第16話 正の心
かつての正は今の正のだらしない性について言及する。
かなり呆れ返っているのか、ため息までついている。
しかし、自分に注意されるというそんな不思議な体験をしているにも関わらず
今の正はまるで別の人に何かを言われているような表情を浮かべている。
「そんなことを言われたって・・・。気持ちよさそうだったんだもん///」
そして、そんな表情を浮かべるだけならまだしも、そんな発言をする始末。
その顔は明らかに火照っていて、目は蕩けていた。
「だ、だからといって・・・。あ、あれは・・・。」
それでもなお、かつての正は注意を促す。
しかし、内心ではそんな表情をさせている女性の快楽に興味を抱いてしまい、
そんな邪な感情をなんとか振り払おうとしている。
けれどもそんなかつての正の意図は
今の正にはあずかり知らないというのも事実。
今の正は、悪びれることなどせずにいる。
かと思うと今の正はかつての正に唐突ににっこりとほほ笑む。
「あ、そうだ!!
今度絶頂するときになったら、あなたの意識に一旦戻してあげるよ♪
そしたら、あなたにもあの気持ち良さが分かると思うの!!
ね?いい考えだと思わない??」
今の正から放たれた言葉は衝撃的なものだった。
それも神的にいい案を思いつきましたと言わんばかりのどや顔で。
ただ、この発言には一種の危うさがあった。
かつての男の正が、突然女性の快楽を味わうことになるのだとしたら・・・。
“女”に飲み込まれかねない。
そんな危機感を咄嗟に感じてしまったかつての正は
まだ顔をにやつかせる今の正を見据え・・・。
「やめ。」
「あ、時間が来たみたい。じゃあね。バイバ~イ」
かつての正が今の正の出した提案を拒否しようと声を上げた瞬間、
彼の声だけが無音になり、聞こえなくなってしまう。
それと同時に、今の正はかつての正へと
背中を向けてどこかへ向かって歩き始めた。
かつての正は彼女を止めようと、声を出そうとするもやはり出ない。
どんどん遠ざかっていく彼女の背中。
彼は彼女を追いかけようとするも、
その足は何かに押さえつけられているように動かない。
(ど、どうして・・・。どうして!!
どうしてこんなことになるんだよ!!!)
彼女の姿が見えなくなった瞬間、
彼の声にもならない叫びがその心の中でこだました。
ドンドンドンドン・・・。
誰かが扉を叩く音と誰かを呼びかける音が正の耳に届いた。
それと共に誰かがバタバタと慌てているような音も聞こえてくる。
「ふわぁ~。うるさいにゃぁ~」
まだ寝ぼけ眼のまま、正はゆっくりと起き上がると周りを確認した。
さっき自分が押し倒して、いっぱい気持ちいい事をしたお兄さんが
こちらが起き上がったのを見た瞬間、
驚きの表情を見せながら臨戦態勢を取られた。
また襲われると思ったのかもしれない。
しかし、その張本人である正はというと、先ほどの行為における副産物が
今になってきたのだろう。
襲う気力すらわかなかった。
というか、ただただ股が痛かった。
赤い斑点がシーツにあるのを確認しながら、
正はその初めて感じる痛みに思わず顔をしかめてしまう。




