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僕が行った月の話  作者: 坂本啓
往復
5/24

不思議な夜が明けて

 目が覚めてリビングに行くと、お父さんはもう家を出るところだった。

「お父さん、おはよう。早番?」

「おお、おはよう朋哉。じゃ、行ってきまーす」

「うん、行ってらっしゃーい」

「行ってらっしゃーい、気をつけてねー」

 僕の後ろで、お母さんも一緒に見送りをする。お父さんは車の鍵をいつものように右手に持ち、お弁当が入ったバッグを左肩にかけて出かけていった。


「朋哉、ちょっと早いけど朝ごはん食べちゃう?」

 お母さんが冷蔵庫から卵を取り出しながら聞いてきた。今朝は何がいいかな。卵焼きか目玉焼きか、スクランブルエッグも好きだし。

「うん、食べる……あ!」

 突然の気づきに、つい大きめな声が出てしまった。フライパンをコンロにかけようとしていたお母さんが、ビクッとして振り返った。

「え? 何!?」

「あ、えっと、目玉焼きがいいかな! って思いついて」

「なんだ、何かと思ったー!」

「あ、ごめんなさい」

 コンロの方に向き直ったお母さんの背中を見ながら、僕は思い出していた。


「じゃあ、時間だ。またおいで、トモ」


 あのウサギ、僕のことを「トモ」って呼んでた。

(僕、自己紹介してないよな? なんで分かったんだろう?)

 ウサギは僕の心を読めるみたいだったけど、だったらなおさら「トモ」って呼ばれるのはあり得ない。なぜなら。



「さ、焼けたよ! 朋哉、運んで」

「はーい」

 僕はいつものように、ご飯や目玉焼き、味付海苔と漬け物をテーブルに運ぶ。お母さんが味噌汁のお椀をのせたお盆を持ってくるまで、箸を並べながら目玉焼きを見つめた。僕好みに固めに焼かれた黄身の部分が、薄く雲がかかった満月のように、今朝は見えた。

「さ、朋哉、食べましょ! いただきます」

「いただきます」




……なぜなら。

 僕を「トモ」って呼ぶ人は、いないんだ。

 両親や親戚はみんな「朋哉」って呼ぶし、学校では「進藤」か「ポン」だ。


 僕を気軽に「トモ」って呼んでくれる友達は、いないんだ。








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