③
それから漆喰さんの車で事故物件がある場所に移動することになった。それは大阪の泉南エリア某所。
泉南エリアとは大阪の南の地域。
私的には関西空港がある地域、と言うぐらいの認識しかなかった。
その事故物件の家に辿り着くまでに私は助手席にて、漆喰さんが送って来たPDFを見たり、ボストンバッグに入ったお泊まりセット一覧を確認したり。
友達に宿泊のアリバイ作りを連絡したりしていた。
その結果、短大友達の架紀ちゃんが、快くオッケーをしてくれて、代わりに今度付いて行って欲しいところがあると言われた。私もオッケーだとメッセージを返した。
気がつくと車窓の景色は背の高いビルはなくなり、背の低い建物。住宅街、マンション。普通の街並みに変わっていた。
京都では景観条例があるから、目につく大きな看板とか。やたらとカラフルな色をした大型ドラッグストアに電気量販店。それらがちょっと珍しいなぁとか思って、外の風景を見つめていたら漆喰さんに声を掛けられた。
「あと一五分ぐらいで着くが、その前にコンビニに寄るからそこで必要なものを購入して欲しい」
風景から完璧なEラインを有している漆喰さんへと視線を向ける。
今から行く事故物件は電気水道は通っているけど、火とお湯は使えない。
それを見越して、ボストンバッグには小さめな電気ケトル、ボディシート、エチケット用品などは既に準備されていた。
さすがに女性用下着は無かったので、それを真っ先に購入したいと思った。
「はい。えーと、今から今日の夕方から明日の朝まで、私は事故物件に泊まる。夕食と朝の軽食などを用意したらいいんですよね」
「そうだ。ボストンバッグに簡易の寝袋、ジャージも用意しているから、使う使わないは好きにしたらいい」
「資料も読みましたけど、私は本当に泊まるだけでいいのですか? 宿泊中、行動の指定とかはないみたいですけど」
PDFにはオカルト系YouTubeとかがよくやる、定点カメラの設置やスマホで写真を撮りまくるとかいう、そういう指示もなく。ただ普通に過ごせという指示しかなかったのだ。
「あぁ、泊まるだけでいい。あくまで普通に夜を過ごして欲しい」
前の信号が赤信号になり、車が緩やかに止まった。漆喰さんがチラリと私を見る。
「今回の物件は住宅街の中にある。周囲にはもちろん人が住んでいる。先に言ったように、防犯はしっかりとされている事故物件だ。万が一不審者の侵入、想定外の事案が発生したら、その場を退避して警察などを頼って欲しい。安全第一。今回は初回につき、俺も近くに待機する予定だ」
「そうなんですか?」
「近くにネカフェがあるからそこに泊まる。何か困ったことがあれば、すぐに連絡してくれ」
それは大変心強い。
事故物件が怖いというより、見知らぬ土地と家で過ごして何かあったらどうしようという不安があった。
「そうだ。さっとPDFに目を通しましたけど、泊まる事故物件の由来というか、なぜ事故物件になったのか、原因とかの記載が無かったんですけど」
漆喰さんのオリーブグリーンの瞳がすっと前を向いた。
「それは明日の朝、伝える。前情報として階さんに余計なノイズを入れたくない。階さんが事故物件という認識だけで泊まってほしい。あぁ、だから事故物件について、その家の検索は禁止でお願いする」
漆喰さんがそれにと、言葉を付け足す。
「階さんは幽霊が怖いわけじゃないが、不気味だとは感じる気持ちはあるんだよね」
「はい、一応」
「事故物件で何かあったか詳しい状況を知ったら、それは……今から一人で泊まるのに、スリルや恐怖を味わいたいということかな?」
「!」
赤信号から青になり、
漆喰さんは苦笑しながら、車をまた走らせる。その横顔に訴える。
「いえ、全く味わいたくありません。失礼しました。知りたくないです。絶対に調べません。でも、終わったら知りたいです」
「そこは知りたいんだ。素直だな」
「気になるじゃないですか。そうだ、因みに私に取り憑いているという白狐様は、今も本当にいるんですか。あとあと、あの紫の数珠を付けると霊が見えやすくなるとかですか?」
──本当は『健照教』『漆喰輝夜』について聞きたいけど、きっとパーソナルな気がしたから、聞けそうなことを羅列してみた。
すると漆喰さんは苦笑した。
「学生に質問されているみたいだな。あぁ、若いってことはいいことだと言う意味。だから怒らないでほしい」
本当かなぁと思いながら、つい眉根を寄せてしまうが素直に続きを聞く。




