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事故物件にお泊り!

ドキドキで入った初めての事故物件は、意外なほどに綺麗な物件だった。


PDFには昨日、家の清掃が入ったばかりだと書いてはあったが。意外というか、なんというか。


「引っ越しが終わったあとの家みたい」


玄関に揃えられた一組のスリッパが、余計にそう思わせるのかもしれない。

広々とした玄関。なんの飾りもない靴箱。二階へと続く階段。真っ直ぐな板張りの廊下。

家全体から古い本の匂いがした。空気はなぜか外よりもひんやりと感じる。


当たり前だが、人の気配はない。

壁や天井、そして廊下――家を形成する材質がじわじわと冷たい空気を取り込んで、人の気配を追い返している……なんてことは、気のせいだろう。

ずっと玄関に立っていても仕方ない。


「お邪魔します」


靴を脱いでそろそろと家に上がり、花柄のスリッパに履き替える。

今からここで私は朝まで自由に過ごしていい。

さっき漆喰さんが二階を見て奇妙なことを言っていたので、二階には上がらない。絶対に上がらない。

本日は一階だけで過ごしたいと思った。


「だって、ほら。この家は誰かの所有物だし。他所様のお家をアチコチ見回るのは良くない」


君子危うきに近寄らず。

……自ら事故物件に飛び込んでおいてアレだけども。そういうことにしておこうと、ぎゅっとバッグを握りしめながらペタペタと廊下を進む。まずは一階の部屋の位置を把握しようと思った。


それから一階の部屋を探索したが、本当に至って普通の家だった。

一階は台所と一緒になったリビング。水回り、小さめの和室があった。

家具などは一切なく、広々とした空間に私の息遣いと、外を通る車の音や人の気配が広がり、より部屋の空っぽさを引き立てていた。


部屋の床や壁に変な染みがあるとか、開かずの扉があるとか、そんなことはなく普通の間取りだ。

埃も積もっていない。水も電気もちゃんと利用できる。

ちょっぴり懸念していたお手洗いは、洋式でホッとした。


ぐるっと探索して、一階はなんの問題もなく過ごせると感じた。拠点はリビングでいいだろう。

閉めっぱなしのカーテンを開けて、カラカラとベランダの窓を開ける。

さあっと部屋に入り込んで来る、外の空気が気持ちいい。


「ベランダの外は中庭なのね。へぇ。中々広いんだ」


窓を開けると、足元には縁側というより縁台のような簡素な木の足場があった。

庭は殺風景で何も生えていなかったが、壁の縁にわずかに花壇の跡が見られた。

きっとこの縁台に座って眺める中庭は、かつての住人の心を和ませたのだろう。


「でも、ここは事故物件になったんだよね。ホント、何があったのかな」


空に問いかけるように顔を上げれば、薄らと月が昇っていた。夕焼け空から夜空に変わるのもあっという間だろう。


「あんまりお腹減ってないけど、さっさと食事をして、早めに寝ちゃおっと」


それが良いと考え、再びベランダの窓を施錠してカーテンを閉める。


リビングの中央に置いていたボストンバッグから、寝袋やブランケット、支給品のタブレット端末、充電器などを次々と取り出して、夜を迎える準備をするのだった。

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