⑤
漆喰さんの行動や事故物件を扱っていると言う背景を考えれば、私の秘密を打ち明けても問題ないと思った。
私の秘密は家族しか知らない。友達にも言ったことがない。
それを初対面の漆喰さんに言ってしまうのは、私と真逆の人だから。
もしくは綺麗なオリーブグリーンの瞳に、少し当てられたせいかもしれなかった。
「凄いですね。私は──その逆です。私の家は神社を経営しています。でも私には全く幽霊とか見えません」
「へぇ。神社がご実家。因みにそれは稲荷神社だったりする?」
ズバリ当てられて、びっくりするけど漆喰さんは満足そうに頷くだけで私の話しの先を促してきた。
「そうです。稲荷神社です。そこの娘ですけど、霊感なんて本当になくて。幽霊の声も姿も私には見えません。でも、私が曰く付きの場所や物とか。私を前にすると絶対に何も起こらないんです」
「絶対?」
私は過去にあったことを説明した。
神社に持って来られた、髪が伸びる、動く、人を呪うエトセトラな人形や呪物は私を前にするとそんな妙なことは一切起きず、お父さんが粛々と焼いて終わる。
友達と一緒に、心霊スポットだと言われる場所に行ったこともあるけど、幽霊を見たことはなかった。
それらは幽霊や呪いなど目に見えないものは当たり前だから、不思議なことは起きない──じゃなくて。
おばあちゃんが言うには、私には強力な守護霊が居てそれが勝手に悪いものを排除しているのだと言う。
それは本当かどうかわからない。
事実として私には幽霊は見えない。
ただ、普通の感覚として暗がりは薄気味悪いとか。人気がなくて不気味だと思うことはあっても、そこに幽霊がいて怖そう、みたいな。
幽霊に怯える感覚はないと、言うことを漆喰さんに伝えた。
すると漆喰さんはスーツの上着から紫水晶の数珠を取り出して手首に付けてから、じっと私を見た。
「──白狐か」
「びゃっこ?」
「宇迦之御魂大神の神使として、かなり位の高い狐……それが君に憑いている。いや、君を恋人だと認識している」
「狐? 私が恋人っ!?」
びっくりして少し大きな声をあげてしまった。
漆喰さんなそれに動じることなく、私をじっと見つめる。
ちゃりっと手首の数珠が揺れる。
「あぁ、だから君に害をなす者や特に異性を、無差別に排除しているのか。これは凄いな……おっと、そんなに毛を逆立てないでくれ、俺は敵じゃない。何もしない」
じっと私を見つめていた漆喰さんがすぐに私から距離を取って、数珠を取った瞬間。
ビキリと。なんと漆喰さん前にあった、ティーカップが綺麗に真っ二つに割れた。ソーサの上に少し残っていた珈琲が溢れた。
「え、えっ!?」
驚く私に対して漆喰さんはソファに深くもたれて、数珠をスーツに戻しただけ。
こう言った不足の事態に慣れた様子で、やれやれと言った様子で苦笑していた。
「これは白狐に威嚇されたかな。尻尾が孔雀みたいになっていた。でも、わかった。階さんは無差別爆撃浄化マシーンになっている」
「む、無差別爆撃浄化マシーン?」
聞き捨てならない単語にビックリする。
「あとこの白狐は嫉妬深い雄で、階さんの男運まで食べている節がある」
「男運を食べるっ!?」
ま、待って。それはさらに聞き捨てならない。由々しき事態である。
「私、実は……すごく男運なくてですねっ。好きなった人はことごとく、転校するわ、入院するわ。挙句、推薦でするりと女子校、女子短大と進んで、一念発起して合コンに行けば突然の台風。マッチングアプリを使えばサーバーダウン。お見合いの話が出ても相手は何やら宗教家と言うのも、全部私に取り憑いている者のせいなんですかっ!?」
漆喰さんはにっこりと笑いながら、スタッフの人に向けて手を上げた。
「話が逸れたね。男運にいては事故物件に関係なかった。話を戻そうか」
いや、個人的には戻さなくてもいいのにと思っているとスタッフの人が来た。スタッフの人の前で男運がどうしたとかは流石に聞きずらい。
仕方なく、少しぬるくなった紅茶を飲む。
スタッフの人はテーブルの上で不自然に割れたカップを見て、驚いたあと平謝りしていた。
そしてすぐに新しいものを用意すると、割れたカップを運んで行った。
その様子に私の男運について話すのはなんとなく、躊躇われてしまったのだ。
とりあえず勿体ないし、残りのティラミスを食べることにした。
そんな気持ちでも食べたティラミスと紅茶は、美味しい。絶品である。それで、なんとか自分の気持ちを宥めた。
ふと、自分の肩や背後をチラチラみるけど白い狐なんか見えない。もどかしい思いをしつつ。
私がご馳走でしたと言うのと、新しい珈琲が届くのは同時だった。




