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僕が行った月の話  作者: 坂本啓
往復
11/24

将来の夢

 その夜もその次の夜も、僕は毎日、月に通った。

 一周探検はあきらめたけど、あちこち歩き回って観察する。カメラもスケッチブックも持っていけないから、記憶に固定しようと真剣に見た。

 ウサギはすごく優しくて協力的で、少し深いクレーターに降りたいと言ったときは、背中に乗せてジャンプしてくれた。大きくて安心できる背中。小さい頃、お父さんにおんぶしてもらった時のことを思い出す。


 月に行ってから最初の土曜日、僕は自転車で本屋に行った。うちで、好きなときに見られる月の本が欲しいと思ったから。

 月のことが載ってそうな本は、片っぱしから全部めくってみる。写真がいっぱい載っている本が欲しかったけど、値段を見たら本体価格三千円。

「たかっ!」

 お年玉の残りを持ってきたけど、予算オーバーだ。いろいろ探して、カレンダーにその日の月の見え方がついている本を見つけた。写真ではなくイラストだけど、分かりやすい。九百円プラス税、だから千円以内で買える。よし、買おう。


 ついでに他のコーナーも見ていこうと左を向くと、見覚えのある姿が目に入った。



 千葉くんは、真剣な表情で本を選んでいた。授業中でも、あんな顔は見たことがない。

 少しして、大人(たぶんお母さん)と一緒にレジに向かったのを確認し、僕は千葉くんが立っていたところに行ってみた。「会社経営」「資格取得」の棚だ。ゲームの攻略本とかかと思っていたので、すごくビックリした。

「10万部突破!」「上半期1位!」とポップがついている本を何冊か開いてみた。思ったより字が大きくて読みやすい。ほとんどマンガで解説してある本もある。これは意外だ。内容は、さすがに難しかったけど。


「千葉くん、社長になりたいのかな?」

 強引だけど人を引き付ける力はあるし、けっこう向いてるかもしれない。

「……僕、何になりたいんだろう……」

 しばらくその棚を見つめてから、僕は月の本を買って家に帰った。



「トモが好きなことって、なんだい?」


 僕を背中に乗せて移動しながら、ウサギが聞いてきた。将来、何になりたいか分からない、とつぶやいたからだ。

「好きなこと……」


「まず、好きなことや興味があることを、手がかりにしたらいいと思うよ」


 しっかりつかまってて! と言って、ウサギは大きくジャンプした。クレーターのふちをよじ登るのが、面倒くさくなったらしい。一気にビヨーン、とクレーターから脱出して華麗に着地。ちょっと、カッコいい。

「本を読むのとか、いろいろ調べるのとか」


「うんうん」


「知らないとこに行ってみたい」


「うん、ほかには?」


「ほかには……ちょっと料理もしてみたいかな……」


 この日、ウサギは時間いっぱいまで、僕の将来の夢探しにつきあってくれた。


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