風になりたい
僕は今、あの場所にいる。
君と話がしたくてまたこの場所にきてしまった。
あのバイトで二人は出会って、限られた時間の中で無限大の恋をした。
世界中のたくさんの人の中で二人が出会った奇跡。
二人が同じ国、時代に生まれた奇跡。
二人が一瞬だけど結ばれた奇跡。
しかし、二人が永遠に別れなければならなかった運命。
いろいろ考えていると、目に涙があふれて乾いたコンクリートに落ちた。
……何でだよ 少しだけでもいいから話してくれればよかったのに。
笑っている君を思い出すと涙がとまらないよ。
弱いなぁ俺って。
一生ひくずるのかなぁ??なんでだろ?今、とっても会いたいよ。
会って抱きしめたい。
ギュって強く抱きしめたいよ……。
その時風が突然吹いて流れていた涙を乾かした。僕は今。君を感じた。
「もっと強くなろっ」
って言葉が僕の心に飛んできた。
僕は走った。
バイクにまたがり直線道路をどこまでも。
どこまでも。
このまま空気と一体化して風になりたかった。
転んで頭でも撃って君の所に行きたかった。
でも俺にそんな勇気がある訳もなくゆっくりとスピードを落としてそのままゴロンと倒れた。
下から蒸しあげるような土の温かさ。
そして体を包み込むような草の匂い。
この感覚が好きだった。
ずぅーっと寝転がっていたかった、もう現実には戻りたくない。
ここにいると君に抱きしめられているような心地よさだった。
いつまでもこうしていたかった。
「オレ、やっぱ強くなれないよ。」
その時風が気持ち良く吹き抜けた。




