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トランス  作者: アキラ
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第5話 正の乙女心

「ふふふ、ワンちゃん、あなた足早いのね~。

ついつい私も本気になって走っちゃったよ~」

「わふぅ」

正だった少女と犬は後ろから呼ぶ琢磨の静止の声にも気づくことはなく、

近所にある公園まで全力疾走していた。

おそらく琢磨はまだ公園の姿を瞳には映していないだろう。


全力疾走したためか、正と犬はベンチに腰掛けることにした。

すると、公園の入り口の方から見るからに

大学生っぽい青年がこちらへと駆け寄ってきた。

(なんだろう?なんかあの人、こっちに向かってきているような…)

「君、大丈夫?なんだか疲れているようだけど・・・」

正の予感は当たったようで、

青年は正の座っているベンチの側までくると、声をかけてきた。

どうやら、心配してくれているようだ。

正は今の今まで犬との戯れで気付いてはいなかったが、汗が半端なく出ていて、

全身がびしょびしょに濡れていた挙句、

肩で呼吸するほどに酸素を欲するように口は半開きになり、

疲れた結果の眠気のためか、やや虚ろな目をしていたのだ。

この状況でベンチに座り込んでいたら、

おそらく誰でも熱中症に苦しんでいる少女だと思うだろう。

そして目の前にいる青年も例外ではなかったようだ。

「うわっ!!すごい汗だね。こんなにも汗をかいて、あ、ちょっと待ってて。」

青年はそう正に声をかけるや否や、

自分の鞄の中からタオルを取り出して、正の頭を拭き始めた。

この状況に正は少々困惑しつつも、なぜか嬉しい気分になってしまう自分がいて、

余計に困惑してしまった。

そういう気持ちが青年にも伝わったのか、彼はぴたりと汗を拭きとる手を止めて、

申し訳なさそうな表情をしだした。

「あ、ごめんな!!こんなこと、見ず知らずの男にされたら嫌だよな。悪かった。

気持ち悪いよな。ついつい妹にしていることと同じことをしてしまった」

彼は本当に申し訳なく思っているのか、頭を下げてきたのだが、

正としてはさっきまで青年の優しい手つきで自分の汗を拭きとってくれていた時の

感じが今まで感じたことのないほどに心地が良かったためか、

謝られる意味が分からず、むしろもっと拭いてほしいとすら思った。

そのことから、正は今までの自分ならば絶対に

言わないだろう言葉がすんなりと口から出ていた。

「え、いや謝らなくてもいいですよ~。

私にも兄がいるのでこういうことは別に気にしていないですし、

・・・そ、それにお兄さんの拭き方、すっごく気持ちが良くて、

もっとしてほしい・・・くらいで///」

自分自身では気づきもしないことだが、

その言葉を言った正の表情はまるで恋をしている少女のように肌は紅潮し、

瞳は潤み切っていた。

そして、そんな表情でそんな言葉を言ってしまったためからか、

青年の顔も見る見るうちに赤くなっていった。

そんな照れを隠すかのように青年は正の視線から自分の視線をわざとそらすと、

正の頭と顔を拭き始めた。


「それにしても君のような可愛い妹を持っているお兄さんは本当に幸運だな!

俺の妹はさ、昔はお兄ちゃん、お兄ちゃんって言ってくれて、

どこへ行くにしてもついてきてくれて可愛かったんだけど、

今じゃ、「兄貴、なんか食べ物買って来てよ」とか自分の欲しいものが出た時だけ

呼びつけて、それがなかったら無視でさ。はは。って何話してるんだろうな。俺。

こんな話されたらキモイよな・・・」

正と青年は彼が買って来てくれたジュースを飲みながら、

そんなたわいのない話をしていたところ、

またしても彼は急に自分の話が気持ち悪いと思ったのか、話を止めた。

しかし、そんなことを露も思っていなかった正にとっては、

もっと話を聞きたいという衝動に駆られてしまい、

彼の言葉を引き取って彼を慰めることにしたのだが、後で考えれば、

これから話す言葉のせいで、自分の身にあんなことが起こってしまったのだろう。


「いや、気持ち悪くなんてないですよ!!

それにうちの兄に比べたら、お兄さんの方が遥かに素敵で・・・。

どうせならお兄さんが私のお兄ちゃんだったら良かったのになって思います。

優しいし、話だって面白いですし、もっとお話ししてほしいくらいです。ふふふ」

その言葉に嘘偽りはなかった、正がこの数分間で彼に対して思ったことだった。

その思いも彼には伝わっただろう。

そして彼の心には微かに恋心みたいのものができてしまった。


「なぁ、もし君さえよければなんだけど、俺の家に来ないか?

なんかこんなことを初対面の女の子に言うなんて初めてなんだけど、

なんでかな。君とはもう少し話をしたいんだ。

だけどこんな暑い中話すのも、どうかと思うんだがどうかな?ってやっぱり」

「行きます!!ぜひ///」

彼は多分、そんな誘いをしたことはないのだろう。

顔は明らかに気温のせいではない熱ではない熱で赤くなっていて、

最後まで言ったところで後悔をして、なしと言おうとしたのだ

しかし、もうこれ以上、

青年が自分の意志で話を切るのは嫌だった正は彼の「やっぱりなし」という言葉を遮った。


すると彼は嬉しそうにうなずくと立ち上がり、おもむろに手を差し出してきた。

「それじゃあ、行こっか!まだ君フラフラしそうだから、手を繋いどこっか?」


そして正はその手を握ると、青年の家へとついていった。




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