4話 修道院の過去と、出発と
3年前の世界変遷によって、1つの事件は忘れられた。小さな村が1人の人間に壊滅された事件です。この話が本編に関わるかは未定。
記憶喪失の件についてはご都合主義です。そんな都合の良い記憶喪失が大量に出るなんて、ご都合主義です。
カーテンの開く音で目が覚める。記憶に残ってる中で2回目の覚醒の記憶である。ぐっすりと寝たからか、それとも元々寝付きが良いのか、頭がすっきりしている。体を起こし、カーテンの開いた窓の方に視点を合わせる。
「おはようございます、ユウスケさん。良く寝れましたか?」
そこに居たのは予想通り、クレラであった。太陽はまだ昇り始めなので、朝それも太陽の底の方がまだ森の地平線に隠れているので、早い時間であろう。
「おはよーございます。ぐっすり寝れました。クレラさんは、朝早いね?」
「はい。修道院では、孤児の子供達に規則正しい生活を送って欲しいので、早起きの習慣があります」
「そうなんだ。きっと良い大人になると思うよ」
「ありがとうございます。そうなってくれる様に、私達シスター一同、努力を重ねますね。では、こちらに着替えを置いておきますので、お着替えが済みましたら下に降りてきて下さいね? ご飯が用意されてますので。」
「あ、着替えまで用意してくれて、ありがとう」
「いえいえ。コレ位させて頂かないと、主に怒られてしまいます。では、お先に下に降りていますね?」
ユウスケのお世辞にクレラは丁寧に言葉を綴り、用事を告げ、ドアに手を掛ける。シスターらしい振る舞いに圧倒されたユウスケは、改めてクレラはシスターなのだと認識した。どうしても、天然なイメージで固定されてしまっている。少ない時間で人を判断してはいけない。ユウスケは自分を戒めた。
クレラが部屋から出た。ユウスケは彼女を困らせてはいけないと思い、直ぐに着替え始める。
「あ、二度寝は勘弁して下さいね? あ、すいません!」
上着を脱いだ所で、何故かクレラがノックも無しに冗談を言いながら部屋に入ってきた。ユウスケの上半身だけだが、裸を見てしまったクレラは慌てて部屋から出る。ドアの向こう側で思いっ切りこけた音が聞こえる。困った様に笑いながら、ユウスケは素早く着替えを済ませた。部屋をさっさと出て、下に降りる。
「あの、先程はすいませんでした!」
「あ、いやいや。大丈夫だよー」
「ユウスケさんが二度寝しそうだったので、つい……」
どうやらクレラはユウスケの事をだらしないと思っていたようだ。少ない時間で人を決め付けるのはやっぱり良くない。再々度、そう思った。とは言え、自分の記憶も碌に無いので、もしかしたら寝坊をしていたのかも知れない。ともかく、どちらも人を短期間で判断したって事で半々て事で良いかな? ユウスケは自分の中でそう決着をつけた。
「あの、ユウスケさん。すいません」
「あ! いや、俺もクレラさんの事を決め付けていたので、半々だよ」
ユウスケが自分の中で決着を付けている顔が厳しいモノであったので、クレラは怒らせてしまったのかと思い、神妙な面持ちで謝った。ユウスケは自分の中で決着をつけた答えを告げる。
「あ、そうなんですか! ありがとうございます。……あれ? でも、どんな事を私に対して思っていたのですか?」
墓穴を掘ったとユウスケは思ったが、優しいクレラの事だから許してくれるだろうと思い、その心を打ち明けた。
「いやー。天然かなーっと、思っちゃって……」
「そんな事はありません! 絶対無いんです!」
「え、あ、はい……」
「あ、すいません。興奮してしまいました。でも、天然じゃないですからね!」
凄い勢いで否定されてしまった。この勢いの良さ、もしかしたら良く天然と言われてるのかも知れない。気まずい雰囲気が流れる。空気を変えようと、ユウスケは気になっていた事を質問した。
「そういえば子供達って、見ないよね? 話では居るみたいですけど……」
「えーっと、それはですねぇ……」
言い難そうに視線を彷徨わせる。あれ? 地雷を踏んだかと思いながら、言わなくても良いという意思を伝えようと口を開こうとする。
