな美人さんに、一緒に帰ろ? とか言われてぇだろ? まあ、理由は不純だが、男なら分かってくれるはずだ。
「フフ、そんなに緊張する必要ないのに」
緊張の一つくらいさせて下さいとも言えず、金魚のように口をパクパクさせる事しかしない不甲斐のない俺に目の前の美人さんは優しく、
「とりあえず、中に入っててちょうだい」
と言った。ああ、なんて優しいんだ。今もコクコク、と機械のように頭を動かすことしかしてない俺を、あんな暖かい目で見てくれてる。
「ししし、失礼いたしまする」
若干変な言葉遣いだが、気にする事はない。
「もう少しで皆来ると思うからそこの椅子に座ってて」
「は、はい!」
俺は言われた椅子に座り、部室を眺めた。
しかし、これと言って目立つ物は何もない。長いテーブルが二つくっついて置いてあり、それに合わせて配置されてるパイプ椅子がテーブルの左右に三脚づつある。他にはロッカーがあるくらいだ。ちなみに、俺が座ったのは一番手前の右側だ。
「う~ん。皆遅いから、先に私の自己紹介をしちゃうね。この帰宅部の部長で二年の水野紗江。よろしくね!」
そう言って、ニッコリ笑う水野先輩。ヤベ! 可愛い! とか思いながら、俺は顔を真っ赤にして目をそらす。
「え、あ、はい! こちらこそよろしくです!」
てかこの人が部長なのかよ、とか思ってたら
「さーちゃん! 来たよー!」
バタン! と盛大にドアを開けて、一人の女生徒が入って来た。
「って、ん? およよ。まさか新入部員? わぉ! しかも男の子!」
「ちーちゃん落ち着いて」
水野先輩にちーちゃんと呼ばれたその人は、一気にまくし立てると、俺の目の前の席に足をかけ、身を乗り出す。
正直言って、近い。そして、この人もかなり可愛い。ショートの茶髪にクリクリした大きな目。小柄な体躯からは小動物を連想させる。穏やかな感じの水野先輩とは違い活発的な感じだ。
「何年生?」
名前より学年かよ、と思いながらも、
「一年です」
ちゃんと答える。
「ええぇ! 一年で帰宅部に入るって珍しいね! 何々? 春休み中になんか怪我とかしちゃったの?」
かなりのハイテンションっぷりに飲み込まれてしまう。
「いえ、怪我なんてしてませんよ」
そう言うと目の前の先輩? は首を傾げて、
「えっと、じゃあ! 中学は何やってたの?」
「いえ、何もやってませんよ」
ますます首を傾げて、
「何でこの高校に入ったの?」
そう質問されてようやくこの人の疑問が分かった。要するに、部活やってなかったのに、何で部活動強制加入のこの高校に来たのか、という事だろう。
「ああ、ただ単に家から近かったもんで。高校に入って担任から部活に入らなきゃダメだって言われた時は血の気が引いたのを覚えてますよ」
笑いながら、我ながらバカだなぁと思う。
「あははは! 君、おっちょこちょいだね!」
机をバンバン叩きながら大爆笑しだした彼女は、しばらくして落ち着き、また俺に質問した。
「君、名前は?」
そういえば自己紹介がまだだったな。
「桜井優雅です。よろしくお願いします」
「私は田端智沙よろしくね」
自己紹介が済んだのを見た水野先輩が手をパンと叩いて俺と田端先輩の意識を向けさせる。
「さて、それじゃあ部活を始めましょう!」
ん? 部活を始めるって事は……。
「水野先輩、他に部員っていないんですか?」
部員がこの三人だけだったら、俺の心臓が持たない。何せ、目の前には美少女が二人もいるからだ。ハッキリ言おう、どちらか一人とおしゃべりするだけでお腹一杯です。
「今はこの三人だけよ」
ニッコリと笑いながら先輩は言った。ああ、可愛いなぁ。