第一章 その4
1時間目は国語の時間だ。祐太は僕の前の席だが、祐太の背中は縮こまっていて、とっても落ち込んでいるように見えた。たまに深くため息をつく音が聞こえる。まだ振られたわけではないが、祐太は振られると確信しているようだ。祐太には悪いが僕もそう思う、だがもしかすると大どんでん返しが待っていて、祐太と朝木さんが付き合うんじゃないかというそんな不安も少し僕の頭をよぎった。一度頭をよぎると、その不安が泡のようにブクブクと膨張していき歯止めがきかなくなっていく。
もしそんな事があったらこの二階の教室の窓を突き破り僕はちゅうちょ無く飛び降りこの何の変哲もない16年の長かったようでとても短い人生をキッパリと終えてやる。天地がひっくり返っても朝木さんがOKすることは無いだろうと思いながらも、もしかするともしかしたら何てそんな不安に胸が押しつぶされそうな、そんな気持ちになっていた。
授業も聞かずそんなことばかり考えていたら、あっという間に50分が過ぎ1時間目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。僕にとってはそのチャイムの音がゴングの音のように思えた。王者に挑む一世一代の大一番のボクサーの気持ちだ。まぁ僕は何もしないのだが……
するとみそのがこっちに近づいてくる。みそのがニコッと笑った。(なんだあの笑顔はもしかしたらまさか……)
僕の緊張はピークにたっしていた。ふと横を見ると、祐太もみそのが近づいてくるのに気付いていた。
祐太の顔を見るとなんだか、すがすがしい顔をしていた。逆に僕の顔はこわばっているだろう。
「ねぇ祐太」みそのの顔が少し真顔になった。
「どうだった」祐太は終始落ち着いている。
みそのは一つため息をついて言った。「ゆいね、祐太のこと知らなかったみたい。知らない人とは付き合えない、ごめんなさいだって」
一瞬空気が凍り付いた。
「やっぱそうだよなぁ。100%無理ってわかってたよ」裕太は照れくさそうに笑みを浮かべていった。
「裕太、こんなことで落ち込んじゃダメだよ。恋愛はふられることの方が多いんだから。でもふられてもそうやって明るくできる裕太はかっこいいぞ」
裕太はみそのを指さしながら言った「だろ?」
みそのは、祐太の髪をくしゃくしゃっとして。みそのは朝木さんの所へ行ってなにやら朝木さんと話していた。
それにしても”存在すら知らなかった”と言う振られ方は、祐太にとってはいや祐太に限らず誰でもそうとうショックだろう。付き合うも何もまず存在を知られていなかったのだ、しかも同じクラスなのに。こんな振られ方はあまりにかわいそうだ。祐太と朝木さんが付き合ったらどうしようなんて感情は、一瞬にして消えて無くなっていた。そんなことよりもどう祐太を慰めようかそのことで頭がいっぱいになっていた。しかし祐太に何て声をかけて良い物やら分からなかった。
「まさか存在すら知られてなかったなんて、振られたことよりそっちの方がショックだよ」
祐太は照れ笑いを浮かべていた。
「まぁしょうがないよ朝木さんは男子に興味がないんだよきっと、男子の全員の名前言えって言われても三分の一も答えられないんじゃないかな」
きっと僕のことも知らないだろうそう思った。
「でも何かすっきりしたわ」そう言うと大きく背伸びをした。祐太はとても晴れやかだった。なんだか祐太が一回りも二回りも大きく見えた。
そのまま何もなかったかのように1日が過ぎていった。普通であれば振られたらその日1日、いや一週間でも立ち直れないヤツだっているだろう。でも今回は特殊なケースだ。
朝木さんには告白したって付き合うことは無理という常識があるから逆に振られることが普通であってそれが日常なのである。だから何もなかったかのように祐太も過ごしているし、僕らも普通に接することが出来るのである。あっさりしている物だ。とはいっても朝木さんの話はしなかった。祐太もしたがらなかったしそう言う空気は確かにあった。




