限られた時間。
僕はいつものように学校から帰りタバコを吸っていた。
僕の部屋は禁煙だ。
高校生の僕がタバコを吸っているのが親にバレると何かとうるさい。
だからいつも机の中にいれてある灰皿をベランダにもっていって外で吸っている。
それでも匂いは残るからもう親にはバレていると思うけど……。
もう11月に入り外は微妙に肌寒い。
「もう冬になるんだな。」
僕は冬よりは夏のほうが好きだ。
暑く、ギラギラ太陽が照っていて、セミがやかましいくらいに鳴いている。
夏の空気が好きだった。
今日はバイトだ。
中村さんに会えるんだ。
バイトき行くのが久しぶりに感じていた。二日間休んだだけなのに……。
「今日は携帯番号を聞くんだ!」
妙に気合いが入っていた。
でも不安のほうが多かった。
ちゃんと聞けるんだろうか……?
あんまり考えだしちゃダメだ。
いつも悪いほうに考える。
僕の悪い癖だ。
自分に自信がないのだ。
「とりあえず早めに行こう」
一人でいるといろいろ考えてしまって耐えられなくなった、
急いで着替えて外に飛び出した。
自転車にまたがり全力で左足からこぎだした。
家から自転車で五分と近い所にある。
畑に囲まれた曲がりくねった道を行き、その先には幼稚園がある。
僕が通っていた幼稚園だ。
でも僕が通っていた頃とはだいぶ変わっていて懐かしいという感じはない。
幼稚園をこえると短いけど急な下り坂がある。
ビューっと下ると今度は緩やかだけど長い上り坂だ。
息を切らしながら上ったら、そこはもうバイト先だ。
バイクがほしいなぁ〜っていつも思う。
ファーストフードの裏に回り鍵がかかっているドアがある。
そのドアをノックすると中にいる誰かが出てきてドアを開けてくれる。
コン!コン!!
ガチャ!!
「あれ〜?早いねぇ。また学校サボったな!」
山下さんが開けてくれた。桜井さんの彼女だ。
いつも笑っていて明るくて。でも機嫌が悪い時は話もできない。
喜怒哀楽が激しい人だ。
「違いますよっ!学校が早く終わって暇だったから早めに来ただけですよ。」
「嘘はいいから。中村さんでしょ?」
しっかりバレてる。女って何かと鋭い。
「違いますって!!暇だったから!」
ハイ、ハイ。って流された。
中に入ってすぐに着替えてイスな座った。
まだバイトの時間まで30分以上もある。
もうすぐ中村さんが来るはずだ。
胸がドキドキした。
だんだん気持ちが弱きになっていった。
「中村さん遅れるんだって。」
それ、早く言えよ。
かなりガッカリした。それでちょっとだけ……。ほっとした。
「そうなんですか……。でもなんでですか??」
何故か心配になった。
「わかんない。心配なのぉ??」
またバレてる。すこし笑いながら言われた。
「違いますっての!!」
声をあげて笑われた、
そんなことを話しているとバイトの時間になり、僕は仕事を始めた。
夕方の六時だというのに店は混んでいた、
店内はかなり騒がしい。
みんな焦っていた。
「良樹!早くこっちきて手伝え!」
って桜井さんに言われた。
「はい!」
急いで手伝いに走った。あまりの忙しさに目が回ってしまった。
30分くらいでだんだん騒がしさはなくなった。
それでやっと落ち着いた。
その時、
「遅れましたぁ!すいません。」
やっと中村さんがきた。
なぜか目を合わせられなかった。
「早く着替えて仕事にはって」
と店長が言うと、はいっと返事をして奥にいった。
「ついに来たね。」
また山下さんがからかってきた。
この人に弱みを握られるとチャカされる。今後は気を付けよう。
しばらく話していたら、
「久しぶりだねっ!」
いきなり僕の背後に立っていた。
僕の心臓がドキって鳴ったのがわかった。
「そうですねっ」
緊張して何を言えばいいのか分かんなかった。
中村さんはニコっと笑って自分の仕事を始めた。
ハァ〜〜っと一息つくと僕も仕事を始めた。
ところが僕はまったく仕事に集中することが出来なかった。
同じ空間にいるだけで緊張して何も考えられなかった。
これが恋なんだ!
時間だけがどんどんと過ぎていった。
今は仕事に集中しよう。
仕事が終わればすこしは話す時間があるんだから。
そんなことを考えていたら、
「お疲れさまです!」
中村さんが先に仕事を終わらせた。
「あっ。お疲れさまです。」
かなり焦った。早く仕事を終わらせないと先に帰っちゃう。
ところが中村さんは突然店長のほうに向かって、
「店長!ちょっと話があるんですけど……。」
店長は疑問な顔をしながら
「ん?なんだ?」
と言った。 中村さんがいつもと様子が違うのに気付いて、二人は店長室で話し始めた。 そんな二人を気にしながらも僕は仕事を進めた。
10時近くになって僕がやっと仕事が終わり、イスに座ってタバコを吸っていると中村さんが店長室から出てきた。
イスに座りふぅ〜〜っと一息ついた。
「店長と何話してたんですか?」
思い切って聞いてみた。すると中村さんはなんだか辛そうな目をして、
「私、辞めるの。」
「えっ?バイトをですか?何でですか??」
思わず声が大きくなった。
「就職が決まったの。」
「えっ?そんなんですか?おめでとうございます!いつ辞めちゃうんですか?」
おもでとうなんて思ってもないことを言ってしまった。
これがらだって思った時に突然の別れなんて……。
ショックだった。ショックが大きすぎた。
「今月いっぱいで辞める。」
今月いっぱい?あと一週間しかない!短すぎるよ。
「そうですか……。でも就職が決まってよかったですね。俺、そろそろ帰ります。」
何も言えなかった。
その時の僕にはその場を逃げることしかできなかった。
あと一週間……。
この短くて限られた時間で何ができるんだろ……?
その夜、僕は寝ることができなかった……。




