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とあるダンジョン保険外交員の日常

作者: モコナッツ
掲載日:2026/04/04

※ 役立たず鑑定士を追放した配信サークル、崩壊する〜レアドロップが逆転した俺と最強少女〜とは別視点の短編です。世界観は地続きです。

 土日、祝日、ゴールデンウィーク、盆休み、シルバーウィーク、正月休み。


 仕事仕事仕事仕事仕事。


 あー、めんどくせー。


 ギルドの仕事はなかなかにブラックだ。近年の配信ブームのせいで、探索者は年々増加し、それに伴って、営業時間の拡大や、フロー変更など、業務も多様の一途を辿っている。


 今日も世間様はお休みなのに、俺はこんな所で時間を端金に変えている。


 34歳、御手洗航平。つまりは俺の一日が、無為に消費されていく。


 憂鬱を嘲笑うかのように、片耳につけたイヤホンからは、やれ有名探索者が今日もレアドロップを持ち帰っただの、やれインフルエンサーの熱愛が発覚しただの、どうでもいいニュースが流れていた。



 その時、電話が鳴った。俺は背もたれに寄りかかりながら欠伸を一つして、誰かが取るのを待った。


 皆んな忙しそうだ。

 別の電話に応対中の課長が、声を弾ませたまま、目でこちらを刺した。笑いながら睨むとは、器用な男だ。


 仕方なく受話器を取った。



「大変お待たせいたしました。探索者ギルド東都中央本部、ダンジョン保険課の御手洗でございます」


 早口言葉の要領で告げる。


「そちらの保険解約したいので、用紙送って欲しいんだけど」


 相手の男は、無遠慮な声だった。


「承知しました。それでは証券番号か、お名前とご生年月日をちょうだいしてもよろしいでしょうか」


 すぐさまメモを取って、端末を叩く。


 36歳。Eランク探索者。ダンジョン専用死亡保険1000万。契約日は半年前。うわ、これ早期解約じゃん。担当者かわいそ。で、受取人は奥様、と。


「確認いたしました」


「差し支えなければ、今回の解約理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「保険は無駄だからやめようと思って」


 一言だった。


 じゃあ何で入ったんだよ、と少し笑いそうになったが、向こうは早く切らせろ、と言った調子だ。


 こちらもお前と話したいわけじゃない。

 マニュアルだから訊いてるだけだ。


「一応、確認ですが」

 前置きをする。


「ダンジョンでの死亡事故は民間保険の対象にならず、社会保険も削減の対象になります。もしも、万が一の場合、ご家族様のご負担になりますが、本当に解約してもよろしかったでしょうか?」


「そう言うのはいいから」と、男が言った。


「かしこまりました。それでは明日、普通郵便で発送いたします。お電話ありがとうございました」


 男が切ったのを確認して、受話器を置いた。


 大袈裟にため息をついて、天井を仰ぎ見る。一仕事終えた感じを出す。


 こうすることによって、次は別の奴が取る可能性が爆上がり。

 まあ、そうなればいいな、って話。



……んじゃ、書類作りますか。



 ここ一、二年。解約がどんどん増えている。


 税金やら物価高騰やらで、国民の生活ガー、と、マスコミは連日騒いでいるし、現場を知らない”自称”金融インフルエンサーは、


『ダンジョン保険に入るくらいなら、そのお金でポーションを買った方がマシ!保険は損!今は資産運用!』


 とかなんとか言って、SNSで無知な奴らを日々食い物にしている。

 まあ、探索者で飯を食ってるのはこっちも同じだが。


 個人的には、保険も入る余裕もないのに何で探索者なんかやってるのか、甚だ不思議なんだが。



 …まぁ、どうでもいい。

 別に俺が困る訳でもないしな。


 ほい、完了っと。

 早くやめたそうだったし、一応、速達で手配しておくか。俺って、やさしー。





 俺がこの男の死を知ったのは、それから二ヶ月後の事だった。


 それは、同僚の林の一言だった。


「そう言えば御手洗、お前が解約受けてた◯◯って奴さ。先週死んだぜ」


 天気の話でもするかのように、穏やかな口調だった。


 しばらく誰のことか分からなかったが、記憶の隅をつついて、ようやく先日の無遠慮な声を思い出した。


「え?マジ?」


「マジマジ、さっき報告書で上がってたぜ」


 男は保険の他に、探索者組合の拠出年金に加入していたらしい。節税になるやつだ。もちろん保障は皆無。


「あーあ」

 一応、渋い顔をして、煙草に火をつけた。


「だーから、言ったじゃん」

 じゃ、これは追悼の一服だ。

 心なしかいつもより、美味い。


「どこで死んだの?何層?」

 フー、と吐いて、俺は続けた。


「貝浜のダンジョンで。二層」


「Eランクの癖に二層とは、剛毅だな」

 煙が散らかった。


「流石、半年で解約するだけのことはあるわ」

 林がおどける。


 コイツ、よっぽど暇なんだなと俺は思った。


「…まぁでも」

 少し、林が真顔になる。


「奥さんは可哀想だな」


 一瞬、沈黙。白い煙が溶けていく。



 少しだけ、電話口の男の事が頭をよぎった。


「何で妻子持ちで、探索者なんかやるかね」

 林は続けた。


「金無いんじゃね?金ない奴ほどギャンブルとか、アホなビジネスにハマるからな」


「じゃあ俺らと同じじゃん」

 林が笑った。


「間違いない」

 そう言って、顔を見合わせた。

 お互いに、声を出して笑った。


「午後、行きたくねー」


「新人探索者の説明会?地味に面倒だよな。この前なんか、『手数料はいくらですか』って訊いてきた奴いたんだが。勘弁してくれ、マジで」


「影響受けすぎだろ」

苦笑した。


「まあでも、必要だしな」

最後の煙を吐いた後、灰皿に煙草を押し付ける。


「そろそろ行くか」


今日も探索者は、夢を追ってダンジョンに向かう。

危険だが夢のある仕事。危険はないが夢もない仕事。

果たしてどちらが幸せなのか。


……まぁ、どっちでもいいか。


「林、置いてくなよ」


午後はもう少し暇になればいい。そう思った。


ここまでありがとうございます。

思いつきですが、好評ならまた本編の合間にたまーに書こうと思います。メインで書いてる小説も、よかったら見てやってください。

ちなみに私は金融業じゃないので、本職の人いたら、ツッコミお待ちしてます。

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