武の最後の言葉。
肌を刺すような冷たい風。
輝く星空。
どこまでも続く土手の道……。
僕はこのドライブを一生忘れない。
このドライブで武は死んだ……。
僕は絶対忘れない。
おまえのこと。
武が最後に残した言葉を………。
絶対に忘れない。
「飛ばすからなぁ!遅れるなよ!」
武が白い息を出しながら言った。
「余裕だから!」
いつもの道……。
いつものドライブ……。
楽しかった。
嬉しかった。
ただいつもと違うのは………。
僕が武に対する態度が違っていた。
ありがとう。
その言葉が溢れていた。
失恋した僕を励ましてくれているのだから。
「良樹は免許とりたてだから気を付けろ!」
僕はついこの間免許を取ったばっかりだった。
テストの前に学校をサボり取りに行った。
免許を取ったら、すぐに武にドライブに誘われた。
今日は5回目のドライブだ。
「運転上手くなったから大丈夫だよ!」
「そっか!」
そして二人は走りだした。
真っ暗な土手をアクセル全開で。
武の後ろを走るのが好きだった。
なんとなく………安心できるというか……。
うん! 安心できるからだ!
20分くらい走ると道が細くなった。
バイク一台がギリギリ通れるスペースだ。
それでも武は恐がることなくアクセルをゆるめない。
僕も離されたくない一心で必死についていった。
しばらく走ると遠くの方に一時停止の標識が見えてきた。
武が標識に近づくと……。
ザザァーー!
武が砂利で滑った。
「危ない!」
思わず叫んだ。
猛スピードのまま、武とバイクは大きな音をたてて倒れた。
だかスピードはなかなかおさまらないで武とバイクは地面を滑っていった。
そしたら武の目の前には標識があった。
ガッ!
鈍い音がした。
標識の棒の部分と武の首が激突した。
「武ーー!」
僕は自分のバイクを捨てて、走って武の所に駆け寄った。
首が………。
「武!武!」
僕は武の頬を叩いた。
武に反応はない。ぐったりと倒れている。
やばい……。
「おい!武!おい!」
僕は強く頬を叩いた。
すると……、
「ん…、んん………。」
なんとか目を覚ましたようだ。
武は弱々しい声で喋り始めた。
「やっちまったな……。」
武の体から血がドクドク出ていた。
右手、右脇、右足が地面に削られでまともに見れないくらいの状態になっていた。
「喋んなくていいよ!」
もうどうしていいかわかんなかった。
「あんまり落ち込むなよ。」
武の言っている意味がよくわかんなかった。
「喋るなって!今救急車呼ぶから!」
「もう無理だから。一つだけいいか?」
「何言ってんだよ!諦めんなって!助かるから!」
「一つだけ……。」
何か言いたいことがあるらしい。
僕は焦る気持ちを押さえて聞くことにした。
「何?」
痛々しい声で武は話し始めた。
「良樹…。自分に自信を持て……。そうすれば大丈夫だから……。」
その言葉を言って武はゆっくり目を閉じた。
「おい!武!おい!おい!………。」
武の重い目は閉じたままだった。
「ちくしょーー!!」
悔しくて叫んだ。
「絶対助けるからか!」
どうする?
救急車待ってたら間に合わない。
それに………
道が狭い。
救急車は入ってこれない……。
俺が運ぶ。
絶対それの方が速い。
僕は武の体を抱きかかえバイクの後ろに乗せた。
それで勢いよく走りだした。
武にもう力はない……。
ぐったりしてる……。
急がないと……。
急がないと!!
病院までは10分……。
助かる……。
絶対に助かる!!!
しかし病院についた時には武は息をしていなかった。
もうその口から僕の名前を呼ばれることは二度となかった……。