「もしあれっだったら、……
「すいません! 実は記憶喪失と名乗る怪しい男と、子供達を接触させる訳には行かないって言うのが、修道院の総意でして」
「あー、成程。確かに、怪しいもんね」
「大丈夫ですよ! 少なくとも私は信じています!」
どうやらクレラさんしか信じて貰えてなかったようだ。フォローのつもりだろうけど、逆に傷ついた。でも実際そうだよな。怪しい人間だったら、困るもんな。
「あ、それよりも! お腹が空いちゃったんだけど……」
「あ、そうでしたね。では、ご飯にしましょうか? では座って待っててくださいね~」
クレラさんが困っていたので、話を変える事にした。丁度お腹も減っていたし。それにしても他のシスターにも会えないってのは、よほど警戒されてるのだろうか? ちょっと、悲しい気分だ。
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「え!? この後、直ぐに王都へ向かうの?」
「はい。シスター長が、行くなら早い方が良いと……」
「そうなんだ~」
朝食を共にしてる中クレラが急に今日、王都に行く事を告げた。その顔は申し訳なさそうだった。なんとなく、クレラが考えたんじゃないんだろうな~っと思いながら、パンをちぎって食べる。
「用事がありましたか?」
「いえ。用事も何も、記憶すらないよ?」
冗談を言ってみる。しかし、クレラはくすりとも笑ってくれなかった。逆に困らせてしまった。困らせてばかりで申し訳なく感じたユウスケはパンを置き、謝罪する。
「それにしても、僕ってやっぱり来ない方が良かったよね? 迷惑だったよね」
「そ、そんな事ありません! シスター長は追い出そうとした訳では!」
「やっぱりそうなんだね。ごめんね、迷惑掛けて……」
「違うんです! ユウスケさんが悪いんじゃなくて! 実は……」
ユウスケがこの孤児院に来る少し前、他のシスターが行き倒れた男を連れて来た。神の教えの元、その男に食事を与え、部屋を貸し与えたらしい。それから暫く経ち、男が来てから1ヶ月が経とうとしていた。男にそれとなく職を薦めるも無視され、段々と横柄な態度をとるようになっていったらしい。
その内、子供達に暴力を振るう様になってきたので、修道院から追い出す事が話し合いで決まった。次の日、男の部屋に出て行かせようと決意し、シスター達が向かうとそこには大量の盗賊が居たらしい。実は男、盗賊のリーダーでこの修道院をターゲットにしたらしい。そして何よりショックだったのは、男を連れて来たシスターもグルだったのだ。
この世界のシスターは魔獣と戦うお仕事でもある為、盗賊の男達に苦戦を強いられる事は無かった。しかし元同僚、しかもその強さは修道院の中では2番手だったシスター、ミル。彼女によって、何人かのシスターが殺されたのだった。子供達を逃がしていたクレラが戦闘に戻ってくると、ミルはすぐさま逃げ出した。実はクレラ、ミルに圧倒的実力差を見せ付けられる程、強かったのである。
結局盗賊達は全員、死んだ。ミルはそれを逆恨みした手紙を残し、失踪。その後、修道院では子供以外の受け入れをなるべく拒否していた。
「成程。そんな過去があったなら仕方ないね」
「いえ、仕方ないなんて事は無いのです。申し訳ありません」
「よし! じゃあ、すぐ食べて王都へ行こう!」
「え?」
「王都が楽しそうだからさ!」
また、暗い雰囲気になってしまった。そんな雰囲気をぶち破るため、ユウスケは空元気なテンションで王都について聞く。クレラはユウスケの優しさに感謝しながらその質問に答えて行く。そうして、食事の時間は過ぎていった。
そして、2人は旅立つ事になる。とりあえず王都までという考えであったが、大きな運命の渦に巻き込まれ、壮大な旅路になる事を2人はまだ知らない。
4話までご閲覧頂きありがとうございます。修道院について書いていたら、切りがよくなったので区切りました~。
という訳で次話から、次話には旅に出ます!
以下、前話の後書きと同様。