第六章 その1 第六章 (完)
それから僕は両親に朝木さんと付き合っているということを言い、親公認の付き合いになった。朝木さん、そして朝木さんのお爺ちゃんお婆ちゃん、そして僕の家族はとても仲がよく、僕を一生懸命励まし看病してくれた。
朝木さんは毎日お見舞いに来てくれた。そのたびにいろいろな話をした。学校の話。映画の話。音楽の話。治った後の話をすることも多かった。
「治ったらどこにデートに行きたい?」朝木さんが言った。
「そうだなぁサッカー見に行こうよ」
「うん。見に行きたい」
「グランドがものすごいきれいなんだぁ。一度見に行ったことがあるけど忘れられない」
「へぇそんなにきれいなんだ」
「そうまさに夢の舞台って感じだね。一緒に行こうね」
「うん」
「そういえばその……」僕は気になっていることが一つあった。
「なに?」
「朝木さんのお母さんのことだけど」
「うん。そうだよね。まだ言ってなかったよね」
意外に朝木さんはあっさり話を始めた。
「お母さんは交通事故で死んじゃったの」
「そうなんだ……ごめん」
「いいの。いつか言わなきゃって思っていたし」朝木さんは暗い表情一つ見せずに言った。
「それから父の虐待が始まったんだけど」
「その話はもういいよ。朝木さんがつらくなるだけだから」
「……うんありがとう」
朝木さんは笑顔を少し浮かべていった。
「翼君」
「ん?」
「いつか結婚したいって言ったよね」
「あ……うん」僕は少し照れくさそうに言った。
「私翼君が旦那さんだったら幸せだなって思うの」
「僕もゆいがお嫁さんだったらこんなにうれしいことは無いよ」
「ありがとう」朝木さんが言った。
「よかったら……僕と結婚してほしい」
朝木さんは少し下を向き言った。
「はい」
そう言うと朝木さんは涙を流した。
僕も涙をこらえることができず、二人抱き合って泣いた。指輪も持っていない。結婚できる年齢になっていない、婚姻届も出していないが、僕たちの心は夫婦になった。




