夢か現実か
僕は、月を見ていた。
右上が暗い半月が、さっきよりほんの少し高くのぼっている。
どうやら、窓にもたれたまま眠っていたようだ。少し体が冷えている。
風邪をひけば学校を休めるけど、熱やせきでつらいのはゴメンだ。僕は急いでベッドにもぐり込んだ。
(それにしても、リアルな夢だったなあ……)
さっき眠っていた間、僕は月に行った夢を見ていた。パジャマに裸足で月面に立っていて、目の前には巨大な白ウサギが二本足で立っていた。普通に言葉をしゃべってて、触ったらすっごくフワフワで気持ちよかった。
(なんかいろいろ言ってたな……あ、顔グリグリされた)
少し体が温まってきた。横向きで丸くなっていた体を、ちょっとずつ伸ばす。寝返りをうとうとしたその時、枕元の時計が、窓から射す光に照らされて見えた。
〈0:03 38〉
「区切りは夜の0時。またぐことはできない」
頭の中で、何かがつながった。僕は腕立て伏せみたいに両腕を突っ張って上半身を起こす。時計をもう一回、確認する。
〈0:03 51〉
「時間切れの場合は自動的に帰る」
心臓の鼓動が、すごい勢いで体中を震えさせる。まさか。
〈0:04 01〉
「じゃあ、時間だ。またおいで、トモ」
まさか、夢じゃなかったのか……!?
「嘘だろ……」
心臓の音が、はっきり分かる。夢にしてはリアルすぎる。現実にしては、あまりにもブッ飛んでいる。気づけば僕は、全力疾走したあとみたいに荒い息をしていた。
〈0:04 20〉
「来るときは『月に行く』、帰るときは『地球に帰る』と意志を決めて口に出せばOK」
「え、まさか、行こうと思えば月に行ける?」
これが夢じゃないなら、僕は0時になったから帰ってきたってことだ。ということは、今行こうと思えば行けるはずだ。
〈0:04 58〉
「ここに来られるのは、一日一回、一時間まで」
いや、ちょっと待て。
今行ったら、次に行けるのはまた0時を過ぎてからだ。今夜はたまたま眠れなかったけど、明日の夜にその時間まで起きていられる自信はない。
どうせいつも十時頃には部屋に入るんだから、それから落ち着いて心を決めてもいいんじゃないか。
〈0:05 13〉
「質問があれば、何個聞いてもいい。ただし、答えるのは一日一個に限る」
そうだ、聞きたいことならたくさんある。なんで僕は月に行けたのか、ウサギは何者なのか、これは夢なのか現実なのか、そのほかにも、もっともっとたくさん。
〈0:06 07〉
「きみがここに来ている間、本体は眠っている」
本体、つまり僕の体はここにあって、意識だけが月に行ってるってことなのかな。それって夢とは違うのかな。考えれば考えるほど、訳がわからなくなってくる。
とりあえず、今夜は寝よう。落ち着いて考えて、明日の夜に月に行けるか試そう。質問を考えて、十時五十分くらいから。
〈0:07 00〉
「じゃあ、時間だ。またおいで、トモ」
もし月に行けたら何をしようか。やっぱりまずはジャンプしてみようか。いや、あのウサギの、フカフカな毛がいっぱいのお腹にダイブしようかな。
空想を並べているうちに、僕はいつの間にか眠っていた。