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第一章 その5 第一章(完)

 1日の授業も終わり部活の時間だ。僕らは練習着に着替え、スパイクを履き練習場に向かった。一年は先輩より早くグランドに着いてなければならない。とてもフットボール部は上下関係が厳しい。

先輩より送れて来よう物ならスクワットやら腕立てやらをヘトヘトになるまでやらされる。そんなことはごめんこうむる。だから一年はいつも授業が終わったら、急いで着替えグランドへ行きカラーコーンなどを並べ練習の準備をする。

次第に先輩も練習場に集まり裸足でリフティングをしたり芝生の上に寝ころびストレッチをしながら、リラックスをし楽しそうに話しをしはじめる。それにあわせて、僕らもストレッチを開始する。

 その後、鬼コーチであだ名はホクロと呼ばれているサッカー部顧問の竹中監督がやってくる。

竹中監督の鼻と口の間に大きなホクロがあるのだ。ホクロはともかく厳しいミニゲームが始まると怒鳴りっぱなしだ。なぜそこでパスを出さないんだとか、今のはパスではなくシュートだとか、まぁとにかくずっと叫びっぱなしなのだ。日頃の鬱憤を全部ここではき出していると感じるほどだ。

ホクロが大きく叫んだ。「ランニング!」

練習はランニングから始まる。グランドはだいたい一週1km位あるそれを五周走る。その後コーンを使った練習やらがあって5対5のミニゲームがあり、実践形式のゲームをする。いつものように練習が始まったが、今日の祐太は少し違っていたランニングでは、なんと一番先頭で走り終えた。ミニゲームでも先輩に臆することなく強くぶつかっていき、いつもの何倍も、気合いが入っていた。なかなかほめないホクロも、「中村今日は切れがあって良いぞ」何て珍しく選手をほめた。祐太は少し照れた表情を見せていた。夕日の下でプレイする祐太がとっても輝いて見えた。

 太陽も沈み当たりは真っ暗だ。光っているのはナイターによる光だけで、サッカー部の練習場と野球部の練習場だけ暗闇の中に浮かび上がっている。ナイターの中での練習は、疲れがピークに達する頃だがすこしテンションが上がる。なぜなのだろうと考えた、きっとスポットライトを浴びているヒーローのような気分になるのだ。 そして7時半になり、練習も終わりの時間だ。この学校は部活は、4時半から7時半までと決まっている。あまり遅いと特に女子の親は、不審者に子供が狙われるのではないかという心配があるらしい。だから遅くまで部活をやってはいけないのだ。ちなみに朝木さんもみそのもパソコン部だ。朝木さんはまじめに行っているらしいがみそのは幽霊部員だ。

 かたずけも終わり家に帰るために自転車小屋に向かった。僕はいつも途中まで祐太と一緒に家に帰る。地元の高校だから家から自転車で行ける距離に高校がある。だいたい、学校から1kmくらいあるコンビニまでは一緒だ。そこで良く買い食いしては、たわいもない話をしている。いつものように自転車で一緒に帰る。コンビニが見えてきたので買い食いをすることにした。僕はツナマヨと鮭のおにぎりとお茶を買った。祐太は、焼きそばパンとコーラだ。その後家に帰ったら夕飯を食べる。だいたいご飯二杯はおかわりする。今は食べ盛りな年齢なのだ。だからそのくらいは平気で食べる。僕らは自転車の上に座りながらもぐもぐとほおばった。

「俺やっと吹っ切れたわ」祐太は口の中にたくさんパンを含みながら告白の事を話し始めた。このことを話すのは祐太がふられてから初めてだ。

「うん」僕もたくさん口に頬張りながら答えた。祐太の気持ちはよく分かる。

「俺は朝木さんとは付き合うことが出来ないきっとそう言う運命なんだよ」

また運命か……僕は黙ったままおにぎりを頬張った。

「新しい恋を見つけなきゃなぁ」

「それが良いよ」

「俺彼女出来るかなぁ」

「できるよ。これからはもっと積極的に女の子に話しかけていけばきっと……みそのだけじゃなく」

「はは、そうだよなそれにしてもみそののヤツ簡単に言いやがってよう」

「あいつの暴走は誰にも止められないよな。まぁみそのは自分の好みのタイプがいたらすぐ自分の気持ち言っちゃうタイプだから俺たちみたいにずっと言い出せないでいるなんて考えられないんだよなぁきっと。そう言う性格なんだよ」

「そうかもな。あいつこれまで何人と付き合ったんだろうな」

「しらねぇけどあいつ恋愛経験は豊富そうだよな。恋愛番長だな」

「ホントうらやましい限りだよなぁ俺も見習おう。恋愛番長みたいに積極的にだよな」いつの間にか振られた話からみそのの話で盛り上がっていた。

「下手な鉄砲も数うちゃあたるだよ」

「はっはっは確かにそうだな、その精神重要だよな」

「お互い頑張ろうぜ」

「ああ」

そう言うと僕達二人は買った食べ物を口に全て押し込み飲み物で胃まで一気に流し込んだ。

「じゃあそろそろ帰るか」そう言うと祐太は息をふぅと一つ吐いた。これまでの朝木さんへの思いの全てをその一息の中に凝縮して一気にはき捨てた、そのように僕は感じた。

「うんじゃあね」

「じゃあまた明日」

僕たちはそれぞれ自分の家の方へと帰っていった。

 僕の家までは、途中に猫公園があるくらいで後はほとんど畑だらけで回りは真っ暗だ。なぜ猫公園かというと壁にたくさんの猫の絵が描かれているそれだけのことだ。この公園の本当の名称は忘れた。 田舎という物は自然豊かですばらしい。だが自然が豊かであるからこその苦労もある。この前なんか野良犬二匹に追いかけられた。たまにうろついているのだ。あいつらは、僕が思いっきり自転車をこいでも追いついてくるくらいのスピードだ。一度目を付けたら死にものぐるいで追いかけてくる。もう必死で逃げた。足首をかまれるかと思ったが意外とあいつらはスタミナがない、200m位全速力で自転車をこいで逃げていたら心なしか息使いが荒くなり、追うのをやめてしまった。人間の開発した自転車という物はなんと素晴らしいかとこのときほど思ったことはない。

 そんなことがあるくらい僕の住む地域は田舎なのだ。東京では考えられないことだろう。だが大都会東京は都会の汚染された空気を吸った頭が狂ったヤツが包丁を振り回し何人かを斬りつけたというニュースをみた。田舎では野良犬、都会では汚染された人間が追いかけ回してくる。どっちが怖いのだろう。汚染された人間に追われたことがないので分からないが……

 満天の星空を見上げ鼻歌を歌いながら帰っていた。唯一と言っていい街頭が光り明るい場所、猫公園の横をいつものように通り過ぎたが何か横目でいつもとは違う光を感じたような気がした。僕は少し気になったのでUターンをして光が見えた場所に戻った。よく見るとブランコの横にあるベンチの隣がぼんやりと金色に光っている。僕はその金色に光る何かの方へ自転車を降り近づいていった。近づくにつれその物体の形が見えてくる。何か四角い箱のような物だ。恐る恐るその金色に光る箱のような物に近づいてみると、その物体がなんなのかはっきり分かった。本だ。それもとても大きく分厚い。僕のいつも使っているショルダーバックにやっと入るか入らないかくらいの大きさだ。縦50cm、横30cm、厚さも15cmくらいはある。とても重い。周りは暗いが、本がまばゆいくらいの光を放っていたので、表紙になんて書いてあるかすぐにわかったそこには大きく「運命 朝木ゆい」と書いてあるのだ。


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