第二章 その4
僕は教室に戻り自分の席に座っている飯山をにらみつけた。飯山もにらみ返してきた。僕はイライラしながら席に座り数学の教科書とノート、筆箱を出しメモをした紙も机の上にだした。そして少々大きめな電波時計は机の下で隠すようにして左手で持った。
ふとそういえば祐太の姿が見えない。飯山のことですっかり忘れていたが……
(おいおい待てよ頼むぜ)僕はいやな考えが頭をよぎった。僕が遅刻したこと、祐太が学校に来ていないこと、今のところあの本の通りに事が進んでいる。いやいや待てたまたま偶然一致しているだけだ。あり得るわけ無いだろ本に書いてあるとおりのことが起きるなんて、あれは飯山が妄想で書いた本なんだ。そのことを僕が証明するんだ。自分にいいきかせた。
数学の三宅先生が教室に入ってきて授業が始まった。勉強が嫌いな僕はいつも先生の話していることが子守歌のように聞こえしょっちゅう居眠りをしているが今は眠気なんか襲ってこない朝木さんが先生に指される9時26分28秒を僕は待っていた。
「じゃあここに書いてある練習問題を解いて下さい制限時間は15分です」開始から10分をすぎた頃三宅先生が言った。
静かに時間が過ぎていった。とても問題を解くような精神状態じゃない。僕にはこの時間がとてつもなく短く感じた。あのノートは飯山が書いたに違いないそう自分に言い聞かせながらも僕の遅刻のことや祐太が来ていない事の偶然の一致のことを考えると真実はもっと恐ろしい物ではないか、そんなマイナス思考な事を考えてしまう。そしてその時間になって欲しくないという気持ちが僕を覆い包んでいるのかもしれない。
「はいやめ」電波時計を見ると9時25分06秒だ。
「中島君、問一の答えは」
「はい、2・51」
「そうですね」
「じゃあ問二は……」僕は電波時計を凝視していた。
9時25分28秒29秒30秒……
「吉岡」」
「はい、4.89」
「ちょっと違うなぁ」
9時25分48秒49秒50秒……
「じゃあ館山」
「えぇ4.65」
「そうですね」
9時26分19秒秒20秒21秒……
「問三は……」
僕は祈った朝木さんだけは指さないで下さいと。
「朝木」
僕は一気に血の気が引き頭が真っ白になった。
「はい6・21」朝木さんは小さく返事をし答えた。
時計は9時26分28秒を指していた。
周りが真っ暗になった何も見えない。まだ夜ではないはずなのにブラックホールの中に一瞬にして引きずり込まれたようなそんな感覚に襲われた。
まだ信じられなかったあの本が朝木さんの人生の全てが書かれている……
「運命の本」だと言うことを……
秒単位で本に書かれていることと同じ事が今起きたのだ。これを偶然の一致で片づけること何て出来るわけがない。飯山が朝木さんのストーカーをしておもしろがって妄想のストーリーを書いていた。そんな僕の考えは間違っていた。飯山には申し訳ないことをした。僕の勝手な思いこみで飯山を傷つけてしまった。何て俺は馬鹿なんだ……
「じゃあ問4の問題は……吉井」
「……」
「吉井君」
横の席から野球部の武田が僕の背中をペンでつついた。周りもざわざわしている。
僕はハッと我に返った。
「はい……」
「どうした?どこか具合でも悪いのか?」みんなが僕の方を振り返り不思議そうに見ている。
「あのっちょっと気持ち悪いんで保健室に行って良いですか」
「あぁ大丈夫か?」
「はい」
僕は逃げるように教室を出て保健室へ向かった。保健室に行く途中で水道の水で顔を洗い鏡で自分の顔をじっと見た。
放心状態だった。まだ現実が受け止められない。考えられないだろ、本に書いてあることと同じ事が起こるなんて。
「くそっ」僕は小さな声で悪態を付いた。
僕は保健室に行く途中で何回もため息をついた。何のためにあんな本が落ちていたのだろう。誰が作ったのだろう。何もかもが分からなかった。
保健室に入り症状を伝え少し寝かせて貰うことにした。寝ようとしても寝れるわけもなくただ天井を眺めボーとしていた。
時間はあの本に書いてあることと同じかは確認しなかったが目覚ましを付けていたのにもかかわらず遅刻をしたのも、祐太が今日来ていないことも、あの本に書いてあることと同じ事が起こった。そして朝木さんがあの本と全く同じ時間に同じ答えを言ったこと、あの本には朝木さんの未来が書いてある。表紙にも書いてあるとおりやはり運命の本なのだろう……僕は何とか現実を受け入れようと努力していた。
