表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/42

ふんっと鼻息荒くして、また部屋に籠ろうとしたら、ババアがむんずと『私』の腕を掴んで「ユカリちゃん。お願いだから部屋から出てきて。お願い。民生さんが来てるのよ」と、しがみついてきた。

ババアのクルクルしたパーマが腕に絡みつくようでウザい。


──気持ち悪い。


お前らはいつだって世間体しか頭がないくせに。カルマによって正しい反応ができないくせに!


ぶわっと怒りの気持ちが膨れあがって「放せ!」と手をめちゃくちゃに振り回すと、ぼうっと突っ立っていたジジイにぶつかり、ジジイが手にしていたマロンケーキが廊下にぐしゃっと落ちた。

まるで吐瀉物。


ふっ。いい気味だと鼻で笑うと、ジジイが突然怒った。


「食べ物を無駄にするな!」


あぁ。今言うことがそれかよ。

ジジイはいつだってズレている。そんな『私』の落胆にも気付かずに、二人は私の体を掴み、ジリジリと廊下へと引き摺り出して、階段の前まで引っ張られたとき。


いつの間にか廊下に落ちたマロンケーキを踏んでしまい、足を滑らせた。


──あ。

落ちる。


でも手摺りを掴んで踏ん張ろうと思ったら。

ドンっと背中を押された。

それは落ちろと意思を持った、掌底を突き出すような押し出し方。


え?


そう思ったときには、ずだだっと頭から階段の下へと落ちてしまった。

老害どもの悲鳴がする。


痛い。すごく痛い。頭も体も痛い。

頭からぬるぬると生暖かい感触が頬を伝う。


とても痛くて言葉も出せず、ぴくぴくと身体を震わせることしかできない『私』の耳に、信じられない言葉が飛び込んできた。


「ユカリが勝手に転んだ。いいな。これは事故だ」


「……はい」


はぁ?

なにを言っている。

落ちるとき、どちらかが背中を押したくせにっ!


「ユカリが勝手に転んだ! 誰か救急車を!」


違う!

背中を押されたからだ!

あぁ、そうか。

お前たちはそういうことにしたいのか。

くそ。視界が暗くなってきた。

痛みももう感じない。

私が死んだら──。


呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。


呪ってやる!!


呪詛のように黒くて、ドス黒い感情に呑まれる前に私──階宮は、ユカリが倒れていた階段の下に立っていたことに気が付いた。


意識をユカリから引き離された感覚。

不思議だ。

周りは誰もいない。

倒れたユカリもいない。

相変わらずがらんとした殺風景な玄関。


──とんでもない恨みの感情を体験したと、背筋がゾクリと震える。


しかもこれは事故じゃなくて、故意的な事件じゃないのか。

ユカリは両親に殺された可能性があって、薄ら寒くなった背筋が凍りつきそうだと思った、その時。


あ、あ、あ、あ……。

妙な声が聞こえた。

なんだと顔を上げる。

同時にずるずると何か重いものを引き摺りながら、こちらに向かってくる音がした。

それらはすべて、階段の上から聞こえてくる。


あ、あ、あ、あ……。

ずる。ずる。

あ、あ、あ、あ……。

ずる。ずる……。


段々と近づいて来る音に、私が「嫌だ!」と強く思うと、目の前に白くて綺麗な光がふわっと現れた。

光は次第に形を成していく。

狐のシルエットに大きな尻尾が四つ。


ふわふわと揺らめいて、これはまさか白狐様?

そう思うと、光の輝きが増して視界が真っ白に染まった。


階段の上から絶叫が聞こえる。

まるで断末魔のような声だ。

訳がわからなくて、眩しくて目を閉じる。


──階さん。

光のなか、誰かが私を呼ぶ声がする。

でも私は眩しくてなにもできない。


──階さん。起きて。

ええから、起きろ。いつまで寝てんねん。

……事故物件で熟睡する女とか、メンタル極太で凄いな。ちょっと俺でも引くわ。


なんか聞き捨てならない台詞に意識が急にクリアになって、言葉が口から飛び出した。


「誰がメンタル極太だー!」


がばりと、今度こそ私は寝袋から体を起こすと、目の前にオリーブグリーンの瞳。

宝塚女優みたいに綺麗な顔をした、スーツ姿の男性が私を不審そうに見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