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トランス  作者: アキラ
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第7話 正とお嬢様

「あ、は、はい。ご、ごごきげんよう!!

わ、私の名前はま・・・。マキって言います」

こんな初めてのことが重なってしまったこともあり、声が震えてしまっていた。

そして、なぜかこの場で自分の名前である正という名を

名乗ることがどうしようもなく、恥ずかしい気分になってしまい、

ついつい偽名を名乗ってしまったのだ。

(変なの・・・。なんで正って言えなかったんだろぉ)


ハルカさんはそんな正の不自然な対応には気づくことはなかったようで、

正に握手を求めるべく、手を伸ばしてきた。

「ふふふ、そんなにも緊張しないでください。おそらくですけど、

私とあなた、同じくらいの年齢だと思うわ。

だからそんなにもかしこまらないでいいですわよ。」

そんなことを言いながらも、敬語を崩さないハルカに正は

これが本物のお嬢様なんだろうなぁと漠然と思ってしまった。

そして、正はハルカの手を握りしめると、目線を合わした。

「は、はい!!」


そんなハルカとの他愛無いやり取りをしていると、

ここまで連れてきてくれた青年がいつの間にかいなくなっていることに、

いまさらながら気づいた。

正は彼の姿を探すためにきょろきょろと周りを見回した。

「マキさん、どうかしましたか?」

さすがにこの行動を不審に思ったのか、ハルカは正に問いかけた。

「あ、いや、あの・・・。さっきのお兄さんはどこへ行ったのかなぁと・・・」

「あ、誠一の姿を探していたのね!!誠一のことだから

着替えに行っているんじゃないかしら。私はいつもいいと行っているのだけれど、

外に行くときには普段着に着替えてから行っていますから。あ!そうだわ」

ハルカは正が探している青年が今何をしているのかを教えてくれた。

(あの人の名前、誠一さんっていうんだ。かっこいいお名前・・・。)

そして男相手に恍惚とした表情を浮かべてしまう。

一日前の正からは考えられない反応だろう。

さながら恋する乙女のような表情になっている正の心中に気付いたのか、

ハルカは何かを思いついた。そして・・・。



「ハルカさま~。どちらにおられるのですか?」

ハルカの読み通り、屋敷の使用人用の服に

着替え終えた誠一はハルカの姿を探していた。

「どこに行ったんだろうか、それに彼女の姿も見えないし、連れていかれたのか」

誠一が探しているのはハルカだけではなかった。

自分がこの屋敷まで案内した手前、

精一杯のおもてなしを彼女に対してしようと思っていた。

今まで、こんな気持ちになったことはないと思うほどに

なぜか彼女には惹かれるものがあった

だからいつもよりも素早く、

着替えを終えて彼女とハルカのもとへと戻ったというのに、

すでにそこに人の姿はなかった。

ただ、この屋敷の住み込みとして働くようになって、

もう5年という月日を過ごしている誠一にとってはおおよその見当はついていた。

しかし、思い浮かんだ場所をしらみつぶしに見ているのに、なぜか見つからない。

少々、焦りを感じていた。


その矢先のことだった。

「誠一~。私の部屋まで来てほしいわ~」

そう、ハルカの声が屋敷全体に聞こえるほどの声量で聞こえてきたのだ。

ただ、誠一は今までの経験からハルカのその呼び方に嫌な予感を覚えた。

ハルカは普段はごくごくおとなしいお嬢様であり、あまり大声なども上げない。

しかしながら、誠一に対して軽い悪戯を仕掛けるときなどには

こうして楽しげな声色で屋敷中の響き渡る感じで誠一のことを呼びつけるのだ。



正直、行きたくはなかった。

というのも、ハルカ様に呼び出されて良かったことが今までなかったからだ。

悪戯好きというか、なんというか、いつもの穏やかなお嬢様気質はどこへやら、

ハルカ様が仕掛けてくる悪戯はいつも俺の心を冷やすものばかり。

一番、最近にされたことといえば、本に影響されたのかドアを開けたら、

手から血を垂れ流して倒れているという光景を見させられた。

無論、この時の血は本物の血ではなく、トマトジュースだった。

しかし、そんなことに気付けるわけもなく、

我ながら呆れるほどに狼狽えてしまった。

そして、その時もハルカ様は悪戯大成功といわんばかりの満面の笑みだった。


だから、今回も嫌な予感しかしなかった。

ハルカ様の部屋へ続く階段を上がり、廊下を進みながら、

俺はこれから起こるであろう悪戯を覚悟した。

(どんなことをされても、平静を保とう。うん!平静だ。平静)


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