でもなぜあんな所に朝木さんの運命が書いてある本が落ちていたんだ。俺にどうしろと……わからない。
とりあえず3時間目の体育の時間朝木さんは怪我をすると書いてあった。もし本当なら怪我をさせないように僕が何とかしなきゃ。でも運命が書かれているんだよなぁ。朝木さんが怪我をする運命ならばその運命を変えられるのだろうか。
そんなものやって見なきゃ分からないことだ。
突然僕の携帯が鳴った。祐太からのメールだ。風邪引いたから学校を休む、先生に言っておいて、との事だ。
「そういうことか」僕は小さな声でつぶやいた。
普通はホームルームで休みの人の名前を言う、そうすれば朝木さんも必然的に祐太が休みだと言うことを知り運命の本に祐太が休みだと言うことが書かれるはずだ。しかし運命の本には、祐太が休みとは書かれておらず、体育の時間に普通だったら祐太と僕がペアを組むのが自然な流れなのに僕と朝木さんがペアを組むことになっていた、やはりこれはこの時点でメールが来て先生に報告をして、朝木さんは祐太が休みだと言うことを知らないまま1日が過ぎると言うことなのだろう。これでなぜ体育の時間に僕と朝木さんがペアを組むのか謎が解けた。
それにしても祐太が学校を休むなんて小中高と一緒だが初めてだ。祐太は小中と皆勤賞で風邪を引いたなんて事も聞いたことがない化け物みたいに頑丈な体の持ち主なのだ。
やはり本人は気にしないふりをしていたが、朝木さんに振られたことが相当ショックだったのだろう。初めての失恋だったのだから仕方のないことだ。
時が過ぎ1時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。僕も少しだけ平常心を取り戻していた。
「吉井君、大丈夫?」保健室の先生が言った。
「大丈夫です」
「次の時間から授業受けれらそう?」
「はい」
「なら良かった」
すると保健室のドアを開け誰かが入ってきた。同じクラスの西岡鈴だ。とても体調が悪そうにしている。西岡さんを気にしつつも僕は保健室の出口へと向かった。
「有り難うございました。失礼します」そういうと僕は保健室のドアを開け職員室へと向かった。すると保健室の前の廊下に飯山が立っていた。
「あの……ゴメン」飯山が申し訳なさそうに言った。自分が殴ったせいで僕が体調を崩したのと思ったのだろう。僕は罪悪感でいっぱいだった。自分の思いこみだけで、飯山を犯人扱いし傷つけてしまった。本当に僕は馬鹿だ。殴られて当然だ。
「あの、僕は大丈夫だよ。殴られたから調子悪くしたわけではないんだ。朝から調子悪くて……それとなんか変な言いがかり付けてゴメン俺ちょっとなんか変な勘違いしてたみたいなんだよ本当勝手に変な疑いかけて傷つけるようなこと言ってゴメン」
「いいんだよ気にしてないから俺いつも暗いしストーカーに間違われても無理ないなって思うし、だから全然気にしてないよ」
僕は本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「ホントにゴメン……」僕はもうこの言葉しか出てこなかった。
「いいんだよ」飯山は少し笑みを浮かべて教室の方へ歩いていった。
僕はこれまで何度か友達とケンカをした事があるがこんなに後味の悪いのは初めてだ。
僕は職員室でへ行き先生に祐太が風邪で休むことを伝えそして教室へと戻った。
「大丈夫か?」武田が心配そうに言った。
「ああもう大丈夫だよありがとう」
2時間目の歴史の授業が始まった。この授業は大げさではなく毎回クラスの半分ぐらいの生徒が居眠りをする。先生は74歳でお経のようにただ話続ける。居眠りをしてる生徒に特に注意するわけでもなく坦々と授業を進めるのだ。だからみんな居眠りをしてしまう。歴史の時間はちょっと早いお昼寝タイムの時間なのだ。ただ毎回朝木さんは居眠りもせず一生懸命話を聞いている。そういうまじめなところが僕は惹かれる理由の一つである。僕は先生が話し始めると同時に机に顔を伏せて寝始めた。保健室では全く眠ることは出来なかったがやはり先生の話す言葉は僕には最高の子守歌なのだ。すぐに眠気が襲ってきてそのまま眠ってしまった。
