第15話 3人の想い
ドンドンドンドン
「誠一君、何があったのですか??開けてください」
兼正は鍵の掛けられたドアを開けてもらおうと何度も叩きながら声をかけた。
兼正にとって誠一は自分の後継者として彼を育てていたこともあって、
孫のように感じていた。
一度教えたことはすぐに身に着けようとする誠一の態度やそれをこなす器用さ
そして何よりも素直で真面目であったこともあって、
兼正は彼を心底可愛がっていた。
だからこそ、この状況は初めての事だった。
明らかに自分が可愛がって育てた青年が何かを隠している。
それもとても大事なことを。
ハルカのこの動揺した様子を見ても、それは明白なことであった。
誠一は非常に焦っていた。
ハルカ様にこの痴態を見られ、自分に何から何まで教えてくれた
兼正さんに隠し事をしているという普段では考えられない状況。
そしてこの痴態を作り出した張本人たる少女は
こんなけたたましい音にも構わず、安らかに寝ている。
あんな娘だとは思っていなかった。
誠一は先ほどまで起きていた痴態を思い出し、顔を赤くしてしまう。
しかし、今となってはこの状況をどうにか
打開するのが最優先事項であった。
とはいえ彼女を起こすのは避けたかった。
目を開けた瞬間に先ほどのようになられても困るから。
ただ起きてくれないと解決されない問題も確かにあった。
今は布団で隠されてはいるが、情事の後ということで
下に何も身に着けていないのだ。
さて、どうするべきか・・・。
ハルカは兼正がドアを叩く音を聞きながら、頭を悩ませていた。
(あ、あの誠一があんなことをするだなんて・・・)
誠一が男性であるということは分かっていた。
そういうことをしたい年齢だということも知っていた。
けれど、誠一は徹底して、そういった性的なことを我慢し続けていた。
この屋敷に住み込むようになってから一切そのような行いをしてはいない。
これは主人たるハルカのことを想っての事だったが、
それが却ってハルカの誤解を生んでいた。
(誠一はそういうことに興味が無い。)のだと
だけど、そうではなかった。
それも判明したのが見知らぬ女性とした後という最悪な状況でだ。
もしかして、自分のあずかり知らないところでは女を
とっかえひっかえしているのではないか。とすら思ってしまう。
誠一はそんな人間ではない。
そう思おうとする度にさっきの光景が脳裏にフラッシュバックし、
ハルカの中の誠一という人間が徐々に崩れていった。
(あ~。私はどうしたらいいの?
これからどんな顔をして誠一を見ればいいの・・・?)
3人がそれぞれの想いを馳せる中、正は初めて体感した
言いようのない快楽の渦に呑み込まれながら夢を見ていた。
夢の中には、男だった頃の正と今の正の姿があった
「自分に対してこんなことを言うのもどうかと思うけど、
君ちょっと性にだらしなさすぎない!?」




