13.5 放課後、恋の予感(case菜穂&翔馬)
13話の不機嫌な菜穂ちゃん目線と、一緒に帰っている翔馬くん目線です。
翔馬くんが恋を意識するきっかけがあったらいいなーなんて考えて作りました。
はっきり言うと、内容が……ないですね。
すみません。
〔菜穂side〕
「起立。気をつけ、礼。」
「「さようなら。」」
号令が終わると、いつものように、ユウリィのもとにむかった。
「ユウリィ!今日も遠回りするからさ、一緒に帰ろ!!」
「あ、ごめん。今日は…」
「今日は、オレが一緒に帰るから。寄っていくところがあるんだ。」
ユウリィが何か答える前に、ユウくんが遮った。
「えー。いつもは6人で帰ってるでしょ?みんなで帰ればいいじゃない!」
何だかユウくんがユウリィを独り占めしているようで、つい子供っぽいことを言ってしまった。
「別にいいだろ?お前らは、星と翔馬と帰れば?なぁ。」
ユウくんが突然、話をセイセイとショウくんにふった。
「別に僕はかまわないけど。どうせなら家まで送っていこうか?いいよな、翔馬。」
「うん。」
「本当に!?菜穂、せっかくだから…さ。」
お姉ちゃんの顔が紅葉を迎えていた。(笑)
お姉ちゃんってなんて分かりやすいんだろう。
「うん…。分かった。4人でかえろっか。」
しょうがない。お姉ちゃんの為だもんね。ユウくんもおれてくれなさそうだし。
「ごめんね。じゃあ、もう行くからバイバイ。」
「うん、また来週。」
「じゃあな。」
「おう。」
「また。」
みんなが口々に別れを告げる中、私だけは黙っていた。
コレぐらいはいいでしょ?少し、癪だったんだもん。何を隠したいんだかしらないけど、後をつけてやりたい。ま、やらないけどね。
ユウリィとユウくんが校門を出るのを窓越しに見送った直後、お姉ちゃんが目を輝かせてこう叫んだ。
「菜穂!やっぱり、今のはアレよね!」
「はぁ?」
「カップルだから、二人だけで帰……」
「お姉ちゃんこっち!」
私は、お姉ちゃんの言葉をぶった切ると、慌てて教室から引き吊り出した。
悲しいかなぁ〜。お姉ちゃんが何を言おうとしたのか、私には分かってしまったのです。
人のいないところ!っと思って深く考えず突き進んでいたら、いつの間にか下駄箱まで来ていた。まぁここでいいや。まだ人少ないし。
「お姉ちゃん!さっき、カップルだから二人きりで帰りたいんだよ!っとか言おうとしたでしょ!?」
「うーん、惜しい!私が言おうとしたのは、二人きりじゃなくて二人だけで……」
「そんなのどうでもいい!問題はソコじゃないでしょ?」
「え?そうなの?」
「そうなの!教室なんかで二人が付き合ってるかもーなんて言ったら、あっという間に噂になっちゃうでしょ!?」
嗚呼、これだから困る。お姉ちゃんは鈍感で、目の前で嫌みを言われても気づかないのだ。
「え?そうなの?」
「そうなの!もう!何で分からないのかなぁー!?」
ユウリィに振られて機嫌が悪かったのもあって、ついつい強めに言ってしまった。あっ!っと思った時には、もう遅かった。
お姉ちゃんは、ほとほとと静かに涙を流していた。
あー、お姉ちゃんってメンタル弱かったっけ。
「お姉ちゃん?こんなところで泣かないでよ。」
下駄箱というさり気なく目立つ所で、美女を泣かせていれば注目されること間違い無し!だ。
「だっ…だってぇ……」
「何?」
「こわい。」
「……。」
そうだった。お姉ちゃんって泣いている間、幼児化するんだった。
……嗚呼、何だか私まで泣きたくなってきた。
「おーい!二人共!」
声が聞こえた方を振り返ると、ナイスタイミング!
私達の分のリュックとスクバを持ったセイセイとショウくんがいた。
「って千津!?何で泣いてるの?」
うわーセイセイが驚いてるー!レアだー。
「だぁ……ってぇ……うわぁん……ぁぁあ……う…」
日々のストレスでしょうか。私の目からも涙が……
「うわぁあぁん!お姉ちゃんのばかぁ!うぅ……ひっく…ふぇ…」
「え、ちょっと菜穂ちゃん!?泣かないの!」
ショウくんも慌ててます。でもね……
女の子
涙は急には
止まらない。
だよ!
姉妹大泣き大会開催中です。
「とりあえず、千津引き取るよ。一緒にしとくとダメみたいだから。」
と、セイセイ。
「うん、そうしよう。行くよ、菜穂ちゃん。」
と、ショウくん。
泣きっぱなしの私とお姉ちゃんは、男子二人の言うとおりにするしかなかったのでした。
〔翔馬side〕
泣きじゃくる菜穂ちゃんの手を引っ張って歩道を歩く。
すれ違いざまに振り返って、わざわざ二度見する通行人。
きっと僕がこの可愛い女の子を泣かせたように見えるんだろうな…。
静かにため息をつき、近くの公園に入った。
ベンチの前で立ち止まり、彼女の顔を覗き込んで一言。
「ねぇ、いい加減泣き止んでくれない?」
彼女は、いつも部活やクラスで話す時と違う僕のトーンに、怯えたようにびくりと肩を震わせた。
僕だっていつまでも他人に白い目で見られたくはないのだ。察してほしい。……無理だろうけど。
「ねぇ、どうして泣いてたの?」
彼女は静かに尋ねた僕に、答えようと努力しているのか、必死に口を動かしている。
「え?ごめん、聞こえない。もう一回言ってみて。」
彼女は一度深呼吸して
「…忘れ、ちゃった、の。」
と、途切れ途切れに話した。けれど、分からない。
「……何を?」
「ど、おして、泣いてい、たか、忘れ、ちゃった、の。」
……じゃあ、なんで泣いてたんだよ!っとつっこみたくなった。
「じゃあ、もう泣き止める?」
彼女は僕の顔を見ると、深く頷き
「ど、りょく、する。」
と、いった。
まぁ……それから、15分は経っただろうか。ベンチに座って気長に待っていた僕の袖を誰かが引っ張った。
振り向くと、菜穂ちゃんだった。当たり前だ。
「ありがとう。」
一緒にいてくれて、ありがとう。
そう言って笑った菜穂ちゃんの涙に濡れた顔が夕日に照らされて光っていて……誰にも負けないぐらいきれいだった。
泣いているうちに忘れてしまうような理由で泣いていた彼女。それでも、その顔が美しかったことに変わりはない。
それ以来、僕はその顔を忘れることができなくなった。