すると何か僕の左肩に違和感を感じた。誰かが僕の肩を叩いているようだ。せっかく気持ちよく眠っていたのに……
僕は眉間にしわを寄せ薄目で左を見上げた。
「もう授業終わりましたよ」目がしょぼしょぼして、ぼやけて誰だか分からない。目をこすりまたよく見るとそこにはあの朝木さんがいた。
「体育の時間ですよ。遅れちゃいますよ」
「えっ」僕は周りを見た。みんな体育着に着替えグランドへ向かい始めた。
「あっすいません。起こしてくれてありがとう」
「いえ……」すると急に朝木さんの表情が曇り瞳から涙が一粒ぽろりとこぼれ落ちた。
僕は立ち上がり、どうしたの大丈夫?と話しかけるとよけい朝木さんが泣き始め涙が止まらなくなってしまった。
僕はどうしたらいいか分からなくなった。
「助けて」朝木さんは確かに僕にそういった。
「えっ」突然のことで何がなんだか分からなかった。
すると朝木さんの表情がみるみる変わっていき、僕をにらみつけた。「吉井君は私を救うことができるの?」僕には何の話をしているのか分からない。
朝木さんは持っていたカバンの中から金色に光る運命の本を取り出した。
「どうして、それを……?」僕はますます混乱した。
「私の全てを覗いて何するつもりなの」朝木さんは僕をずっとにらみつけている。
「あの……その……覗くつもりなんて」
「こんな物捨ててしまえばいい」そういうと運命の本をめちゃくちゃに破り始めた。僕はその光景をただ立ちすくんでみることしかできなかった。
すると一瞬周りが真っ暗になりハッと目が覚め目の前に木目が一面に広がっている。僕の机……汗をびっしょりかいている。先生の話声で今のは夢だったのだと気がづいた。
「夢……か」僕は小声で呟いた。
窓際に座っている朝木さんを見た。いつものように僕の席からは肩まで伸びた後ろ髪しか見えず表情は分からなかった。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。先生はそそくさと帰っていき一斉にみんなが友達としゃべり初め今までの静けさが嘘のように女子のかん高い笑い声や男子の友達をからかう声などでいつものように教室がジャングルにでもなったかのように騒々しくなる。
「ねぇ翼、祐太はどうしたんだろうね」みそのが言った。
「あぁ祐太?祐太はメールが来て風邪で休みだって」
「えぇうっそぉ祐太が風邪?全然そんなキャラじゃないよね。」
「そうだね」
「世界でいっちばん風邪ひかなそうなのに」そういうとみそのはトイレにメイクを直しに行った。
お前のせいでもあるんだぞ……僕はみそのの後ろ姿を見ながら思った。
次の授業は体育だ。朝木さんが怪我をして早退してしまう授業だ。僕が朝木さんが怪我することを止めなきゃ。でもどうすれば。
方法はたくさん思いついたが実行できること何て怪我をしないよう注意する事くらいだ。そんなことで運命は変わるのだろうか。やってみなくては分からないが。僕は体操着に着替えてグランドへと向かった。
体育の時間が始まり齋藤先生がノソノソとゆっくり歩いてきた。肌は黒く焼けていて体は大きく筋肉質だ。昔陸上で国体にも出場したこともあるらしい。そのころの事を自慢げにしょっちゅう話をする。
そういうところが生徒からウザがられている。
「今日は縄跳びねぇ縄跳び忘れた人いないよな一様予備の縄跳びは持ってきているけど」齋藤が言った。
「あ、あの……」1人の生徒が手を挙げた。三好純だ。彼はいつも何か忘れ物をする。美術の授業の時は絵を描くのに絵の具や筆などの美術道具を忘れて友達から借りていた。忘れ物常習犯といってもいい。今回もまた忘れ物だ。しかし僕もあの運命の本を見ていなければ、縄跳びを持ってくるのを忘れていた。
「三好その場で腕立て10回」三好は腕をプルプルと震わせながら
なんとか10回腕立てをして予備の縄跳びを借りた。
「その間自分の飛んだ回数を書くチェックシートを配ります」チェックシートが全員に行き渡った。
「さぁ二人一組でペアを組んで」
こんな時だいたいペアを組む人は決まっている物だ。僕は決まって祐太と組んでいるが祐太はいない。そういえば朝木さんはみそのとペアを組むことも多いがさっき保健室に入ってきた西岡さんとペアを組むことも多い。と言うことはみそのは違う人とペアを組んで朝木さんが余ってしまうと言うことなのか。
