再び、月へ
カメラのフラッシュみたいに短く強い光を、まぶた越しに感じた。目を開ける前に深呼吸しようとしたけど、やり方がわからない。心臓がキュッとなる。
僕は、ほぼ確実な予感に押されるように、まぶたを開いた。
「トモ、よく来たね!」
昨日と同じ、五十センチメートルほどの距離にウサギの顔があった。白くて大きい、毛がフカフカのウサギが、僕の目の前に立っている。
……夢じゃなかった。
僕は、月に来たんだ。
「来ないかもしれないと思ってたよ」
ウサギが、鼻をヒクヒク動かしながら言った。
「なんで?」
「だって、夢だと思ってたろ?」
そりゃそうだろう。こんなこと、疑わないほうがおかしい。月を見ていたら月に立っていて、しゃべるウサギと会ったなんて。
「二日目に来ない人が多いんだよねー。夢だとしか思わないから、試してもみないんだ」
しょんぼりした様子で、ウサギは耳をなでる。毛づくろいかと思ってたけど、どうやら癖のようだ。
「じゃあ、僕以外にも来た人はいるんだね?」
自分は特別なのかと思っていたので、実は少しだけがっかりした。でも、僕は二日目にも来た。来てよかった。
ウサギは僕の問いかけには答えず、ただまっすぐこちらを見つめている。
ウサギは、ただ立っている。どうやら、僕が何かするのを待っているらしい。
僕はとりあえず、少しだけジャンプしてみた。六倍跳び上がれるかと思ってたけど、せいぜい三倍くらいに感じた。強く踏み切ろうとしても、力が入らないというか伝わらない。落ちるのは跳び上がるときよりゆっくりだ。プールの中よりは、少しましかな。
しばらくビヨーンビヨーン跳んで、息が切れないので我に返った。ピタリと着地して止まるのも案外難しく、よろけながら踏ん張ってようやく止まった。
「どんな感じだった?」
「想像と違った」
もっと超人みたく動けると思ってた。
「まあ、何でもやってみないと分かんないことあるよね」
ウサギは目を細めて楽しそうに笑った、と思う。なんだか表情が分かるようになってきた。
「ねえ、月に来る人っていっぱいいるの?」
自分は、どれくらい特別なんだろう。僕は、それが知りたかった。
「今日の質問は、それでいいかい?」
「え?」
「答えられるのは、一個だけだよ」
――「質問があれば、何個聞いてもいい。ただし、答えるのは一日一個に限る」――
そうだった、危ないところだった。
今日は、どうしても聞かなきゃいけないことがあるんだ。
「変更していい?」
「もちろん。トモが『これに答えて』って言うまで、聞くだけなら何個でも」
「じゃあ、この質問に答えて」
僕は深呼吸、できないかわりに胸の真ん中に手のひらを当てた。心臓は、間違いなく動いていた。
「僕は、あと何回ここに来られる?」