藤原さん 10
藤原さん 10
「クリスマス前に彼氏欲しかったなぁ。」
美智佳が教室を出ると呟いた。
「お前が諦めるなんて珍しいな。去年ならまだ十日あるって合コン、あっちこっち行きまくるだろうに。」
「誰が諦めたのよ!今日も行くわよ。ねぇ、藤原さんも行かない?」
美智佳が誘う。その言葉になぜか俺の頬が引きつった。
「行かないわよ。」
「なんでー?」
「おい、行かないって言うのを無理に誘うな。」
「あのね。美智佳さんがいつも言っているでしょ?今度こそ運命の人に出会えるかもしれないって。」
「そうよ。」
「でも私は、もうすでに両手にすさまじいほどの糸があると思っているの。それらはすべて私の運命の人たちなの。別に男性限定じゃなくて、女性、老人、子供でも一度でもつながった事のある縁はずっと糸になって繋がっているものだと考えているの。そして、それを掴み続けるかほどくかは私が判断するの。私は限られた中でそれを選択していこうと思っているの。新しく自分から糸を増やす予定はないの。たぶんいつのまにか、手の中にあるものだと思うから。」
「よくわからない。」
「いいのよ、わからなくて。」
藤原はにっこり笑った。珍しい。俺はそっと自分の手を見た。運命の糸?相手?そんなものは考えたこともない。そうしてみると、女性特有の思想だろうか?
「とにかく藤原さんが行かないのはわかったわ。あ、じゃあ私、図書室に寄ってメンバーをかき集めていくから、ここで。」
「おう。」
俺は手を挙げた。藤原も手を振った。
「運命ねぇ。正直、俺にはわからんな。」
「そうねぇ。運命の相手が見つかったとしても。どうしてその人と必ず幸せになれるなんて決まっていると思うのかしら?」
「ま。普通は自分が不幸になるだろう前提はしてないんだろうな。」
藤原はいつもの顔で言った。
「彼女が自分の幸せが何かわかったら、誰が隣にいようと誰もいなくても彼女は幸せになれるのにね。相手は関係ないんだけどなぁ。」
藤原の言葉に俺はちょっと唸った。彼女の考えはやっぱり難しい!