僕は朝木さんの方を見た。周りの人間がペアが決まっている中、僕と朝木さんだけペアがいなく何かキョロキョロと周りを見ている。
朝木さんがこっちを見て僕と目があった。朝木さんはすぐそらしたが、僕はドキドキしながらも朝木さんの方へと向かった。朝木さんは、僕が近づいて来るのが分かっているようだが気にしないふりをしている。その二人の変な空気感が僕をより一層緊張させた。
「あの……」
「はい」
「俺ペアがいなくて余っちゃったんですけどペアを組んでくれませんか」
朝木さんは女子の中でまだペアを組んでいない人がいないか探しているのか、周りを見渡し「あ、はい」と諦めがついたように返事をした。
僕は何か申し訳ないような気持ちになった。まだ先生は始める気配がない、間が持たないので何かを話そうと思ったが緊張で何も思い浮かばない絞り出して出てきた言葉が「今日は暑いですね」だった。夏だから暑いのは当たり前だし、いつもより暑いわけではないのに出てきた言葉がこれだ。
朝木さんから帰ってきた言葉は「はい……」」だけだった。
なんだか逃げ出したくなるぐらい気まずい空気になりそれと同時に男として何か気の利いたこと言えないのかと自分にがっかりした。
「それじゃあ前飛びや後ろ飛びは簡単だろうから省いてまず綾飛びからね」先生が言った。
僕はポケットにしまってあるメモを急いで隠すように取り出し見た。朝木さんが不思議そうな目で僕を見ている。
メモには綾飛びからと書いてある。あの本のとおりだ。
しかし僕は朝木さんの運命だけではなく自分の運命も知っている。僕が綾飛びを飛ぶ回数は、34回だ。運命を知っているわけだからわざと運命の本に書いてあるより早く引っかかったら、運命を変えることになる。そうしたら未来に何か影響があるのだろうか……体育の授業の成績が悪くなること、それと朝木さんに良いところが見せられなくて落ち込む、こんな所だろうか。僕には二つとも、重大なことだ。僕は通知票で体育以外はほとんど評価は2でたまに3があるくらいだ。1も少しだがある……唯一体育は5が捕れる科目なのだ。だからそんなにわざと早く引っかかるわけにはいかない。32回でわざと引っかかってそこで本当に引っかかるのか、それとも運命が未来を変えないような力が働いて、わざと引っかかろうとしても体が言うことを聞かず飛んでしまうのか。僕はそこを確かめたい。
「じゃあ準備して」
僕はなんだか緊張してきた。
先生のスタートを告げる笛が校庭に鳴り響いた。
僕は緊張しながら飛び始めた。朝木さんに目の前で見られながら飛ぶことだけでも緊張するのに、運命の通りになるのかならないのかどちらになるのかという緊張も重なり体が自分の物ではないように固まっていた。
飛び始めてもその緊張感は取れなかった。飛び始まってなんと6回で引っかかってしまった。あの本そして僕の思惑と全然違う回数になった。朝木さんは淡々と僕の飛んだ回数をメモしていた。
頭が混乱していた朝木さんに良いところが見せられなかった、そして成績も下がるそんなことも頭によぎりつつも全然運命の本と違う回数になってしまったことに驚きだった。
運命はこんなに簡単に変えられるのか。僕は呆然としていた。
朝木さんが飛ぶ順番が回ってきた。朝木さんは淡々と準備をし飛び始めた。運命の本どおり8回とんだ。朝木さんの行動すべてが運命の本どおりだ。
朝木さんは自分が飛んだ回数をチェックシートに書いた。
それにしても僕の飛ぶ回数が僕の精神状態によって、運命の本と現実に飛ぶ回数が、こうも簡単に変わるのであれば、朝木さんが怪我をするという運命もちょっと朝木さんに注意するようにと僕が伝えれば、怪我をするという運命は変わるのではないだろうか。
朝木さんが怪我をすることだって防げる。僕はかすかな希望を胸にひめ、朝木さんに伝えることを決めた。
次は僕が二重跳びをする番だ。運命の本には59回飛ぶと書いてある。この運命も成績に響かない程度に早く引っかかって運命を変えてやろう、これは運命を操作できるかの最終実験だ。
