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龍の檻


 部屋から一歩出ると、すぐにお手伝いさんの一人がすっ飛んできた。父を探そうかと思っていたのだが、すぐに布団の中へと戻される。そしてその後すぐに、和恵さんが部屋を訪れた。


「どうぞ、まだお休みになられてください。昨日は皆、心配したのですよ。奥様なんて、顔を真っ青にされて……。

ああ、今奥様をお呼びしていますから。すぐに来てくださいます」


 布団に寝かせた私の額を和恵さんの少し荒れた手が撫でる。やはり、唐突に倒れたことで色々な人を心配させたらしい。申し訳ない気持ちになって謝ると、逆に「こちらこそ凜さまの体調を察知できず申し訳ありませんでした」と謝られてしまった。



「……あの、おとうさまは、どうしていますか?」


 一番気になっていたことをたずねた。


「当主さまは、今朝方まで凜さまに付き添われていらっしゃったのですが、さすがにそれ以上は滞在することが難しかったようで、出かけられてしまいました。

しかし、大変心配されているご様子で、今日の夜、また凜さまの様子を見るためにお帰りになられると伺っております」


 やはり、出かけてしまったようだった。しかし、今晩かえってくるのなら、そこで父の話を聞くことができそうだ。和恵さんにお礼を言って、ほっと一安心する。恐らく、父は私に、この「一宮家」についての話をしたかったのだろうと思う。この家がどういう家なのか、ある程度思い出したが、やはり直接父に聞いておきたいこともある。とにかく今は、少しでも多くの情報を集めて、欠けている記憶を戻さなくては。




 辺りがすっかり暗くなった頃に、父は帰宅した。すぐにでも出迎えに行こうと思ったが、一日中私に体調管理がなんたるかについて延々と説教をしていた母に止められ、それは叶わなかった。しかし、迎えに行かずとも、父はすぐに私の部屋を訪れた。


「凜! もう体は大丈夫なのかい? 辛くはないかい?」


 駆け寄ってきた父は、少し疲れているようだった。額にはうっすら汗がにじみ、瞳には、濃く心配の色がにじんでいる。


「だいじょうぶです。しんぱいをかけてしまってごめんなさい」


 忙しい中で、時間を作って会いに来てくれたのだとわかり、また申し訳ない気持ちが湧き上がってきた。頭を下げると、父は優しく私の頭を撫でた。


「娘を心配するのは父親として当然だよ。そこは謝るところじゃない」

「……はい。ありがとうございます」


 父の笑顔に私は私も笑顔を返す。今世の父は、娘にとてもやさしい人だ。








 私が思い出した「桜の檻」の大まかな設定はこうだ。

 その物語の世界には、かつて龍が存在した。龍は強大な力で世界を荒らし、人々は荒れた大地で龍に怯えながら生活していた。そんなとき、一人の巫女が現れる。巫女は龍を静め、一本の剣に封印することに成功した。巫女は、龍が再び目覚め世界を荒らすことがないように、龍に檻を作ることに決める。巫女は、自ら6人の賢者を選び、彼らを「檻」とした。彼らの血を、龍を封じる鎖としたのだ。


 彼らは「檻人(おりびと)」と呼ばれた。檻人にとって「血」はとても重要なものだった。彼らの血は龍を封じるための鍵であると同時に龍を開放できる鍵でもあったのだ。もし彼らの血が途絶えれば剣にかけられた封印が弱まって龍が自力で目覚める恐れがある。あるいは龍を封じた剣に檻人6人の血を吸い込ませてしまっても封印は解かれてしまう。

 血を途絶えさせずかつ悪用させないために、彼らは「檻人」の役目を自らの子孫へと代々慎重に引き継いでいき、長い間龍の力を封印してきた。その檻人の封印を代々受け継いできた一族の一つが、今の私のいるこの「一宮」だった。

 檻人の役目は、一宮家の血が濃くなおかつ魔力の量が多いものに受け継がれる慣わしとなっていた。よって、その直系の子孫であり、魔力の量も多い一宮凜は、時期継承者となる、はずだった。

 しかし、継承式の執り行われるはずだった14歳の誕生日の前日、凜は――――






 しばらく私の体調の様子を見るように会話をした後で、父は昨日話す予定だったであろうことを私に話してくれた。龍が世界を荒らしていた時代のこと。巫女と、6人の賢者のこと。一宮が代々受け継いできた血の封印のこと。父は、昔話を語るように、5歳でもわかる内容で話してくれた。ただ、龍の封印を解く方法については、封印を受け継ぐ者の血を絶やした場合しか教えられなかった。そもそも、原作では龍が封じられている剣は極秘扱いであり、存在していると知っているのはごく僅かな人だけだったから、教えられないのは当然ではある。その剣を使って龍を復活させようなんてことを考える人がいないとも限らないのだから、少数にしか知らされないのは懸命だ。実際にそんな人は誕生してしまったわけだし。



「昨日見せた壁画は、巫女が龍を封じたときのものだ。

あの壁画は、一宮の家の子が5歳になったときに見て、今話したことを聞かされることになっている」


 「昨日お前は倒れてしまったけれどね」と、どこか心配をにじませた声音で言われて、私は少し小さくなってしまった。まさか前世の記憶がよみがえったとはいえない。無言を貫くと、父は話を続けた。


「現在の一宮の檻人は、私だ。檻人には、体に檻人の証が刻まれる」


そういって父が右の袖をめくる。腕には、檻人の印――――題名にも使われている、桜の文様が刻まれていた。うす赤く父の肌を染めている桜の文様が、私の脳裏にあった原作の文様と重なる。しかし、実際に見ると、ここまで綺麗に桜だとわかる形の文様があるというのは、どこか不思議な気持ちがする。これが継承された人間に勝手に浮かび上がってくるのだから、この世界はファンタジーなんだなと改めて思う。


 ぼんやりと文様を眺めていた私の意識を自分に戻させるように、父は袖を元に戻した。自然と父に目を向けると、父は真剣な眼差しでこちらをみていた。次に言われる言葉に心当たりがあって、私は少し身構える。



「凜。私はお前を、次の檻人にしたいと考えている」



 やはり、原作どおりの展開だった。


たくさんのブックマークありがとうございます。

とても励みになっています。

のんびりと進んでいく話なので、今後ものんびりお暇なときにお読みいただけると幸いです

*はなこ

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