初恋という未来。
「あと一週間。あと一週間しかない。」
焦った。
かなり焦っていた。
そして僕は大変なことに気付いた。
テスト期間ということで六日間バイトを休みにしていた。
ってことは会える日は後一日しかない。
「どうしよぅ……。」
絶望的だった。
でも諦めるという発想はなかった。
諦めて何になる。後悔するだけだ。やるだけやりたい。そう思った。
テスト勉強もまるで身に入らない。
どうしよぅ……。
それだけが頭の中を行ったり来たりしていた。
そして時間だけがもくもくと過ぎていった。
何もかも捨てて逃げ出したかった。勉強も、恋愛も。
でもそれじゃ今までと変わらない。
今までそうやって生きてきた。そうやって逃げてきた。
変わらないと。今日から。今この瞬間から、変わらないと。
僕は手紙を書いた。
もし自分から話せなかったらこの手紙にたくす。
弱気なことだが何もしないで終わりたくなかった。
『手紙ですいません。
今日でバイト辞めちゃうんですよね?俺、中村さんに出会えたこと嬉しいです。
でも今日で会えるのが最後ってのは嫌で……。
携帯番号、書いときます。090-****-****
連絡待ってます。
清水良樹』書き終えるとカバンの中に丁寧にしまった。
明日、中村さんは最後のバイトだ。
そのこと考えるとなかなか寝付けない。
‐これが恋なんだ‐
なんとも言えない感覚だった。
この感覚をこれから先も、20歳、30歳になっても忘れちゃいけない。そう強く思った。
いつのまにか朝がきた。
もう11月下旬なので肌寒く息が白かった。
でも太陽がサンサンと照っていて眩しかった。
「最後のチャンス。最後の一日なんだ!」
僕はフゥ〜〜っと息を吐いて、よしっ!っと気合いをいれた。しかし、
今日しかない。
っと不安だらけだった。
大丈夫だろうか。もし失敗したら。
考えるのはよそう。
とりあえず学校に行く準備をした。ご飯食べて、歯磨いて……。
「じゃ行ってくる。」
親に一声かけてドアを開けた。
「遅せぇぞ!」
懐かしい声がした。びっくりした。
「あれ〜?武じゃん!久しぶりだなぁ!どうしたん?」
武!昔からの親友でいつも一緒にいた。
でもここ一年くらい連絡がとれなかった。
「久しぶりだなぁ!ちょっとどっかで話さないか?」
俺は学校があることも忘れて、久しぶりの再会に喜んだ。
とりあえず二人は近くの公園に行った。
「この一年間。何してたの?」
俺は一番疑問に思ってたことを聞いた。
「東京でバイトしながら暮らしてた。」
「東京かぁ!一人暮らし?」
「いや、ホームレス。公園で。」
俺は驚いた。
友達がホームレスをしているとは思ってもいなかったからだ。
俺は興味がわいていろいろ聞いてみたくなった。
「どんな家なの?」
「テントみたいな家だな」
「そうなんだぁ!あとさぁ〜〜……?」
自分が体験したことがないことを体験してきた武がうらやましかった。
人にはいろんな生き方があるんだ。そう思った。
それから俺はたくさんのことを質問した。
驚くことばかりで自分とのスケールの違いに少しヘコんだ。
「んで、良樹。おまえはどうなの?」
「じつはさぁ……。」
俺は今好きな人がいること。
その子が今日でバイトを辞めちゃうこと。
そして今日、番号を聞こうとしていることを話した。
「まじで?おまえに好きな人ができるとはなぁ!びっくりだな!」
「それ、バイトの先輩にも言われた。」
そうなんだっ!ハハハぁって笑われた。
なんでそんなイメージが………??
「いいか!良樹!」
「ん?」
武が真剣な目で話始めた。
「恋愛って成功しても失敗してもいい経験になっていい思い出になるんだ。だからビクビクしないで迷わず行けっ!!」
今の俺にはその言葉の意味がよく理解できなかった。
今から一年後、この言葉の意味と深さを俺は知る。
「分かった。」
武と話できてよかった。なんだか勇気がわいてきた。
「ところで良樹。学校は?」
「あっ!!!……………………今日はいいや。」
武との久しぶりの再会に忘れていた。
「悪いことしたな。大丈夫か!」
「大丈夫、大丈夫!今しかできないことは今やるんだよ。」
「変わってないなぁ!良樹は!」
二人で笑いながらバイトの時間まで話した。
そして別れ際に、
「今度、電話するから結果教えろよ。」
「わかった。」
そして武は家に帰った。
これからバイトだ。
胸がギュッとしめつけられる感覚がした。
大丈夫……。きっと大丈夫。
そう自分に言い聞かせてゆっくりとペダルをこぎはじめた。
初恋という未来に向かって。