スタートの笛が鳴った。体の固さもすっかり捕れリラックスをして飛べているのが自分でも分かった。飛んでいる回数が50を突破した。55、56,57回と飛んだ。次で引っかかろう僕はわざと引っかかり無事自分の運命を変えることができた。飛んだ回数は58回だ。また自分の運命を変えることが出来た。未来を僕はコントロールしているのだ。次の片足飛びは運命の本より多く飛ぼう自分が飛ぶ回数を知っているのだから、引っかかる回数の所を気を付ければ、もっと多く飛べるはずだ。僕は自分の番が回ってくる時が待ち遠しかった。
朝木さんは二重跳びを運命の本通り5回飛んだ。次は僕の番だ片足飛びは92回飛ぶというのが僕の運命だ。僕は深呼吸をして集中した。開始の笛が鳴り僕は飛び始めた。20回、30回、40回と順調に飛んでいき、とうとう91回まで到達した。まだ十分飛べる体力は残っている、次を気を付ければまだまだ行けるはずだ。僕は集中して次の1回を飛んだ。なんと引っかからずに飛べた。93、94、95,と飛び僕は右片足飛びでクラスで一番の112回飛んだ。未来を良い方に変えることも出来たのだ。次の朝木さんの怪我だって防げるそう確信した。
朝木さんは飛ぶ準備をしていた。
「あの」
朝木さんは何だろうという顔を浮かべて「はい……」と答えた。
「片足飛びは足首をひねったりすることが多いから気を付けた方が良いよ」
「あ、はい」そういうと朝木さんは飛ぶ準備をした。
(大丈夫かなぁ)本当にちゃんと分かってくれただろうか。僕は心配でならなかった。
始まりの笛が鳴り朝木さんが飛び始めた。15回目を飛んで着地をするときに足首をひねり怪我をすると書いてあった。
朝木さんは軽やかに飛んでいる10回、11回、12回と飛びそろそろ運命の15回目だ。僕は少し緊張し始めたが大丈夫だろうと自分に言い聞かせた。運命の15回目を飛んだ。僕はその朝木さんが飛んでいる姿が、スローモーションのようにゆっくりと感じた。
僕は朝木さんの足元をじっと凝視した。着地する瞬間僕は胃の辺りが緊張する、そんな感覚になった。
「タッ」朝木さんの足が地面に着いた
何事もなくすんなりと着地をした。その後も何事もなく飛び続けた。16、17、18,と飛んでいる。僕はほっとし一息フッとはいた。
朝木さんが、怪我をすることを防ぐことが出来たのだ。
僕がほっとして鼻の頭をポリポリとかいていたその時だった。
22回目を飛んで着地した時朝木さんが悲鳴にも似た声を上げた。
「キャッ」みんなが一斉にこっちを見る。
「痛い」朝木さんは倒れ込み足首を押さえている。足首をひねってしまったのだ。
僕は呆然と立ちすくんでいた。みそのが駆け寄ってきた。
「大丈夫、ゆい」
「うん、少しひねっただけ」表情はゆがみとても痛そうだ。
「大丈夫か」先生も駆け寄ってきた。
「桜井、保健室へ連れて行くのに手伝ってくれないか」
「はい」
みそのと先生は朝木さんの腕を肩にまわしゆっくりと朝木さんを立ち上がらせた。朝木さんはびっこをひき二人に支えられながらゆっくりと保健室へ向かっていった。
僕はまだ呆然としていた。自分の運命はあんなにも簡単に変えられたのに……
朝木さんの運命は遅らすことができたが、結局は変えることができず、朝木さんは運命の本のとおりに怪我をしてしまった。
もっと朝木さんを怪我させないためになにか、いい方法があったのだろうか。「怪我をする運命だから飛ぶな」なんて言るわけもない。それこそ頭のおかしいやつだと思われる。「気をつけて」と注意するくらいしかできないだろう。
なんだか僕は悔しい。自分の好きな人が目の前で怪我をする事をわかっていながら、止めることができなかったなんて。自分のことが情けなく感じる。
ほどなくしてみそのと先生が戻ってきた。
「朝木は今保護者の車で病院に向かうため待っているところです。保健室の先生が言うには、ねんざかもしれないと言うことなので骨折などの大けがではないので安心して下さい。後桜井ありがとうな」
その後は淡々と授業が続いた。自分が飛ぶ回数なんてもう分からない。あの本は朝木さんの運命が書いてある本だ。朝木さんは病院へ行っているのだから僕が何回縄跳びを跳んだか何て分かるわけがない。だからあの本にだって僕が飛んだ回数なんて書いていない。だからもう自分の未来は分からない。




