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ハナミナユタミナ

 葵に彩きて永が流る、朱の惹炉く許に希樹の、翠緑に摘焚い零れ路に未ずは鏡、緋に静む緩き、音無し騒ぐ道標、咲に燕む靄仄、行方訪ぬ旅花

 繰り返し返される情景を思い起こそうとして目を瞑る、呼吸の中に静けさの音を聴きながら瞼の内に意識を集中させていく

 同じであり、同じようであり、そして、同じということはないことを識る

 水の空より来りて何処かから何処かへと流れ、何れのときにか還ること、姿を象ることなく、より集まって存在し、音を包む、意識に強く響くように、ひとつの水面に、滴の落ちて音は跳ね、静けさに波紋は滑る、すべてを包み、封じこめて、降り積もった層が静かに沈んでいく

 想像することで存在し、遡る螺旋もいずれ光の彼方へと遠ざかる、いつか何処かで宇宙と名付かるもの

 言葉を紡ぐことの共有性を超えることは願われて久しく、目映い迸り、轟音は閑かに割り入る、旋律は位相を変えて幾重に彩り、交差が破裂の連鎖を生んで、彼方の星から此方の星へと道が繋がれる

 意識の層の何処に立つかということについて意識することが可能であり、そこで自らの輪郭を感じるとき、漸く人は世界との対話を始めることになる

 鳥の声の観念、謳う心炉の震え、色彩から織りなす、背後にいつも空を見る、ときに現実的に響き、抽象的にあり、特定とは別の知覚により、領域を過ぎるそのときの、狭い意味での世界のありよう、場合によっては象徴性か、無垢に跳ねる瞬きのうちに消え、滴の宙空に止まり、情景は光景から風景へと翻り次の声が鳴る、齣送りの情景が捲られる、先立つ祝福はまた人の心の震え、ただ音は鳴る

 針がただ音を叩き、止まった空間、外と内のあいだで起こる反転、暗く広く、かたちを持たない巨大さの中心で、内に向かって仄白く輪郭が存在し、調子を刻んでゆっくりと明滅しながら消えていくのか、極限まで小さくなった、目の前から消えるように見えるその瞬間から、世界は光に包まれ、破壊的に、あるいは破滅的に、あるいは、世界は反転し、そして意識は再び刻まれる音の元にあり、いずれ溶けた氷が回り始めるのだろうか

 夜に猫たちなどが何処かでそこにある、自己との対話は跪いて起こり、沈黙に結ばれた表層に閉ざされるとき、自身の空洞の外壁の軋みを知る、仄白い靄の拡がりを縁取り、思考を残し逆転する輪郭をかたちづくるもの、位相は転回すること、ひとつの対話の何処かへと流れ、茂みに消えて残る虚ろな実在によく似た三匹の猫の非存在、過ぎた時間に引きずられ歪む、暗い相で集合的に小さな渦を産み、それもいずれ凪のなかに霞み混む

 人もまた、何処かから何処かへと虚ろい生き、何処かへと還っていくだろうか、意思から生まれるのであるか、帯びるものであろうか、意思に日常性を与えて生くることは非常に困難であり、目を瞑るその心のうち、転回していく心象風景のなかに、高く割って入ってくる言葉の調子、高まりゆくなかの、意識はまた同じ繰り返しへと進む心の震え、転回するものにすら始まりがあるという仮説が、終わることの可能性を提示することを拒否しようとして、錯乱させる言葉と言葉と言葉の共鳴と反共鳴、それぞれに連なる反復可能な心象を明滅させ、世界が自己から乖離していくさまを眺める視線、何度でも目を瞑るだろう、解けない謎に耐えざる意思が目を開かせるたび、手にした見えない力の塊は白銀に光る、暗転した背景に白い活字が刻まれていくのが見える、壊すことが乗り越えることであるならば、意思に正しい力を携えなければならない、言葉は持たなくとも、心はそこにあり続ける、百年の後にも、千年の後にも、誇りはそこにあり続ける

 立ち尽くし導くことを願う、心の先から薫る、祈りを与える、光景は風景に被された高ぶりであろうか、存在することとそうではないことのあいだに区別があり、見ることは見えることを超えるだろうか、幾つもある地の果てを想像し、流れ続ける歩み、陽の昇る空に聳える屹立に遠く潤む対岸を臨み、狼煙をあげる城壁、力は未だ持たず、倒れるさなかに見るものは永く、ゆるやかに進む時に捕らえられて闇に暮れていく

 車輪についた花びら、耳鳴りはいつか吐息に曇る、天上の夜の荒し、野に見ぬ足跡を辿り、明くる訪れを近づける、心閑かに、かざした手の平の向こう、扉を開いてその先へ、新しい自分はなく、別の世界もなく、世界に広さはなく、そこにすべてはある、すべてとは時間であろう、流れ流れ流れ流れ、やがて言葉は紡がれて、調べは静か、心は薄靄のなかをゆく、草野の拡がりを、風の渦巻く夜明けに、世界に響く静かな、終わりから始まるメロディーを待つ

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