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漆喰さんの前に暖かな湯気が立ち上る。

漆喰さんはそれには手を付けずに、背筋を正した。それだけで、シワ一つないネイビーのスーツ姿がより美しく見えた。


「さて、事故物件に着いてはこれで正しく認識して貰えたと思う。肝心の事故物件だが『難波、梅田。駅近でオートロック付き。トイレバス別。築浅。月三万から四万』なんて普通、口が裂けても言えない」


口が避けなくても言ってしまった私である。ひょっとして聞いていたのですか? と、聞き返したくなる台詞だった。


目をそっと外の景色へと向けて「はい。私もそう思います」と言った。


「でも、そんなあり得ない要望でも事故物件なら紹介出来る」


その言葉に私の要望として、事故物件でもできたら快速が止まる駅近く。

トイレバス別。八万程だったら助かると現実的な要望を伝えて正直に今、求職中ではあるけど貯金なら少しはある。

ハローワークで失業保険を申請している。などなど、家を出たい理由をやんわりと伝えた。


漆喰さんはふむふむと私の話を聞いたあと、長い腕を緩く組んだ。


「これは──提案なのですが。家賃は入りませんので俺が指定した事故物件に、住み続けると言うのはどうですか?」


「指定した事故物件に住み続ける?」


なにそれ。


「はい。率直に言うと階さんの力……その白狐の力を貸して欲しい。階さんが事故物件に住むことで、事故物件は事故物件で無くなる」


そんな、人間事故物件クリーニングみたいに言われても。


「さらには階さんが事故物件にたくさん住むことにより、物件の回転率を上げれる。特に除霊などでも祓いきれない、Sクラスの凶悪事故物件でも階さんを放り込めば、いえ。住んで貰うことによって解決する」


今、私を放り込めばと言った。

しかし、家賃が入らないと言われたことの方が気になった。


「でも、それは住居を転々とすると言うことですよね。そんなことをしたら、事故物件が無くなるから……事故物件を取り扱う、漆喰さんは困るのでは?」


思ったことを、そのまま言うと漆喰さんはふっと笑った。


「カンがいい。確かに事故物件が無くなると俺の商売上がったりだ。心霊系YouTube、オカルト芸人もさぞ困るでしょう。だから、俺が指定した事故物件だけに住んで欲しいんです。日本から何も、事故物件を駆逐したいわけじゃない。そう言った理由は企業秘密です」


企業秘密を聞いたところで、私がなにかできるわけじゃ無さそうなので、そこは「わかりました」と言うだけにした。


「あと、住居を転々とすると言うより。拠点をちゃんと置いて、そこから泊まりに行って貰うと言う感じかな。毎回引っ越しは面倒だろうしね」


それはありがたいが、すぐには頷けない。


「なるほど……つまりは、その拠点が家賃はタダっていうことなんですね?」


「えぇ、そうです。その拠点から、ちょっと関西を中心にアチコチ行って貰う可能性がありますが、私生活まで影響することはないかと」


「その本当にタダなんですか?」


「はい。タダでもいいほどに階さんの『無差別爆撃浄化テロマシーン』の能力は貴重だ」


……なんか、単語が増えた気がしたけど。

聞き返す暇もなく。

漆喰さんはジャケットからスマホを取り出し、ことりと机の上に置いて次の言葉を喋った。


「拠点となる家は、事故物件なんかじゃない場所を用意しよう」


にっこりと笑う漆喰さん。

私は少し考えてみる。


今提示された内容だと、本拠地を構えることで、いちいち引越しする手間が無くていい。

事故物件に宿泊するとしても、私に取り憑いている白狐様がなんとかしてくれるみたいだし。

そもそも事故物件と言われる、曰くのある部屋だと知って、ずっと住むより気持ち的には楽だ。


これは私の妙な体質も分かって、さらには活かせる、イイ話しなのではと思ってしまった。

だが、ここで食い付いてはアレかなと思って迷った素振りをする。


「なるほど……因みに。拠点となる家ってどこですか?」


私の問いに待ってましたと言わんばかりに、漆喰さんはテーブルの上に置いていたスマホをサッとタップして、家の画像を私に見せて来た。


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